第十四話 デパートで公開漫才!?恥ずかしい参考書選び!!
前回までのあらすじ
挨拶のネタが尽きてきた合崎未来だよ!なんだかんだありまして学年の人気者川島玲斗と入れ替わって同居をしている私!ゲームやイタズラをして距離を縮めてきた私達はデパートに行くことになったの!私の案だよ!私の目的はなぁんだ?
デパートに行くと、案の定私達は注目された。
「何あの二人!超美人じゃん!」
「お似合いすぎる!」
「姫と王子じゃん」
そんな声が聞こえてくる。
いや、うん。
間違ってはないな。
孤高の王子様だもんな。
私がルンルンなのに対して、玲斗はやけにげっそりしている。
「……なんで俺は今、フリフリのスカート履いてるんだ?」
「だってさ〜、可愛いって言われるの快感でしょ?私の身体だけど。王子とお姫様とか言われるの最高じゃん?」
「お前は俺の身体を着飾ってキメてるもんな。……俺の尊厳どこ行った?」
「売り飛ばしました」
「笑顔で言うな!!てか靴擦れしてんだけど!」
玲斗に履かせたのはローファー。
ローファーは私の足には合わず、よく靴擦れする。
「お姫様は黙って我慢なのだ」
「お前つい先月『私の身体大事にして』って言ってたよな!?」
「え〜、おっぼえてなぁい!あ、見てみて!アクセ屋さん!」
「俺の身体ではしゃぐな!」
私はギャーギャー言っている玲斗を無視して、アクセサリーショップに行った。
って言っても、アクセサリーというよりも髪留めと言ったほうがいいかな?
「ねぇねぇ、これ見て!この髪留め、超かわいくない?」
私は中身が玲斗の身体に合わせてみる。
「お前……俺の身体でそんなに浮かれんなよ」
玲斗は溜め息をついて言った。
何を言うか。
可愛いものが好きな男子もいるだろう。
「玲斗、今は多様性の時代だよ」
「こないだ多様性に対応してなかったお前が言うか?お・ま・え・が!!」
まだG(本物)が出たときの事を根に持ってるのか。
私はトイレの方を指さした。
「玲斗、トイレはあっちだよ」
「別に行きたいわけじゃないけど……」
「トイレを済ませるためじゃない。あの出来事を水に流すために……」
「普通に言え!それより、何をしに来たんだよ」
「あ〜、忘れてた」
私がそういうと、玲斗は渋い顔をした。
すぐこういう顔するよね、この人。
「用があるのは本屋さんだよ」
「……え?」
◇◆◇
やってきたのはデパート内にある少し大きな本屋さん。
私達は参考書や問題集コーナーに来た。
「あったあった〜」
私は理科の問題集を手に取った。
玲斗は訝しげな表情を浮かべた。
「お前に勉強する気があったとは」
「あるわ!!ほら、この問題集とか良さげじゃない?」
「こんなもん基礎中の基礎だろ。馬鹿でもできるわ」
私の手から問題集を奪い取った玲斗はパラパラとめくり始めた。
その間に私は他の問題集を見る。
分厚い問題集が目に止まった。
手に取るとかなり重い。
問題集を開くとズラァッと文字が豆粒大の大きさで書かれている。
私はそっと問題集を閉じた。
「未来、この問題の答えは?」
玲斗がさっき渡した問題集の問題一つを指さして私に見せてきた。
『肝臓で作られ、脂肪の消化を助ける消化液をなんというか』
ほほう、中二の生物か。
こんなの間違えようがないよね。
「答えは一択だね」
「おっと、未来氏はこの単元は自信があるようだ」
「答えはただ一つ!じゅうたん!!」
「…………」
玲斗は首を傾げて黙り込んだ。
そして、しばらく沈黙が続いた。
「ブッ……み、未来。それは液体じゃなくて個体だ……」
「え?いや、同姓同名みたいな……」
「よく分かった……お前の体内ではじゅうたんが製造されてるんだな?」
「うん、消化液なんだから当たり前でしょ?」
なぜ玲斗が笑ってるのかわからない。
え?
じゅうたんじゃないの?
私は傍にあった中二の参考書を開いて答えを確認した。
「胆汁……じゅうたん……うん!!似てるね!!」
「現実から目を背けるな。未来の体内ではじゅうたんじゃなくて胆汁が作られてるんだ」
「だってじゅうたんって響き、絶対それっぽいじゃん!フカフカして脂肪を包み込んでくれそうな感じするじゃん!」
「胆汁とじゅうたんを同列に見るな。素材も見た目も別物だよ」
私はムッとして参考書を閉じた。
玲斗は笑いを噛み殺しながら、再び私の手から問題集を取った。
そしてまたページを流し読みし始めた。
「よし、次はこれだ。『酸性の消化液で、胃の中に分泌されるものは何か』」
「……塩素」
「胃の中で食ったもの泳がせる気か?」
また吹き出す玲斗。
私はムッとしたまま拳を握りしめた。
「うるさいな、もう!じゃあもう塩素でいいよ。私は胃から塩素が出るってことにする」
「バケモノじゃねぇか!」
私たちの参考書選びは一問一ボケのコントにしかならなかった。
ていうか、さっきから見て見ぬふりしてたけど周りの人まで笑ってない!?
見て見ぬふりを決め込んでいたけど、さすがに限界だった。
こっそり周囲を見渡すと、隣の中学生っぽい男子が参考書を手に持ったまま肩を震わせていた。
その隣にいた保護者らしき人は、必死に笑いをこらえて唇を噛んでいる。
……やばい、これは完全に公開漫才になってる。
「玲斗……」
「ん?」
「観客がいる」
「未来の消化器官が異世界仕様なせいだな」
「違うもん!日本仕様じゃないだけだもん!」
言い訳も日本語もどこかズレている。
私は参考書で顔を隠した。
「もうやだ……誰か私を胆汁の海に沈めて……」
「いや、じゅうたんの上に転がってろよ。柔らかいし」
玲斗がそう言って笑ったその瞬間、近くの棚の向こうから声が聞こえてきた。
「じゅ、じゅうたんは消化液じゃねぇだろ……ッ」
私の羞恥メーターは限界突破した。
その場にしゃがみ込んで羞恥心を抑えようとした。
「未来、死んだのか……?」
「……心だけが成仏しました」
玲斗が笑いながら、しゃがみこんで私の顔を覗き込む。
そして私の頭を乱暴に撫でた。
「あの……すみません、さっきのじゅうたんのくだり……めっちゃ面白かったです」
振り返ると、さっき肩を震わせていた中学生男子が恥ずかしそうに笑っていた。
その隣の保護者っぽい人も、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
しかし私は見逃さなかった。
僅かに肩が震えているところを。
「うちの子、理科が苦手で。でも胆汁は完全に覚えたみたいです」
嬉しいのか悲しいのかわからない複雑な感情。
私は頭を抱えた。
「……もう、未来式理科暗記法って名前でYouTubeチャンネルでも開こうかな……」
「やめとけ、一本目でチャンネルBANされるぞ」
私達はなんだかんだ話をしながら参考書や問題集を買って本屋さんを出た。
「あれ?川島に合崎?」
おっとデジャブ。