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《Ark of Dawn》──《AoD》は、最近にしては珍しくインストーラのない、ダウンロードしたファイルを起動するだけで始められるゲームらしい。


アリスの貼ったページは有志の作ったwikiらしく、そこにそう書いてあった。

ダウンロードは結構かかるだろうしwikiでも見てようか。


wikiのメニューを見れば、ダウンロード以外についても色々情報がありそうだ。

国について、魔法について、初期武器について、etc.(エトセトラ)色々なことについてのページが作成してある。

魔法に関してはネタバレを食らいたくないので避けるとして、一旦国と初期武器の2つを見てみようか。



国について


国は五つあり、それぞれ色をモチーフにした国になっていて、それぞれの国に対応した守護精霊がついている。

以下五国とその守護精霊を羅列する。


赤の国:ディレクタス

赤の精霊:レッド・ドレッサー


青の国:──



「ふーん、色モチーフかー。ま、所属が決まってからでいいかな」



初期武器について


このゲームは初期武器も路銀もない。

完全に肉体一つから成り上がる必要がある。

しかし、このゲームではその辺の石を割って打製石器にして当座を凌ぐことはできるのでそこは悲観する必要はない。

鍛冶屋に廃材ありますか、と聞いていい感じの金属の棒か何かを調達してもいいだろう。

どちらかというと戦い方の方が重要だ。

それに関しては以下のページで解説している。

→初期の戦い方



「初期武器ないタイプのゲームねー、あるある。魔法も杖通さないと発動できないとかあるのかな。威力下がるくらいだったらいいんだけど」


と言いながら、初期の戦い方をクリックしページを切り替える。



初期の戦い方


結論から書こう。

このゲームはモーションアシストが一切ない。

一切だ。

ここまで徹底しているゲームはそうないから驚く人もいると思うが、驚いても仕様は変わらないから焦らずにこのページを読み込むように。

ただ正直、モーションアシストありで戦闘したことがある人は簡素なモーションをなんとなく真似してあとは勢いで行けばなんとかなる。

だからここではモーションアシストですら近距離戦闘をしたことがない場合についての話をしよう。


戦ったことのない人の戦い方は簡単だ。

初心者のうちは魔法を軸にする、これだけだ。

そうしながら、既に倒した敵に遭遇した時は少しずつ敵との距離を詰めて近距離戦闘に慣れるんだ。

魔法に関しては魔法のページで解説している──



「うわー、モーションアシストもないのか。結構要求キツいねー。最初から魔法使えるっぽいのはいいけどなー」


モーションアシスト込みの戦闘は結構こなしてきているけど、モーションアシスト無しの戦闘はそんなにしてきていない。

そういうのはルトの得意分野なんだよな。

自分からモーションアシスト外してゲームしたりしてたくらいだし。


とか思っていたらコンソールの通知が鳴った。

もうダウンロードが終わったらしい。

早いね。

サーバーにデータ集積してるタイプのゲームなのかな。



「ま、事前情報はこれくらいかな」


ゲームはプレイ時間が物を言うからね。

いつも通り困ったら外で情報を得る方針で行こう。


「さて、行こうか」


僕はダウンロードしたファイルを実行した。





瞬間、視界が切り替わり、僕の周りは緑溢れる書斎になっていた。


「──あら、今日は来客が多いのね」


部屋の中心に置かれた執務机の向こうに大人しそうな雰囲気の緑髪の少女が座っていた。

少女は口に運んでいたティーカップをソーサーに戻し、こちらに向き直す。


「初めまして、私はグリーン・アイビー。緑の国、ヘデラの精霊よ。この世界に刻む貴方の名前は何かしら?」


緑の国の精霊でグリーン・アイビー。

これは、僕が始めるのは緑の国ってことかな?


「僕はクロンダイト」


「クロンダイトね。貴方の名前が世界に承認されたわ。次は、貴方の身体を作りましょう?」


名前が世界に承認された、面白い言い回しだ。


そう思っていると、机の横に現実の僕の《ガーデン》で使っているアバターが現れた。

普通だったらここでは自分の本当に体が出るんだけど、僕は弄ってるからアバターなんだよね。


通常、VRデバイスに作成してもらってデバイスに保存することになる身体情報は実際の身体の情報から弄れないようになっている。

でも僕はアングラなゲームもするから専用のツールを使ってそれをアバターに書き換えてあるんだよね。


「うーん、今回も弄らないで始めようかな」


僕は結構キャラクリは凝るタイプだ。

なんだけど、この作ってもらったアバターをかなり気に入っているから変に弄るくらいならこのアバターのままでもいいかな。

魔法が僕を待ってるし。……なんかこのアバターにしてから毎回キャラクリスキップしてる気がするな。


黒髪い程々の長さの髪に白めの肌、青い目。

僕の身体から大きく逸脱できないから身長はそのまま175cm、筋肉量はそこそこ。

顔立ちは大人しめで顔がいい、ただ無駄なイケメン感はない。

基本表情は穏やか、八重歯なし、ホクロなし。


いつも通り良い造形だけど、アバターとは関係ないところで一つ気になるところがある。


「なんか、影が変じゃない?」


アバターは止まったままなのに、地面に落ちた影がノイズがかかったように揺らいでる。


「この世界ではあなたたちはこういう影になるの。《ティエラ》──私たちの世界の人々はそんなことないのだけれど。そうなる理由は私にはよく分からないわ」


「そうなんだ」


理由はわからない、か。

プレイヤーかどうか見分けられるようにってことかな。

プレイヤーとNPCの見分け方については結構ゲームごとに特色出るからねー。


さて、キャラクリに戻るんだけども、


「見た目はこのままで」


結局僕は今回もキャラクリをスキップすることにした。


「そう?ならこれで……うん、承認されたわ。あとは、この世界について軽く紹介するくらいね」


「一応、五つ国があることだけは知ってるね」


「そうなのね。なら、私たちの話から始めようかしら──」


お、チュートリアル特有の長語り来るか。

世界を好きになれるかって結構重要だから世界観教えてくれるの結構助かるんだよねー。



「──まず、信じられないかもしれないけれど、私たち五つの国は世界を渡ってこの世界に辿り着いたの。

元いた世界が壊れてしまう前になんとか脱出してね。

まだ、それから一月も経ってないわ。

だから、この世界の多くのことを私たちは知らない」


だから《Ark of Dawn》──つまり黎明の方舟なのか。

故郷を追われ方舟でこの世界に訪れたばかりの人類の黎明。

僕は早速のタイトル回収に少しテンションが上がった。


「そんな私たちが貴方たちに教えられることは少ないわ。

だから、私から教えられるのは私たちについてだけ。

例えば、私たちがあなたたちを『ミグラント』と呼んでいること。

そして、貴方たちにはこの世界の人たちのことをNPC《人の入っていない人形》ではなく、『ティエラ』と呼んでほしいこと。

実質この2つくらいね」


「ふむふむ」


プレイヤーではなく『ミグラント』。

そしてNPCではなく『ティエラ』、と。

NPCの挙動が人間に近くなった最近のオンラインゲームでは珍しくない設定だし、僕もNPCなんて呼んで仲を悪くしたいとは思わないからチュートリアルで提示してくれるのは助かるね。


「あと、貴方たちミグラントには世界から『ギフト』が与えられているわ。ギフトの詳細は私にはまだ分からないけれど、ギフトからはそれぞれの望みを叶えるスキルが生まれるみたいよ」


「へー、『ギフト』かー」


これがよくあるプレイヤー固有スキルみたいな感じかな。

凝ったゲームだと、ゲームの中で行った行為をパラメータとして保存してプレイヤー固有のスキルを生成したりする。

そしてこのスキルは往々にして強い。

ギフトからスキルが生まれたら僕もそれを軸にすることになるかもしれないな。


「あとの事は、あなた自身の目で知ることね。

何が質問はあるかしら」


お、質問ターンだ。

まあとりあえず一つは質問しておくか。


「精霊ってどういう立ち位置?」


人類に関しては分かったけど精霊については何もわからなかった、というのが感想だ。


「……どう説明したものかしらね。

これは私の感覚なのだけれど『全て見えるけれど何もできない者』、もしくは『世界に囚われた籠の鳥』かしらね」


「なんとなく分かった、ありがとう」


観測はできるけど介入はできないと。

となると精霊を頼った魔法とかは無理かな。

結構面白いんだけどね、精霊とかと契約して魔法使うの。


「他の質問はあるかしら」


「あとはこの国の特色知りたいかも。緑の国ってどんな国なの?」


開始国の特色は知れるなら今のうちに知っておきたいね。

始めたら魔法に頭から突っ込む予定だから知らなくて損する可能性結構あるし。


「この国のことね。ヘデラは研究が盛んで、ご飯が美味しい国よ」


「ご飯が美味しい?」


「ええ、五つの国で一番美味しいって評判だったんだから」


北海道みたいな感じなんだろうか。


「この世界に渡ってくる前は五国の中で一番緑が豊かなのも特色だったんだけど、これに関してはこちらに来てからの他の国のことを詳しく知らないからなんとも言えないわね。豊かではあるのだけれど」


「プレイヤー……じゃないや、ミグラントが他の国にたどり着けてないっていうのは聞いたんだけど、ティエラもたどり着けてないってこと?」


「そうなの。だからもしかしたら緑では他の国に負けてるかもしれないわね」


まあ、緑の国っていうくらいだし結局一番緑豊かなんだろうな。


「こんな感じで大丈夫かしら」


「なんとなく分かったかな」


研究が盛んで、ご飯が美味しくて、緑が豊かな国と。

ご飯がどれだけ美味しいかはちょっと気になるなあ。

特色にまで入れてるってことは相当デザイナーにこだわりが強い人がいたんだろうね。


「他に質問はあるかしら」


「んー、後は思いつかないから大丈夫かな」


ティエラも精霊も国も知れたし、良い感じなんじゃないだろうか。


「それなら、貴方がここに留まる理由はもうないわね。

後ろの扉から出ると、ヘデラに出るわ」


これでチュートリアルは終わりか。

モーションアシストの説明がないから結構短かったな。


「説明ありがとう」


「こちらこそ。

ミグラントがここを訪れてくれるお陰で結構気が紛れるようになったのよ?

だからお互い様よ」


「じゃあ、また機会があれば」


「ええ、機会があれば」



「──私はミグラントも含めて、人類を応援しているわ」


その言葉を背に僕は扉を潜った。

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