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17.作戦

今日は四日目、つまり、今日を含めてあと三日だ。


収穫があったとはいえ、あったのは逆に言えば収穫だけだ。

結果はまだ闇の中にある。


それに、まだ物質強化のブラッシュアップが終わってない。


「えーと、物質強化は金属性の仮称第三派生から組んでて、これからやるのはその経路の簡略化と効率化だよね」


一旦僕が僕のためにまとめた自分用経過報告書を読み込む。

寝て起きて一旦別のことを考えて吹っ飛んだ分の情報を頭に改めて流し込んでいく作業だ。


作業しながら思う。


やっと進めない不安から解放された。

これでようやく進み続けることができる。


時間に追われる苦しさの中、それでも僕は間に合う気がしてきていた。





「──すまない、クロン君」


物質強化の最適化が一旦終わり、クラルスに習得してもらうために行ったら、真っ先に謝られた。


「何か、あった?」


何があったんだ。

でも、エレミアはいるし、特に怪我した様子も怖い目にあった様子もない。

ひょっとして、バレたのか?


「いや、君の考えていることは杞憂だよ。その点では特に問題はない」


なら逆に何のすまないなんだ。


「謝ったのは、あれだけ大口を叩いておきながら君の力が必要になったからだ」


僕の力?


「私は明日行われるある作戦に参加することになった。これは決定事項だ」


「作戦?」


「とある悪の組織の本拠地を強襲し、組織を構成する幹部を確保する作戦だ」


「……エレミアの護衛が仕事なんじゃなかったの?」


「それが主な任務だが、ずっとそうというわけではない。君がエレミア様を救ってくれた日、あの日にも、実は私は作戦に参加していてね。街中で護衛は必要ないという声があって、あの日エレミア様は一人で外出していて君に出会ったわけだ」


なるほど、今ではクラルスがエレミアの護衛というイメージがあるけど、あの日は誰も護衛なんていなかったからね。


「それで、作戦がどうして僕に謝ることになるの?」


「それは──今回の作戦、かなり嫌な予感がするからだ。だからできれば、万全の状態で臨みたい」


「その作戦が、いつだって?」


「明日、13時に決行だ」


正気じゃない。


「それに間に合わせろと」


普通に考えたら無理だ。


「無理な頼みだとは理解している」


僕の視線がクラルスの視線と交差する。




「──くそ、分かったよ。間に合うように努力はする」


「すまない」


結局折れたのは僕だった。


「じゃあ本当に時間がない、さっさと物質強化習得するぞ。終わったら僕は研究しに戻る」



クラルスは今回は一度失敗したが二回目で物質強化を成功させ、三回目にはひょろい木の枝で木人形をぶった切った。





僕は風属性を軸として反射神経増大を実現することに決めた。


意識の密度を高めていくことで速いレスポンスが出るようにする、というコンセプトだ。


しかし、この魔法が完成度を上げていくにつれて問題が出てきた。


──この魔法、一人だと計測手段がない。



それは当然だ。一人でいながら反射神経の実験なんてできないからだ。


そうなると、他人の手が必要。

僕が借りられる他人の手なんて、現状二つしか思いつかないしそれは両方とも同じところにいる。


僕は実験道具を用意して改めてクラルスを訪ねた。





「──今日は例え日が暮れても、僕が折れるまで付き合ってもらうよ」


「ああ、いいとも」


魔法の評価でやることは単純だ。

定規のように長さを刻んだ棒を落とし、それを反射で掴む。

その長さが短くなっていけばそれだけ魔法の効果が高いということになる。


現時点で習得しているのは僕しかいないため、僕が自分にかけて、クラルスに定規をランダムなタイミングで落としてもらう。



そうして実験していく中で、ようやく僕は気づいた。


「あれ?なんか、今定規が落ちるスピード遅くなかった?」


スローモーションのような。

……あっ。


「もしかして、意識の密度を上げると、体感が実時間とズレる?」


設計をミスった?


「何かあったかい?」


「クラルスの使ってた魔法は反射神経を早くする魔法だよね?」


「ああ、そうだよ」


「でも、僕が今作ってるこの魔法は、時間を遅くする魔法だ。結果反射神経は上がるけど、使い勝手が大きく違う」


これは、クラルスの魔法ではない。

でも今からコンセプトを変えてたら間に合わない。

なら、このまま進むのか?

魔法によって時間が遅く感じるのは、慣れていない場合戦闘で致命的な隙を晒す可能性があるように思う。

そんな魔法を渡すのか?



「──時を遅くする魔法?かつて私が目指してたどり着けなかった魔法を、作ったのか?」


しかし、クラルスは驚いたような顔をしただけで、心配をしていなかった。


「でも、この魔法は、慣れていない場合隙を晒すことになる可能性がある」


何しろ突然時間の流れが変わるんだ。

1秒後に来ると思っていたものが1.5秒後になったら普通の人間は取り落とす。

戦闘でそうなるとどうなるか、敗北しかない。


「慣れていない場合、だろう?明日の昼まで時間があるんだ、私は出立までに完全に慣れてみせるよ」


本当に、こいつは。


はあ、今更コンセプトを変えるわけにもいかない。


──クラルスを信じて、このコンセプトで走り抜けよう。



そうして外が暗くなってしばらくした頃、僕は完成した魔法をクラルスに伝授し終えた。

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