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27,sideヴィス(過去編)


「……どうして?え?側妃……?

ちょっと!?

私はあの女を側妃にしていいなんて言っていないわ!

ロイエスト様は私だけを愛してくれないの!?」

「何の立場も権限もない人間が、王太子妃の仕事を肩代わり出来るはずないだろう。

君が望んだことはそういうことだ」

「待って、そんなことっ」

「ならば君が勉強や仕事をするか?

王太子妃として、動ける間は奉仕活動もしてもらわねばならないが?

だが、これから子を産むために辛くなるから出来ないと、さっき言ったばかりではないか。

そもそも結婚式までに、最低限の教養を身に付けることも危ういというのに、国の名を背負い立つ心構えも姿勢もないお前が、王太子妃らしく私と並び立てると?

人を馬鹿にするのも大概にしろっ!!」


ロイエストは初めてラブシュカに対して声を荒げた。

これまで心が伴わないながらも、ロイエストはラブシュカに対して紳士的に対応してきた。

どれだけラブシュカに嫌悪を抱いていても、それでも努めて冷静に接してきたのだ。

だが己と、そして何より愛するミセラティアを軽んじられ侮辱されたことで堪忍袋の緒が切れ、ロイエストの得意とする火属性を表す真っ赤なオーラが立ち上った。

それは国王も同じことで、ラブシュカの言葉は容認出来るものではなかった。

国王からは底冷えするような青いオーラが放たれ、二人から射殺すような目を向けられたラブシュカは、息を飲んで震え上がった。


「公爵、そういうことだ。

お前の娘がそう望んだのだからな」

「……御意」

「お義父様!?」

「黙れ馬鹿者」


公爵は自分の娘や親戚筋の令嬢を使い、何度もロイエストに取り入らせようとしていたが、(ことごと)く失敗に終わった。

平和ボケし、平民にまで手を差し伸べようとする王政を、何とか止めなければならないと思っていたところに、ヒメロス子爵などという下級貴族の娘の戯言を聞いたのだ。

他に大した策もないからと、暇潰しで手を貸してやったが、まさか成功するなど思いもしなかった。

見事王太子妃となったラブシュカが国政に食い込んでくれることを期待し、こちらの勢力が優位になるように事を運んでもらおうと思っていたが、この教養のなさを見てしまえば、ラブシュカでは到底無理な話だと悟った。

しかもラブシュカのせいで、退けたはずのモレイス侯爵家が側妃の座に収まってしまった。

公爵は早々にラブシュカという人間に見切りを付けた。


その様子を見ていた二人は、ラブシュカを表に出さずお飾りの王妃の座に就かせ、王太子妃の生家としての発言権を得る方に方向転換したのだろうと察した。

国王は冷ややかに二人を見据(みす)える。


「追って連絡をする。

だが、ロイエストが言ったように、大々的に結婚式を行うことは不可能だろう。

王家だけでなく、公爵の家名にも傷を付けてよいのなら検討するがな」

「……王太子殿下の結婚式だというのに、内々だけの署名のみということですかな?」

「お互いのためにも、その方がよいと思うが?」

「承知致しました。そのように」

「なんで!?どうしてよ!!

私、綺麗なドレスを着せてもらって、王太子妃として国民の前で祝ってもらうんじゃなかったの!?」


そう言って喚くラブシュカに、公爵は温度のない視線を向け、騎士に連れ出すよう頼んだ。

暴れながらも退出させられるラブシュカを見送り、公爵は深く溜息を吐いた。


「いやはや、あそこまで愚かな子だったとは。

しかし、名ばかりでも王太子妃は王太子妃。

我が公爵家の娘を辱めておいて軽んじるようなことだけは、こちらも飲めませんからな」

「あぁ、構わない。

だが公爵の娘でありながら、あのようなことも分からぬ娘を私の妃に、王太子妃に()えることを願った、そちらの責も忘れられては困る。

なにせ一切の公務や外交が出来ず、全てを側妃に委ねることになるのだろうからな」


公爵とロイエスト、両者が睨み合う。


何らかの手を使って、自分とミセラティアを引き裂いた公爵とラブシュカ。

今回のラブシュカの言動によって、ミセラティアを側妃に迎え入れられることになり、ロイエストは隠すことなくミセラティアを再び愛することが出来るようになった。

公爵を筆頭とする、貴族派の独擅場も避けることが出来るだろう。

ミセラティアの生家であるモレイス侯爵が、王族派として必ず牽制してくれるはずだ。

ラブシュカが馬鹿であればあるほど、ミセラティアが真に妃であるべきだと光るだろう。

そしてロイエストと共に居るのが常にミセラティアであれば、事情があってラブシュカを王太子妃にせざるを得なかったことは、他の貴族達にも伝わるはずだ。


だが、あれが王太子妃として居続けるということは、公爵の発言権が残り続けることに変わりはない。


公爵は国政に絡み、王族が目指すこの国の方針を変えさせるために。

ロイエストは公爵とラブシュカの罪を明らかにし、いつかミセラティアを正妃にするために。


こうして、戦いの火蓋は切られたのだった。




ミセラティアは婚約解消した時点で既に十九歳であり、近しい年回りの令息には既に婚約者が居て、中には結婚している者も少なくはなかった。

ミセラティアは完全に行き遅れとなってしまっていた。

四ヶ月ほど前にロイエストと婚約解消し、社交界への復帰もいつになるか分からない。

ミセラティアは毎日屋敷の部屋から出ることもせず、ぼんやりと空や庭を眺めては、時々無意識に涙を流す日々を送っていた。

これまでロイエストの側で築き上げてきた努力は、他に嫁いだとしても決して無駄にはならないだろう。

しかしそれは、ロイエストと添い遂げる為に磨き続けてきたものだった。

ミセラティアの心はぽきりと折れてしまい、ただただ無気力に毎日を過ごしていた。


このままでは家のために嫁ぐことも難しく、いっそのことロイエストの話題が上がることもないような、国の中でも国境に近い、果てのような場所にある修道院にでも入ってしまおうかしら……。


そう思っていたミセラティアの元に、一通の手紙が届いた。

そこには何度も見たことのある、丁寧ながらも少し跳ね上がる癖のあるロイエストの直筆で、話し合いの場で起きたこととラブシュカの発言、側妃という立場にさせてしまうが、再び隣に立ってくれないかという、ロイエストからの想いが綴られていた。

いつかあの日に起きたことを(つまび)らかにし、ミセラティアを正妃にしたいと……その言葉にミセラティアは手紙を胸に抱いて感涙した。


同じく国王からの手紙を受け取った侯爵は、分不相応にも王太子妃の座にしがみつくラブシュカと、それを看過することを選んだレスノワエ公爵を引き()り下ろすことを胸に誓った。

そして、王族派として公爵と貴族派への目の色を、更に厳しいものへと変えたのだった。




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