3.魔法
扉をくぐり抜けると光が広がり、目が慣れるとそこは異国の地だった。
日本では考えられないほど広い大通りに人々の流れができている。
どの建物にも蔦が絡みついていて、まさに緑の国って感じだ。
僕が出たのは大通りの突きあたりのところ。
後ろを向くと、これまた緑に包まれた宮殿があった。
僕は宮殿の足元に出たみたいだ。
「うーん、どこなら人目が少ないかな」
初めて魔法を使うのに周りに人がいると暴発した時良くないんだけど。
やっぱり人通りが少ないのは大通りから直角の方向だろうか。
すれ違う人たちの影を見てみるけど普通で、僕のようにノイズがかかったような影はない。
ということはこれが全部NPC──《ティエラ》なのか。
あまりジロジロ見るのもマナーが悪いからあまり見れないけれど、それでもこのゲームの凄さの一端を見た気がする。
どこから行くのがいいかな、と適当に脇道を物色していると、出てくる人も入ってくる人もいない道を見つけた。
道を見ると、人通りが圧倒的に少ない。
これは、この先なら割と近いんじゃないか?
僕はその道をまっすぐ進み始めた。
そうして五分もせず人のいない路地に辿りついた僕は、満を持して魔法を使い始めようとしたのだが、
「──そういえば、コンソールの開き方教えてもらってないな」
僕は世界観を聞いて満足した過去の僕に呪いをかけることにした。
メニュー!
ステータス!
コンソール!
オープンコンソール!
プロフィール!
インベントリ!
スキル!
スキルツリー!
と、一通りありがちなワードを念じたり口に出したりしてみるが、反応がない。
そこまでやって僕は思った。
「……これもしかして、このゲーム、メニューないやつか?」
──このゲームはモーションアシストが一切ない。一切だ。
wikiの文言が浮かぶ。
そこまで拘るなら、メニューがまるごとなくてもおかしくない。
「ログアウトしてみて確認するか」
ログアウトが念じるだけで無事にできるなら、多分これはバグとか見落としではなく仕様なのだろう。
「──ログアウト」
そう言いながら念じると、僕の体は末端から透け始め、3秒ほどでその場から消え去った。
僕の次の視界は慣れ親しんだ《ガーデン》だった。
「おお、ログアウトした。ということは──」
僕はすぐにファイルを起動し再びログインした。
「──どうやら、仕様っぽいね」
コンソールのない世界。
どこまでリアリティを追求してるんだこの世界は。
となると、魔法の発動方法は自分で探さなきゃいけないことになる。
でも人間の思考パターンなんてどれだけ膨大な量があると思ってるんだ。
何がヒントがないと現実的じゃないぞ。
……よく考えたら、このゲームを始める前にアリスが何もヒントをくれなかったのは、僕達がこれまでやってきたゲームの中に魔法の発動の類事例があるからな気がする。
だって、そうじゃなかったら、アリスが魔法の発動方法を知らずに魔法を成立させたか、あるいは、アリスは魔法の発動方法を調べて知っていたけれど僕にそのヒントを残さなかったことになる。
でもアリスが理不尽な発動方法を秘匿して僕に勝ちに来ることは絶対ない。
アリスはいつも正面から僕を打ち倒しに来ていた。
だから、アリスは魔法の習得は僕が当然できるものと考えたんだろう。
とりあえず、アリスを信じて色んな魔法発動方法を当たっていこうか。
まあ、世界観とリアリティから考えるなら、念じるのが一番可能性高そうだよね。
ということで、最初に『魔法使いの庭』式魔法を試そうか。
『魔法使いの庭』は、僕達の中で流行った神ゲーで、サービスが終了しなければ今でもやってたんじゃないかと思うようなゲームだ。
ゲームの内容は……今はどうでも良くて、魔法だ魔法。
『魔法使いの庭』は感覚で魔力を動かして魔法を発動するという、『感覚魔法』と呼ばれる魔法がシステムに組み込まれていた。
この世界ではまだ魔力なんて欠片も感じないけど、なんかいい感じに鳩尾を中心に感覚で円を描いて指にその波を届かせる──
そうすると、前方下に構えていた指から水がちょろっと出た。
「おお」
そして同時に、鳩尾の辺りから少し何かが減った感覚が生じた。
「それでこれが魔力か」
初期状態は現実と同じ感覚、魔力を消費すると減った魔力に応じて感覚が変化していく、って感じかな。
理論の存在する魔法なら、こうして一回使えてしまえばあとは検証の時間だ。
強く軌跡を描くと消費魔力が増える代わりに水の量と勢いが増えた──即ち魔法が強くなる。
別の軌跡を描くと、不発だったり火が出たり──つまり別の性質の魔法が出たりする。
発生箇所を別の場所にすることもできたけど照準の合わせやすさから基本的には指先から発動するのが丸そうだ。
面白いのは魔法の性質だ。
不発だと思った魔法には、パッと見ではわからないけど僕が出した水を凍らせていた物もあって、多分それぞれ全然違う性質があるだろうことが読み取れた。
凍らせる魔法は序盤は強いと相場が決まっている。
生物は基本的に温度変化に弱いからね。
そういう意味では火もいいんだけど、森に燃え移るとヤバいことになるから序盤頼るのは難しい。
だからとりあえずまずは水魔法と冷却魔法を習熟しようかな。
水をかけて、冷却して凍結させるのを一度軸にしよう。
水なしでもちゃんと凍結するかもしれないけど、体をいきなり実験台にするわけにもいかないし検証手段が現状ないから今のところは水と凍結でセットとしておこう。
そうやってしばらく練習して、水をかけるのと冷却して凍結させるのが、ワンアクションとワンアクション、合計で2工程でできるようにはなった。
そして、ちょっとした収穫も手に入れた。
発生させた水を伝播する冷却は距離の減衰が少ないらしい。
何故そうなるかはわからないけれど、事実としてそうだった。
武器が届くような至近距離じゃないと冷却効率が低いのが現状の弱点だけど、水で距離を結構埋められるし、結構良いんじゃないか?
次は攻撃手段だ。
色々試してる中で石が出力される描き方はもう見つけていたので、それを強化するのを考える。
最悪これで出した石を投げて攻撃するのも考えてたから後回しにした格好だ。
とりあえず、まっすぐ飛ばすこと、速度を上げること、塊を大きくすること、を念頭に練習だね。
投石、ゲームによっては強いんだよね。
特に物理演算をちゃんとやってるゲームだと、力を乗せて投げやすい、密度が高い、速度が出る、と、威力が出やすい条件を満たしているから。
と考えながら石の魔法の練習をしていく。
そこそこの石を投げる以上の速度で飛ばせるようになったところで、僕の魔力が尽きたようだ。
集中から覚めると身体のダルさが僕を襲った。
「うわ、集中してたから気づかなかったけど、このゲーム結構ちゃんとダルいタイプだ」
一応、鳩尾を引っ掴んで無理やり引っ張り出せばもう一回くらい魔法は使えそうだけど、その場合命を削る感じになりそうな感覚がするから今は終わりかな。
魔力切れも、ゲームによって全然扱いが違う。
ただ数値として扱うゲームだと何もないけど、精神力として扱うゲームだとこのゲームみたいにダルくなったりする。
「ま、今のところは終わりかなー」
一旦なんとなく戦えるようになったものとして、僕は休憩するために大通りへの道を戻り始めた。




