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48,sideヴィス


後書きにイラストありです……!



エルミルシェ殿の名乗った名を聞いて、あぁやはり……と僕は思った。

涯才(がいさい)の大魔女』というのがどういったものかは分からないが、彼女はただの魔女ですらなく、大魔女と名乗るほどの力を持っているのだろう。


エルミルシェ殿が杖を向けると、床から魔力で出来た鎖が延び、王妃と同様、イスティランノの体を縛っていく。

しかし僕がいくら水を降らせても、その体はまだ炎を(くすぶ)らせている。

鎖に捉えられた怒りからか、オーラが更に揺らめき、体を燃やし尽くさんばかりにイスティランノは暴れ燃え上がり始めた。


「死んでさえいなければ、吾輩がどうとでもしてやれる。

もう誰も、死なせはしない!!」


エルミルシェ殿は決意の声を上げると、力強く杖を床に打ち立てて、彼女は初めて詠唱を始めた。


「命(めぐ)る珠玉の隣人 縁頼り望むは(とばり)

燃え拡がる回禄(かいろく)が 夜の眠りに至るまで

おぞましき実録を 闇の湖底に落とすまで

流せ鈴の音 ここは揺籠 空虚(そら)の夢

喰らえ鈴の音 そこは監獄 永久(とわ)の牢」


朗々と詠まれる呪文により、イスティランノには天から、王妃には地から、いくつもの白と黒の手が伸びていく。

手に捕まれたイスティランノの炎は次第に鎮まり、逆に王妃はもがき苦しみ出した。


「救える(ことわり)に祝福を 許せぬ(わざわい)に返報を

渡れ巡れ 過剰な針が標す咎を 在るべき下へ!!」


カッと放たれた眩い光を遮るように、僕は視界を覆った。

再び目を開いた時には、ぐたりと横たわりながらも両手以外は無事なイスティランノと、逆に肌が焼け(ただ)れた王妃が痛みに呻いていた。


「これは、一体……?」


僕がそう問いかけるも、杖を立てたままのエルミルシェ殿は何も言わなかった。

二人に向けられていた顔が、父上の方へと向く。

その小さな体から放たれる、背筋が凍るほどの威圧感に僕は息を飲んだ。


「ついでに答え合わせをしようではないか。

あの女が何故、殊更レイスリーク皇国を求め続けていたのか。

吾輩が何故、それを知っていたのか。

吾輩が知る全てを、貴様らに見せてやろう!!」


ビリビリと空気が震えるほどの怒声。

今度は先程の決意とは違い、怒りを(あらわ)にしてエルミルシェ殿は叫んでいた。

彼女の足元に赤黒い陣が浮かび上がり、室内だというのに部屋の明かりが消え落ち、薄暗くなっていく。

禍々しいその色に、僕は今すぐ止めなければいけない気持ちになり、駆け出すように手を伸ばした。

しかし途中で何かに阻まれて、何故か近付くことが出来なかった。

僕は見えない壁をドンドンと打ち付ける。


「エルミルシェ殿!何をするつもりなの!?」

「……すまないな。

だが、これでお主も全て分かるだろう。

どうかお主も知ってくれ。

吾輩が何者だったのかを」

「エルミルシェ殿……?」


悲しげに微笑んだエルミルシェ殿は、もうこちらを向くことはなかった。

禍々しい陣からはドロドロと何かが這っているような、おどろおどろしい魔力が波打っている。

杖に溜まっている魔力も、美しい金色ではなく赤黒く毒々しい色に変わり果てていた。

「やめるんだ!!」と僕が叫んでも、エルミルシェ殿は止まることなく陣に魔力を注いでいく。

そして、すぅと息を吸うと再び詠唱し始めた。


「砕いた炭を手繰り寄せ 灯し繋ぐ(まこと)は奈落

彼の地染めし血の海を 放ち晒す器は湖面

鬼哭(きこく)の声 百千(ももち)の眼

焼けた成れ果てよ 這い出て来たれ」


エルミルシェ殿の低く昏い声に呼ばれたのか、何もなかった空間に、突如無数の大きな瞼が現れた。

赤黒いそれは血の涙を流しているかのように、何かを垂らしながら宙を浮遊している。

そのおぞましく不気味な光景に、皆悲鳴を上げ震えながら腰を抜かした。


「灯せ繋げ常世(とこよ)まで 放て晒せ現世(うつしよ)

吾が(くびき)を解き 最期を手向けに 映せ!

開闢(かいびゃく)を刻む()の先に 失われた時を暴き給え!!」


荒々しい詠唱が終わると、漂っていた瞼がゆっくりと持ち上がり始めた。

しかしそこに眼球はなく、ただ真っ黒な闇が広がっている。

暫くして全ての瞼が完全に開き切ると、瞳ではなく映像が映り始め、何処からともなく声が響き出した。



『私は!私は何もしていません!』

『お前が王太子殿下を洗脳して、レイスリーク皇国への戦を仕掛けさせたのだろう!?』

『そんなことっ!するはずないじゃないですか!!』

『魔女の言うことなんか信じられるか!』

『殿下のことも、きっと魔法で(たぶら)かしたのよ!!』


『こ、この書類の山は……?』

『イスティランノ王太子殿下はご多忙なのだ。

婚約者の貴女がそれを補佐するのは当然だろう』

『わ、分かりました……』


『大丈夫ですか?』

『ありがとう。魔女の力というのは凄いのだな。

騎士だというのに、二度と剣を握れないと諦めていたよ』

『お役に立てたなら何よりです!

今はどうか無理をせず、安静になさって下さいね』


『ねぇ、またあの薬を用意しておいて』

『ですが、王妃様。

国を担うお立場として、その……』

『あの人は私に王妃らしさなんて求めていないじゃない。

アンタは口答えせず薬を作っていればいいのよ』


『私が、第一王子の婚約者に……?』

『殿下は貴女の特異な力をご所望なのだ。

どうか国のために力を貸してほしいと』

『わ、私が国のために!

この力が人のためになるのなら、精一杯頑張ります!』


『俺やお前を陥れたい誰かが、そんな噂を流したのだろう。

お前は寧ろ、戦争を止めてくれていたじゃないか。

俺はお前のことを分かっている』

『ありがとうございます、イスティランノ殿下。

殿下が信じて下さるなら、それで十分です』


『腕を生やすなんて、気味が悪いと思わないか?』

『有り難いけどさ、治してやるからまた戦えって?

まるで拷問じゃないか』

『違いないな。

そもそもあの女は魔女で戦えるんだろ?

俺達の治療なんかせずに、あの女が戦えばいいだけじゃないのか?』


『またそこ、間違えていますよ!』

『……っ!申し訳ございません……っ』

『はぁ。

いくら貴女の力が奇特だとしても、殿下と並び立つには、今の貴女の教養では許すことは出来ませんよ。

この課題を今日中に終わらせておきなさい』

『こ、こんなに……』


『貴女、薬の調合が得意なのですって?』

『はい。

魔法薬学は十ある必科(ひっか)に含まれていて、魔女になるためには必ず学ばされ、師から可の成績をもらわねばなりません。

その中でも私は薬学が好きで、個人的に学んでおりましたので、それなりに知識はあるかと思います』

『ふぅん?

魔女の秘薬って、とても効果が高そうじゃない?

私、作ってほしい薬があるのよね』


『あれが魔女ですの?』

『そうらしいですわよ。

とても効く薬の流通先を辿ったら、あの女に行き着いたそうですわ』

『田舎の薬師が、一気に王室薬剤師と第一王子の婚約者だなんて』

『小汚くみすぼらしい上に、幼すぎではありませんこと?

あれが時期王子妃だなんて』

『身分も教養も高い令嬢が沢山居ましたのに、それを押し退けて婚約者になるだなんて、田舎娘のくせに身の程知らずですこと』


『戦争!?

人を殺めるために、この力を振るえと!?』

『そうだ。お前なら出来るだろう?』

『……いくらイスティランノ殿下の願いでも、それは……それだけは出来ません。

傷付いた騎士を癒すだけなら、力にはなれますが』

『お前は!俺を国王にするために、力を貸してはくれないのか!?

陛下に俺を認めさせるためにはっ!

皇国との戦争に勝たなければいけないんだ!!』

『……ごめんなさい。

それだけは、殿下の意向に沿うことは出来ません』



全ての目は止めどなく切り替わり、様々な場面を映していく。

途中、何処か見覚えのあるような、王都の至る所で煙が上がり、瓦礫の山と化している光景があった。

皇国の兵とぶつかり合う騎士の映像もあった。

時系列はまるで分からないが、この映像から理解したことがある。



――これは、一体いつの話なんだ?



見ていた映像から目を離し、ブリキ人形のようにギギギと首を動かして、その映像を見上げているエルミルシェ殿に声をかける。


「――エルミルシェ殿。

これは……この、光景は……?」


僕の声に首だけ振り返ったエルミルシェ殿は、顔を俯かせながら答えてくれた。


「これは、この国で起きたことだ。

吾輩が殺され命が奪われた時、吾輩は偉大なる力によって救われ、魔女の集落を出た十歳の頃に時間ごと戻された。

今ここに映っているのは、かつてこの国が一度歩んだ、過去の姿だ」


エルミルシェ殿の言葉に、そこに居た全ての者が息を飲んだ。

屍の山、王城へと詰めかける民達、変わり果てた街並み。

その惨状の全てが、一度この国で起きたことだと――彼女はそう言った。





48話のワンシーンを

イメージとして漫画風に描かせていただきました。


挿絵(By みてみん)


建物内のパースなどは素人のため描けず、

正面になってしまったのが悔やまれますが……

雰囲気イラストとしてご覧いただけましたら( .ˬ.)"

※個人的に杖は何度も描き直したので、

杖だけは気に入っています(笑)


これからこの二人がどうなっていくのか……

少しでも気になって下さった方は、

いいね、ブクマ、感想やレビュー、評価など

是非とも応援宜しくお願い致します( .ˬ.)"

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