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5.行き先

ルートは出発前に決めていたから、出発してからは道の確認はするけど基本的には道の本数を数えて間違えないようにするだけだ。


だから僕達は他愛ない話をした。


僕は魔法使いを目指している話とか、大通りのお店で食べるならあそこがいいとか。



そうして人通りがなくなった道を行く時。


「──そういえば、私が好きだったお菓子屋さんが最近潰れちゃって──」


前から一人の黒ずくめの男が僕たちと──正確にはエレミアとすれ違うように歩いてきた。


「──行きつけだったから悲しかったんですけど、今回このクレープ屋さんが美味しいって教えてもらって──」


一応、僕はちゃんと警戒していた。

ただ、その警戒はあまりに日本人的で、足りなかった。



──だから、男が袖からナイフを取り出してエレミアに刺そうとした時、僕は咄嗟に左手を間に挟むことしかできなかった。





「──え?」


「クソ、バレてたか」


「黒ずくめを警戒しない方がおかしいだ、ろ!」


ナイフが縦に手に刺さったので、挟んだ左手を握りしめた状態で男を蹴り飛ばしナイフを奪う。

代償に左手が完全に死ぬが、現状特に使い道のない左手一つで一つ武器を手に入れたなら正直安いね。

左手のナイフを右手で引き抜き、魔法が使えるように人差し指だけ立てたまま構える。

このゲームの痛覚は一定以上の刺激にならないタイプらしく、貫かれた左手が若干痛いくらいで行動の邪魔にはならない。


いつもなら魔法以外の武器はサブウェポンだけど、魔法をまだそんなに習熟してない今ならリーチが短いこととモーションアシストがないことを差し引いてもメインウェポン級だろう。


「エレミア!」


「ひゃい!」


「あっちに──」


エレミアを逃がそうと後ろを見たが、後ろの路地から二人黒ずくめが来ていた。


「いや──」


前方を見れば今いる転んでいる男の他に二人黒ずくめが現れたところだった。


「クソ、逃がせないか」


「ど、どうすればいいですか?」


「……逃げられそうになったら逃げて。そうなるまでは僕がなんとかする」


「……わ、わかりました……」


エレミアの声は震えていた。


とりあえず僕は、起き上がろうとしている男に向かって水の魔法を撃ち、当てる。


「クソッ、なんだこれは!……なんともないか?」


そして冷却の魔法を使う。


「いや、寒い、痛い……」


1.5mくらいしか離れてなかったから2秒で水のかかった顔が全て凍結し、声が消えた。


念のため他も見ながらもう少し凍結しておく。


追加で2秒冷却したあと、冷却を止める。



そして見回す。



「……おい、分かるか?」

「……構えから魔法らしいということしか」

「……チッ、使えないな。全員警戒態勢!」


一人の男がそう言うと、四人全員が道を塞ぐように位置取って距離を取る。

あれがリーダーか。

心なしか他の男たちより動きが手慣れてる感じだ。



正直、一気に来る決断をされなかったのはかなり都合が良い。


が、対人戦は情報戦だ。

顔には出さない。

むしろ若干都合が悪そうな顔を作っておく。



とりあえず距離を取ってくれたので、壁に近づきながらそれぞれの敵に向かって水の魔法を使って水を散らしていく。

壁に近づくのは視界に敵を全員捉えて、エレミアに接触するためには僕を超えなければならないようにするため。

敵まで距離があるので全て避けられるが、石畳に水が落ちる。

……実証はしてないけど、冷却単体で凍結することに賭けてみるしかなさそうかな、これは。


「二番、敵の情報を明らかにしろ」

「はっ」


一人が前に出てくる。

それに合わせて水の魔法を撃つが、既に見ているからか分かっていたように避けられる。


しかし、僕の手にナイフがあるからか近づいてこない。

膠着状態を生み出すことには成功した。


不利ではあるが、これで勝負の土台には乗れた。

今僕の持つ手段の中に手札と呼べるものがほぼないのが辛いところだけど。


男は走り回り、僕の水をちゃんと避けて、徐々に接近してくる。


──そろそろ無駄撃ちはしたくないな。


魔力量が心許なくなってきた。

……ナイフでの戦闘も視野に入れるか?


そう思った瞬間に男はこちらの虚を突き接近してきた。


反射的に水の魔法を撃つが、それを避けて男は引いていく。


こうしていればいずれこっちの魔力が切れると知っている動きだ。


──こいつら対人戦上手すぎかよ!


対人戦は詰める技術が求められる。

状況から導き出される必然の有利不利を俯瞰で掴み、有利側は有利を保ったまま甘えた相手の行動を咎め、不利側は状況逆転のために手を打つ。


不利は間違いなく僕たちだ。

全てにおいて不利──人数でも、ケガの状況でも、守る対象がいる状況も、魔力が尽きたら戦闘手段がほぼないことも。

だから、相手は攻めない。

攻めるフリをして待てばいい。

攻めてきた時のための対処を僕はしなければならないから。

僕が対処をしなくなったその時に攻め込めばいいから。


不味い。

水の凍結減衰低下を使うか?

いや、アレは今のところ切り札だ。

一度使ったら更に距離を取って対応される。

4人中、前後の1人ずつで合計2人が水を踏んでいない。

2人倒しても残り2人に勝てる保証はない。


なら、近接戦闘か?

恐らく5割も勝てる確率はないが、1回勝てれば状況がまた動く。

その結果水を踏む人数が増えることはあり得る。


──どうする?


……今凍結して2人倒したとして、ナイフ1本で残り2人は正直無理だ。

無事に勝てる確率が3割と考えると、仮に2回1対1をできたとしても、10%も勝率がない。

そんな賭けに出るわけにはいかない。


なら、一度近接戦闘を仕掛けた方が──





そう考えたとき──突然脱力感が僕を襲った。


僕は立っていられなくなって膝をつく。



──なんだこれは。



「やっと効いてきたか」

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