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38,


暫くして離れると、後ろから咳払いが聞こえてきた。

アインシュテルが気まずそうに吾輩達を見ていて、そして軽く頭を下げた。


「エルミルシェ様、約束のお日にちを守れず申し訳ありません」

「かまわん。

火急のようだからな、仕方があるまい。

せめて表まで共に行こう。

見送りくらいはさせてくれ」


そう言って吾輩達は宿の外へと出た。

そろそろリンデンもヴィスの胸ポケットから出てこさせねば――そう思っていた時、視界の端に光るものが見えた。

ヴィスやアインシュテルも気配を察したようで、剣とスタッフに手をかけていたが、吾輩は二人の前に躍り出て店先に立てかけられていた看板を掴み、勢いよく振るった。

ガッと鈍く重い音がして、見ると看板には小ぶりの投げナイフが刺さっていた。


「エルミルシェ殿!」

「大丈夫だ!問題ない!」


突然襲われたにも関わらず、ヴィスやアインシュテルは既に戦闘態勢に入っており、至って冷静に周囲を警戒をしていた。

その慣れた様子から、きっとこれが彼らの日常だったのだろうと察する。

吾輩も同様に敵の位置を把握しようと、神経を尖らせた。

すると、背後からいくつかの足音が聞こえた。


「なんだあのチビ。新しい護衛か?」

「さァね?

んな話は聞いてないんだけどねェ〜」

「ただのガキじゃねぇのは確かだな。

あの距離からのナイフを止めるなんざ、中々出来るもんじゃねぇだろうし」


そう言いながら、宿屋の裏手から賊のような大柄な男が三人出てきた。

ヴィスや男達の手に握られている剣を見て、街を歩いていた人達は悲鳴を上げて逃げていく。


「いやァ、第二王子の右腕が一人、ノスアツに残ったっていう情報が流れててねェ。

見張らせてもらっていたんだけど、当たりだったなァ」

「そこに居る奴やテメェの騎士共に、随分仲間がやられちまってんだ。

今更生きて戻ってこられちゃ、こっちも都合が悪ぃんだよ。

テメェらにはここで死んでもらうぜ」


そう言うと、男達は舌舐りをして斬りかかってきた。

ヴィスは剣で、アインシュテルはスタッフで、敵の剣を受け止めている。

ヴィスは間違いなく強いのだろうが、吾輩に男達を近付けさせぬよう、一人で二人を相手取っている上に、背後のナイフを投げてきた男にも気を配っているせいか、すぐ決着はつかないだろう。

アインシュテルは魔術師だが、こんな街の真ん中で魔術を放てば、まだ逃げられていない民衆を巻き込むのではと危惧しているようで、魔術を使わずスタッフで敵の攻撃を凌いでいる状態だ。

人数的にも状況的にも分が悪い中、吾輩は男達の言葉に目を見開いていた。


「……だいに…おうじ…………?」


吾輩は動揺しながらも、またこちらを目かけ飛んできたナイフを、看板で弾き落としたり盾にして受け止めた。

三対四。

しかも敵に挟まれてしまっている。

なにより、ヴィスやアインシュテルの前に立つ男達よりも、ナイフを投げてくる反対側の男が厄介だ。

背中から攻撃されるかもしれないもいう懸念を持ちながらだと、二人は前の男三人との戦闘に集中出来ないだろう。

吾輩は看板と絵の入った袋を地面に滑らせるよう横へ投げると、弾き落としたナイフを二本手に取り、両手で短刀の代わりとして構えた。


「はああぁぁっ!!」

「ちっ!

なんなんだ、このガキは!?」


離れたところから投げられる複数のナイフを、吾輩は一本たりとも逃さず薙ぎ払う。

もしここで安易にナイフを避けてしまったら、後ろで戦う二人に刺さってしまうかもしれない。

吾輩は避けるという選択を捨て、全てのナイフを地に落とすと、男が次のナイフを飛ばすために身を屈めた一瞬の合間に、一気にその距離を詰めた。

跳躍して男の視界から消え、男の背後を取って首を掴む。

そして誰にも悟られぬよう、吾輩は秘めた力を行使した。

指先から男が気絶する程度の電流を流し、男が白目を剥いて傾いていくのを確認する。

そして周りの状況を見るため顔を上げ――その光景に息を飲んだ。


「お優しい第二王子サマは、ガキを見殺しには出来ねぇよなァ!?」

「クレイヴィスト様っ!!」

「きゅきゅう」


斬りかかられそうになっているヴィスと、何故か男に向かって跳びかかりながら発したリンデンの鳴き声に、何が何だか分からなかった。


「…………リン…デン……?」


いやに時間が引き伸びたような、心臓の音が耳のすぐ側で鳴っているような、そんな感覚を抱く。

顔はリンデンから逸らせず、吾輩はぎょろりと目だけでヴィスを見ると、剣を構えながらも小さな女の子を守るように(うずくま)っていた。

アインシュテルは対していた一人を、ヴィスも二人の内の一人を倒したようで、男二人が地面に転がっている。

しかし、どうやら何も知らず近くの店から出てきてしまった女の子が、敵の標的として狙われてしまったらしい。

ヴィスは店の近くで女の子を庇い、それを見たアインシュテルが叫んだ時、リンデンがヴィスを斬らんとしていた男に鳴きながら跳び付いて、一気に体を駆け上がり顔に貼り付いたのだ。

「なんだ!?」とたたらを踏む男を見て、ヴィスは女の子を抱えてアインシュテルの元へと下がっていく。


しかし、吾輩の胸は嫌な予感にドクドクと脈打っていた。

何故か男に向かって跳ぶ時のリンデンはこちらを見ていて、目が合って鳴いた声に……吾輩はハッハッと息を荒らげながら踏み出した。


「「リンデンッ!!」」


男の元に戻ってきたヴィスも剣を振りかぶるが、男は「クソがっ!!」と力任せにリンデンを顔から剥がし、その体を思い切り地面に叩きつけた。


「ぎっ」


打ち付けられたリンデンの体は一度跳ね上がり、鳴き声にもならない声を漏らした後、力なく地面に倒れた。

「くっ」と唇を噛み締めながら、吾輩は後ろから男を切り付けた。

ヴィスも前から男を斬りかかるが、男は背中から血を流しながらも力を振り絞り、ヴィスの剣を受け止めていた。

倒れているリンデンから血が溢れているのを目の当たりにし、吾輩の目の前は真っ赤になった。

ギッと男を睨み付け、容赦ない力を滾らせかけたところで、ヴィスが一度剣を引き、体勢を崩した男を見事切り伏せていた。

だがヴィスの表情は硬く、膝から崩れ落ちていく男に見向きもせず、その足元に転がるリンデンへと駆け寄っていった。



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