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16.研究院

「魔法研究院に関しては私から入れるように手続きしておこう」


「かなり助かるね」


こうなったら手段なんて選んでられない。

あらゆるものを使って完成させてやる。


「ただ、手続きには少し時間がかかる。早くて明日、しかし、遅くても明後日には入れるようになるだろう」


まあそれはそういうものだろう。

その間は自分で進められるところを進めることにしよう。


「じゃ、僕は研究に戻るよ」


「ああ、お願いする」


言ったな、全力で臨むぞ僕は。





大学の課題が終わってて本当によかった。

これを現実の課題と天秤をかけながらやるのなんて無理だ。

理性的重要度と感情的重要度の天秤なんて考えたくない。


これまでが全力じゃなかったかと言われるとそうではないけど、それはそれとしてここからの僕の方が本気だ。



「研究と食事以外のことは一度置いておこう」


ゲームを漫然と楽しむのは、一旦やめだ。

僕は今からあと六日、ゲーム内の時間の全てを研究に突っ込む。





研究開始から二日目──つまり今日だ。

後五日。


昼に身体強化と身体制御の理論が完成したので早速クラルスが習得できるか試しに行く。



「うわー!クラルスさんが飛んでます!」


魔法初心者のクラルスでもわかるように図で魔力の描き方を説明したら、一回で習得した。

初回の発動なのに調子に乗ってかなり高いところまで行っている。

……落ちたらどうするんだそれ。



「──フッ!」


「わぁ……!すごいです!」


身体強化についても、初回で感覚を掴んだみたいで、用意していたらしい木人形を抜き手で粉々にしていた。

次々に木人形を粉々にするクラルスを見てエレミアも楽しんでいる。



クラルスは魔法を元々の世界で使っていただけあって習得はかなり早かった。

この分だと習得難易度にもよるけど次回以降は事前準備を詰めなくてもいいかもしれない。




残りの時間はすべて研究と食事に費やすが、進捗は良くない。

物質強化魔法については理論ができたがまだ実証ができていない状態。

反射神経増幅に関しては相変わらずとっかかりも掴めていない状態だ。

明日から行けるかもしれない魔法研究院で僕の知らない情報が出てくることに期待する。



────────



クロンダイト:アリスって《AoD》の反射神経が早くなる魔法の知識ある?

アリス:随分具体的ね。とりあえず答えはNoよ

クロンダイト:ありがとう、それじゃあ寝るね、おやすみ

クロンダイトがログアウトしました

アリス:クロン、何かあったのかしら

ルト:研究に追い詰められているのだろう。あいつが他人に知識を求めるのは他人から受けた研究がある時だけだ

アリス:そっか。私が魔法研究院の入り口で弾かれたときの話結構面白かったからしたかったんだけどねー



────────



三日目、あと四日。


朝クラルスに聞いたところ、まだ魔法研究院には入れないらしい。


早めに行けた方がいいと思うから、昼また聞こうか。



昼にもクラルスに聞くがまだ魔法研究院には行けない。



夕方、ようやく物質強化魔法が成立したが、ここからこれを簡略化してブラッシュアップしていかなければならない。

そして、反射神経増幅に関しては、相変わらず進捗がない。

論すら組めてない状態だ。かなりきつい。

魔法研究院に行って何か掴めたらいいけど。


……個人研究の限界を感じるな。





四日目、あと三日。



「やっと来れた」


今日は月曜。

講義が終わってログインしたのがゲーム内で12時。

クラルスを訪ねると、僕用の証明書を貰えた。

やっと魔法研究院に入れるようになったみたいだ。



「こんにちは、何か御用ですか?」


「これで中に入りたいんですけど」


とりあえず言われたように証明書を手渡す。


「少々お待ちください。……確認が取れました。クロンダイト様、案内の者が来ますので少々お待ちください」


案内もついているらしい。


「──お待たせ致しました。では、案内します」


「お願いします」





「クロンダイト様は魔法研究院について、どのような部分に興味がおありですか?」


「前までは入ってみたいと思っていただけだったんですけど、今は一人での研究に限界を感じていて、ここが持っている知識を借りたいと思っています」


偽りない本音だ。

正直、ここでも手掛かりが手に入らなかったら、今僕の持っている不確かな理論で決め打ちして進めていくしかなくなってしまう。

だから、手掛かりよ、あってくれ。


「そうなんですね。差し支えなければ、今はどういう研究をしているか教えていただいてもいいでしょうか?」


「反射神経の増幅ができる魔法の開発を今はしていて、その手掛かりが欲しいという感じです」


これなら、この話が漏れてもクラルスと結び付けられはしないだろう。


「反射神経ですか。そうなると、身体反応分野に関しての研究室の紹介が良さそうですね。今問題ないか確認してみますね」


ここでお待ちください、と言って案内役の人が走って行ってしまったので、大人しく待つ。





案内の人は5分くらいで帰って来た。


だが、


「……今は重要な実験の大詰めで、外部の人を招くことはできなさそうです」


そうか。

仕方ない。

なら、決め打ちして、それが当たるのを願うしかない。

帰ってどの属性に決め打ちするのが一番いいか考えようか──


「──しかし、代わりに何かできないかと聞いたところ、保管庫の閲覧許可が出ました。お会いできないお詫びだそうです」


保管庫?


「保管庫というのは、この研究院で研究されたレポートが全て納められている場所です。通常は院に所属している者しか閲覧できないのですが、今回はクラルス様の紹介であることと、室長の許可が出たことで代表が特例を認める判断になりました」


それは、つまり。


この魔法研究院が積み上げた知識の巨人の肩に乗れるってこと!?


「最高だ!早く行こう!」


「こちらです」


クラルスとまだ見ぬ室長さん、そして特例を認めてくれた院の代表の人に僕は感謝した。





「この部屋に、この世界に来てから現在までに書かれたレポートはすべて保管されています」


「うおおおおおお、こんなにあるのか!」


レポートは本棚一つを丸々埋めるように詰まっていた。


杖の店の店主が、この世界に来て一月と言っていたけれど、一月でこの量は、すごい。

僕なんてまだ魔力線についての一枚しかレポートを書けてないからね。


適当に一つ取り出してみると、タイトルは『火属性魔法の総合的性質について』。

捲ると、火属性魔法をそれぞれ拡張したときにどのような性質になるか、それはどのように魔力を動かすと発動するか、その効果と魔力の量との相関関係までちゃんとまとめてある。


他のレポートもタイトルだけ見ていくが、『この世界の魔法陣について』、『この世界における並列魔法の実現可能性』、『この世界と以前の世界の魔法の共通点と相違点について』など、興味をそそられるタイトルばかり。


見ていくうちに付箋が落ていることに気づいた。

『並列魔法は現状では実現不可?』という付箋だ。

これは並列魔法のレポートのものだろうから、さっき見たレポートに貼り直しておこう。

この時僕は見た文章を記号として処理し、深く考えず付箋を貼り直した。


入って直ぐだけどもう分かる。

ここは知識の宝庫だ。

全て吸収したい。


──いや、その前に、反射神経についてのレポートだ。


「反射神経についてのレポートって心当たりあります?」


「心当たりはないですけど、感覚と動作のハイブリッドと考えた場合は水と火の複合魔法、体の時間の密度を上げるという考え方をする場合は風の魔法になる気はしますね。まだ複合魔法についてのレポートは少ないので、まずは風の性質に関して見てみるのがいいかと」


やば、この人、魔法に関する造詣僕と比べ物にならないくらいあるぞ。

というか、複合魔法か……今まで考えたこともなかった。


「風、風、風、これか」


何個かレポートを見た感じ、棚にあるのは上が古いもので下が新しいもののような気がしているので上から探す。


『風属性魔法の性質について』


「えーと、風属性魔法は世界を疎と密に分離する性質がある──そうなのか」


初っ端から全く知らなかったことが書いてある。


「──適切に扱うことができれば疎、もしくは密を適切に生み出すことができる」


この理論、合ってるとすれば、そのまま反射神経増大の魔法へのとっかかりになるぞ。


「そしてこの理論を応用すると──」


「──一旦そこまで、ですね」


続きの文章に手を重ねられ、読めなくなった。


「ここまでなんですか?」


もっと読みたい。

全てを頭に入れたい。

何よりも大きな巨人になりたい。


「あなたに今必要な情報は手に入ったはずです。今日は一度帰って、研究が終わったら改めてここに来るのが、あなたのためになると私は思います」


「……確かに、そうかも」


風属性魔法がとっかかりになることが分かっただけでも、とても大きな収穫だ。

僕は今、重要ではない方向に舵を切りそうになっていた。

ここが切り上げ時か。





「今日はありがとうございました」


「いえ、いずれまたお会いできる時を待っていますね」


「また来ますね」


「はい、──その時は、同じ研究者として歓迎しますよ。クロンダイトさん」


僕は確かな収穫を得て帰路に付いた。

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