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21.精練

私がそれに気づいたのは、反射的にそれが描く軌道に剣を割り込ませ、甲高い金属音が鳴り響いた後だった。


幼少から騎士としての訓練を受け自分よりも速い攻撃に対処する手段を学んでいなければ、この攻撃からクロン君を庇うことはできなかっただろう。


それだけ意識外からの奇襲だったし、それだけ尋常じゃない速度と力だった。



「──ふむ、これが防がれるか」


時間増幅魔法を発動しながら攻撃の出所を探ると、長身の男が居た。

黒い長髪に、黒のコート、そして黒い槍。

コートの胸の辺りには刺し傷と思わしき穴が空いている。


──死体の中に隠れていたのか。


数あった死体の中で、一つだけ胸に槍を突き刺されていた死体があったのは見ていた。

それがどういう仕掛けだったかは分からないが、この男は私たち捜査をしに来た人間を奇襲するために潜伏していたらしい。


状況の理解は済んだ。

私がまずするべきことはクロン君を守ることだ。


「クロン君は下がれ!」


私はクロン君と刺客の間に体を割り込ませて言った。


男は余裕そうに槍を構え直してから攻撃を繰り出してくるが、私を越えてクロン君を狙う攻撃を、私は防ぐことしかできない。


クロン君が狙われているというのもそうだが、単純にこの男が、今の──時間増幅魔法を使っているだけの私より強い。


このまま防戦一方では、間違いなく勝てない。

団長、副団長も強いが、この男の前では数として数えられないだろう。

そうなると、私が個としてこの男に勝つしかない。


──私は今ここでこの世界での戦闘スタイルを完成させて過去の私を超えよう!




クロン君が槍の届かないところまで下がってくれたのを見届けて私は成長のための試行を始めた。


私が今するべきことは、全ての魔法を十全に使うこと。


時間増幅で見て、身体強化を当て、その合間に身体制御で体勢を立て直す。

そして危機的状況は物質強化でカバーする。


見る。振る。当てる。

まずはそれだけでいい。


時間増幅を止め、身体強化を回す。

そうすると、思っていたよりも時間の進みが早く、想定していたよりも手前になってしまい、弾かれるように私の剣が上に上がる。


──引き戻す頃には次の槍が来る。


次の攻撃に合わせて剣を振り降ろす。

今度は振るのが早すぎて危うく空振るところだった。

私の思い描いている軌道とはまだ齟齬がある。


「ほう、戦いの中で成長するか」


返す余裕はない。


ただ私は次はどうするべきかを考え続けていた。


突きを受け流し、薙ぎ払いに剣をぶつけて止める。


そうして剣を交えるごとに──私の剣と魔法が少しずつ噛み合っていく。



「──ふむ、このまま成長され続けるのは良くないな」


男が突然踏み込み、私の後ろにいるクロン君を射程に収めようとする。


私はそれを防ぐために男の胴を薙ぐが、振った時には男は既に引いていて、私は剣を振った分の負債を受ける。


男がニヤリと笑った。


「そんなにあの男が大事か?」


ああ、私はあらゆる人を守るための《騎士》だ。


「──ならば、やはりあちらを狙おう」


男の赤い舌が見えた。



そこからは防戦一方だった。

魔法を試す段階は超えた。

身体に馴染みもした。

実力はほぼ同じと言っていいだろう。


ただ、私には守るべき友がいて、相手にはいない。

それだけの差で私と男の戦いの戦況は大きく傾いていた。


男の攻め方はこちらの状況を少しずつ悪くしていくものだった。

防げるが次が苦しくなるという手を、連続してこちらに押し付けてくる。

かと言って、一手受けるということはできない。

男の狙いはクロン君だ。

私が一手見送ると、それはそのままクロン君への一撃になるだろう。

クロン君は私のような鎧もないし、先程の引くまでの反応速度を考えるとその攻撃を目で追えるかすら危うい。

つまり、私は一撃も通せない。


崩れた体勢を魔法を使って立て直す余裕すらない。

私は崩れかけた体勢のまま、男の槍を防ぐことに集中する。



そして、私の体勢が完全に崩れた時、男が狙ったのはクロン君ではなく私だった。


その時、私は助かった、と思ってしまった。


──物質強化。


これまでとは比較にならない、金属が大きく撓んだ音がして、私は後ろに吹き飛ばされる。

しかし、空中で体勢を整え、着地はできた。


──敵の判断ミスがなければ、クロン君の命はまた失われていた。


気合いを入れ直せ。

私は《騎士》だ。

《騎士》はその後ろにあるものを守るもの。


……そうだろう?私よ。

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