18.騎士団
あー、眠かった。
上手いこと乗り切ったけど一つの講義が半分くらい記憶にない。
あとで誰かにノート見せてもらわないと。
次の日講義があるのに深夜3時までなんて起きるもんじゃないな。
さて、クラルスの魔法の最終確認をしに行こう。
実用化させただけで理論が完全に詰まってるわけじゃないから、できれば同行して予想外なことが起きた時にアドバイスできるといいんだけど。
◆
「こんにちは。いや、クロン君の世界ではもうこんばんはかな?」
「向こうもまだ日は落ちてないしこんにちはでいいよ」
「そうか、ではこんにちはだね」
「クラルス、今日の作戦についてだけど、僕は君の魔法に不測の事態が起きた時のために同行したいと思ってる」
「それは私の方からこそお願いしたかったことだ。君が望んで来てくれるというのなら、それ以上のことはない。君のことは私が必ず守ろう」
「いや、僕のことは余裕がない時は守らなくてもいい。この作戦で一番重要なのはクラルスであって、僕じゃない。僕のためにクラルスが犠牲になるのは本末転倒だ」
そこで一度切って、ひと呼吸入れる。
「それに、僕はミグラントだからね」
僕の言葉に、クラルスは一拍だけ間を置いて話し始めた。
「……私は君のことも守るべき対象として捉えている。しかし、君はそれを望まないのだろう。だから、私は私のこの認識を変えない上で、君のことを信頼しよう。クロンダイトという人間は困難を打ち破る力を持つ人物だと」
クラルスが鞘に入れた剣を目の前に構える。
「──私は信頼する。だから、どうか君も生きることを諦めないでほしい」
クラルスには生きることを諦めているように見えたのか。
「大丈夫、生きることを諦めてはいないよ。最終的に優先するべきものの確認なだけだから」
「それならいいのだが」
「それより、そろそろ時間じゃない?」
作戦開始が13時で、もう12時半前だ。
作戦の前にどこに集まるか僕は知らないけど、どこかには集まるのを考えたらそろそろ行った方が良いのではないだろうか。
「ああ。では、行こうか。私についてきてくれ」
結局、魔法が仕上がったかの確認はしなかった。
どう質問しても「心配はいらないよ」と返ってくるのが予想できたからだ。
信じるしかないね。
◆
大通りを突っ切り、建物に入っていくクラルスについて行く。
おお、建物の入口に騎士が立ってる。
すごい、中に入っても騎士がいっぱいいる。
どこに行くかも聞いてなかったけど、ここは騎士団ってことかな?
キョロキョロしながらクラルスについていく。
クラルスは迷いもなく進み、部屋の扉を開けると、この部屋はとても広くて騎士が奥が見えないくらい沢山いた。
でもこの部屋の騎士たちは整列して部屋の前にいる2人の方を向いている状態だ。
規律が整っていて狭さを感じない。
「珍しく遅かったな、《騎士》サマ」
前にいる2人の片方がクラルスに話しかけてくる。
「私は所用があると伝えていたはずだが。……こちらは貴公らが求めていた預言者暗殺を防いだ立役者、クロンダイト殿だ。今回の作戦への同行を快く受け入れてくれた」
若干棘のある言い方だな。
こういうクラルスは初めて見た。
「クロンダイトです、今回はよろしくお願いします」
といっても、クラルスの魔法のことと自衛以外するつもりなく来てるんだけど。
いいよね?
と、目線でクラルスに伝えようとするが、笑顔を向けてくるだけで伝わったか怪しい。
「団長のアルノーです。今回はよろしくお願いします」
アルノーさんはクラルスと同じような鎧を着た騎士だ。
クラルスの鎧が新品レベルな方がおかしいとは思うけど、アルノーさんの鎧は結構傷が入っていたりして年季が入ってる感じがする。
クラルスのマントは白と銀で、アルノーさんのマントは緑だけど、これはクラルスが《騎士》だからかな。
「あー、副団長のヴァイスだ。よろしく」
ヴァイスさんも同じような鎧を着ているけれど、素振りがあんまり騎士っぽくない人だ。
この人の鎧はアルノーさんより格段に傷が少なく、アルノーさんより暗い深緑のマントを身につけている。
団長のアルノーさんから手を差し出されたので握手しておく。
「ミグラントにも、素晴らしい心の持ち主はいるのですね。そうは思いませんか、副団長」
「俺は信用するには早いと思いますがね。まだ見極めの段階ですよ」
「そうですか……信用というのは難しいですね。──さて、人が集まったので直前のブリーフィングを始めましょう」
「2人は横で聞いてていいぞ」
そう言われたので隊列に混ざることはせず、横で聞かせてもらう。
「副団長、お願いします」
「ああ。直前のブリーフィングだから概要の確認に留めるが、今日俺たち騎士団は『終の石月』の本拠地と思われる拠点の強制捜査を行う。外部の者もいるから確認しておくが──」
へえ。
終の石月っていう各地で悪いことをしている悪の組織があるらしくて、今回はその本拠地らしい場所がわかったからそこを捜査するらしい。
悪の組織の本拠地の捜査となると、クラルスが万全の状況で臨みたいと言ったいたのも頷ける。
流石にボス戦が控えてる状態だと弱体化は外しておきたいからね。
それで、僕はクラルスについて行く、付属品のような感じでいいらしい。
現場での判断はクラルスに任せて、クラルスから離れない。
そしてクラルスの魔法に不測の事態があった時、それを上手く解析してアドバイスしたりして解決する。
それが僕の役割だ。
拠点の位置は把握できているけど内部構造はわかってないから、捜査ルートに関しては突入後に副団長のヴァイスさんが適切に指示するらしい。
確認事項はそれくらいだった。
「クロンダイトさんから何が質問はありますか?」
ヴァイスさんの確認が終わったのを見てアルノーさんが僕に振ってくる。
「大体分かりました。僕はクラルスについていけばいい、という理解で大丈夫ですよね?」
「その通り。利口でいいな、ウチのバカどもと頭だけ変えてやりたいくらいだ」
「……どうも」
ドッと笑いとヤジが起こる。
なんか慣れないな。
「では、確認が終わったので──」
アルノーさんが切り上げようとした時。
遠くで爆音がなった。
近くで爆発した時ほど大きくはないけど、はっきり何かが爆発した音が聞こえた。
僕でもわかる。
これは、何かが爆発した音だ。
「──作戦中断!総員、緊急出動!今の爆発の場所を探すぞ!」
「副団長の判断に従ってください!」
「「「「はっ!」」」」
ヴァイスさんが指示すると全員が返事をし、隊列を組み部屋から出ていく。
「これ、僕達はどうする?」
「作戦は中止になったが、できればクロン君も来てくれ」
「わかった」
僕もついていこう。
◆
クラルスがどんどん歩幅を広げていって騎士たちを追い越していくからそれについて行っていたら最前列の2人のところまで来た。
「このタイミング、また作戦の直前だ」
「分かっています。ですが、私たちは騎士団として今起きている何かを見過ごすわけには行きません」
「それもあるがそうじゃない。騎士団に内通者がいるかもしれないってことだ。あとで全員洗い直すぞ」
「あまり疑うことはしたくないのですが……おっと、お二人も前に来たのですね」
「このような場面では最大戦力の私が最前列にいた方が副団長はやりやすいと、以前ご教授いただいたのでね」
クラルスが少し棘のある言い方をする。
「あー、お気遣いありがたいこったなー」
そしてそれにヴァイスさんが返す。
静かに2人の目線が交錯した。
……なんでこの2人こんなにバチバチなんだ?
「それより、遠くに見えるあの煙が立ち上ってるのが、今回の作戦で捜査を入れるはずだった建物に見えるんだが」
「私にもそう見えます。『終の石月』による撹乱かと思っていましたが、そうではないかもしれませんね」
アルノーさんが言う。
どうやら、あの煙の立ち上っている屋敷が作戦の目的地だったらしい。
そして、それを中断した今もその場所に向かっている。
なんか、変な状況だ。
普通に考えて、そんなことがあるか?
「……予想外の状況ですが、基本方針は変えません!副団長、隊を一つ住民の救助に回したいのですがどの隊が適していますか?」
「住民の救助に振るなら一番隊だな」
「分かりました。一番隊は付近の住民の救助!二番隊以降は私に続いてください!」
その声に合わせて、前方にいた騎士たちが左右に分かれ、住民の救助に向かった。
僕達は確か一番隊と共に行動するはずだった気がするけど、クラルスは動く様子がない。
「クラルス?」
「私たちは一番隊とは別で君たちについていく。それでいいだろう?」
「ああ、よく分かってるな。お前たちはまだ切るわけにはいかない手札だよ」
ヴァイスさんが感心したように言う。
なるほど、通じ合ってるのか。
そうして、僕達は煙立ち上る屋敷の門の前に辿りつき、
「副団長、お願いします」
「俺たちはこれから一番隊を欠いた状態で『終の石月』の本拠地と思われる建物を強制捜査する。時間は12時57分──突入しろ」
ヴァイスさんの合図で僕達は本拠地と思しき屋敷に入っていった。




