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序章『バーサーカー・リエントリー!』

 夜空にマッチでも擦ったように、橙色のプラズマが灯った。


 流れ星の炎だ。大気が燃えて、闇夜に光の尾を描く。


 数千年間、ひそかに待たれた光だった。

 だが落ちてくるのは星ではない。


 流れ星の正体は、はるか昔の文明の遺物だ。

 ある戦士の亡骸を納め、この星の衛星軌道を漂い続けてきた、直方体の黒い(はこ)。表面は黒曜石のように滑らかだ。


 不可視化の術が施され、何千年ものあいだ誰の目にも触れなかった函は、使命を果たすべき時を迎えた。


 函の名は〝永生棺(えいせいかん)〟という。

 死者を葬るのでなく、永き年月の果ての蘇生を約束する石棺だ。


 プログラムされた発動条件が満たされ、魔術の導きで衛星軌道を外れた永生棺は、重力のままに大気圏へ再突入して灼熱を帯びていく。


 永生棺は燃え尽きもせず、膨大な熱エネルギーを吸収する。そのエネルギーを利用し、内部に収容した戦士の肉体を、再構築するのだ。


 損傷した五体を補い、干からびた血肉を潤し、断絶した神経網を繋ぎ直し――、




 喪失した生命を〝擬似生体(ぎじせいたい)〟として呼び起こす。


 蘇ったこの時代へ、ふたたび魔法の猛威を振るうために。




 落下し続ける永生棺は、火球となって雲を貫いた。

 そのゆくえを、軌道制御の魔術が誘導している。到達すべき目的地に向けて。


 そして一瞬の後、函は轟音を上げて地表へと衝突した。

 衝撃で木々がなぎ倒される。

 鳥たちが一斉に飛び立った。

 落下した山肌に、クレーターが穿たれた。


 激しい地響きと、その余韻。


 ちりちりと、草木の焦げる音が鳴っていた。


 山の中腹に突き刺さった黒い棺が重い音を立てて、内側から真っ二つに裂けた。

 機能を果たした部品が飛散して、中身が露わになる。


 〝彼〟は、外の地面へ足を踏み出した。


 姿は人間の男だった。復活したばかりの肉体。長身で、筋骨隆々とした体格。

 肩までの白っぽい髪が乱れて垂れ下がり、顔を隠していた。

 全裸の体には、ぼろぼろの腰布を巻きつけてある。


 ネムリ。それが彼の呼び名だった。

 過去文明の時代には、狂戦士の呼び名を受けた男。


 力強い脚でネムリは歩き、夜の風を受けた。眼下には街の光が広がっている。


 かすかだが、標的の匂いがする。鼻をひくつかせ、猛々しく犬歯を剥く。

 そう遠くはない。

 

 地面を蹴って、猛然と山肌を駆け降りる。人間離れした身体能力が、ネムリをいざなった。


 その身にふたたび宿すべき――奪い取るべき、生命の元へ。



 満月が、すべてを見下ろしていた。




*現代を舞台にしたファンタジー×SFアクション小説です。

*ご意見・ご感想・評価・ブックマーク、なんでもリアクションいただけましたら嬉しいです!とっても励みになります!

*いにしえの狂戦士・ネムリが落下した場所は、埼玉県と東京都に渡って存在する、狭山丘陵のあたりを想定しています。

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