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3.星の日を一緒に過ごしました。

お店のドアが開いて、アルが顔をのぞかせる。


「リズ!」


思わず染まる頬に、かすかに高鳴る胸に気付かないふりをして、いつも通り私は笑う。


「こんばんは、アル。いこっか!」








「アル、あれ飲んでみたい」


ごった返す雑踏の中を二人で歩くと、必然的に物理的距離が縮まって、アルの顔が近い。

恥ずかしくて思わず顔を背けてしまい、誤魔化すようにそう言った私が指さしたのは、道行く人が持つグラスに入った飲みもの。ラメでも入ったかのようにキラキラしてて、そうまるで星の日にぴったりな、星屑みたいだ。


「星のカクテル、飲んだことないの?」


隣のアルが首をかしげて聞いてくる。


「あ、うん、飲んだことない…」


アルの顔の近さに堪え切れず、かあっと頬が染まるのはきっとみられてない、はず。


「ふふっ、じゃあ買いに行こうか」


そう言って、おもむろに私の手を取ったアルは、「はぐれないように」と笑って、そっと包み込んだ。

気弱だったアルが....なんだか今日は積極的だ。

いや、正体を隠して城下町に出没するあの眼光鋭い王太子だから本当は違うのはわかってる。それでもいつもと違う様子のアルに翻弄されてしまう。

手を引かれるままに、星のカクテルの売ってある屋台まで連れてこられる。


「味がいくつかあって。ピンクがイチゴ、黄色がオレンジ、青がラムネ、紺がブルーベリー。どれにする?」


うーん、どれも捨てがたい。ピンクは好きな色だけど味としてはオレンジも気になるし、紺は星空みたいできれいだし、青は……アルの瞳の色だ。


「んー、じゃあ……青で」


注文して直ぐにジュースは出来上がり、アルが受け取ってくれる。


「はい、リズ」


差し出された青。彼が手に持つのは紺。


「ありがとう。アルはブルーベリーにしたんだね」

「うん、リズの瞳の色に似てるからね。」


ぱっとアルの顔を見ると、にっこり笑うアル。その綺麗な瞳には戸惑う私を映していて、やっぱり今日はなんだか....アルに翻弄されている。

彼はもっと気弱で、私との関係も仲の良いお友達の域を出ないものだったはずなのに、いつもよりすごく積極的で....。

まるで私のこと....。


だけど勿論そんなわけ、ない。

火照る心の奥が急速に冷たくなる。

私、いま、騙されようとしてるんだ。

アルからついっと視線を逸らす。


「そっか....嬉しいな」


この世界に来てからは、作り笑顔にも慣れた。

にっこり笑った顔をアルに向ける。わかってる、騙されたふりをしなきゃ。そうして彼の思惑を見抜かなきゃいけない。わかってる。

何もかも。この世界の全て。





お祭りの街を見て回ったあと、アルとやってきたのは小高い丘の上。

斜面になっている野原に2人並んで座ると、街の灯りが眼下に広がる。


「寒い?」


夜風に少し身をすくませた私に気づいて、アルがそっと私の肩に手を回す。軽く力を入れられて、私はアルにぴっとりとくっつく形になる。肩にかかるアルの手は、ゆっくり私の肩と二の腕を擦る。

少しだけ赤くなった顔は、暗闇にまぎれて見えない。ちらとアルを見上げるも、視線が街の灯りに向いているのはわかるが、顔色までは伺えない。

高鳴る心臓に、身体が熱を持つ。信じたらダメだと思っていても、身体は正直だ。


今日の夜空は美しく、今日のこの日、多くの人から見てもらえることを喜ぶかのように、いっそう煌めいている。


やがて街の灯りがぽつぽつと消える。お店の灯りもすべて消え、一瞬の闇が広がる。

闇の海に突如浮かんだのは、街の中心にある時計台。下から照らされた文字盤に、細い針がかちかちと動いて私たちに時を知らせる。

その針が真下を通り過ぎたあたりから、小さなさざめきが漏れ始める。


「30……29……28」


丘に座っている他の人たちも、小声で言い合う。


「21……20……19」


アルに肩を抱きしめられたまま、私も手元をたぐりよせる。


「10……9……8」


小さなガラス戸を開けて、中央を探る、あった。


「7……6……5」


アルを見る。準備万端の意を込めて頷くと、アルも頷き返す。


「4……3……2」


そっと指先に魔力を込める。


「1」


広がる光に、目を奪われる。

どこからともなく、わぁぁ、という歓声があがる。夜空の星と街の星。


「綺麗……」


夜の8時ちょうど、街の灯りをすべて消し、そのきっかり1分後に人々は手に持つカンテラに魔力を込め、空に放つ。

視界のすべてが星。余りの美しさに、すべてを忘れて、感嘆のため息を漏らした。

その瞬間。








ツキン、と頭の奥が痛む。


「…え……」


何かがよみがえる。星でいっぱいの…。


『おい!どうなったんだ…!』

『……まて!……こいつなら…』


だれ、だれなの。

モノクロの世界。


星空を背に、ぼやけた”彼”。
























「リズ?どうした?」


アルの不安げな瞳が視界に飛び込んでくる。

ふっと、痛みがなくなる。


「あ、れ……私…」


いつのまにかカンテラは遠くまで上がっている。

もうじき街の明かりも戻るだろう。

アルがそっと顔をのぞきこんでくる。


「大丈夫?」

「え、あ……うん、ごめん」


今のはなんだったんだろう。

一面の星空に感動した瞬間、不思議な痛みと共に何かを思い出したような……。

あれ、何を思い出したんだっけ。


「瞬きもしないで見てるから。声をかけても全然気づかないくらい真剣に見てたね」

「あ…、なんか、あんまり綺麗でぼーっとしちゃって……」


今までに経験したことのないあの感覚が、なぜかもう思い出せず、そのまま口をつぐむ。

そんな私をアルはじっと見つめて、ふと目線を逸らす。


「また来年も、来られたらいいね」


胸の奥がじんわり熱くなる。

アルの正体に気づく前なら、手放しでこの気持ちを喜べたのだろうか。


「うん、そうだね」


ぼうっと星を見上げてそう答えた私は、アルの目がじっと私に向けられていたことに気付かなかった。












⭐︎-----------⭐︎



「……星、か」


リズを家に送り届けた後、先ほどの丘へ戻ってみる。

星を見た後の彼女の態度が、やけに気になったのだ。

リズと一緒に星を見たあたりに腰を下ろして、先ほどと同じく街を見下ろす。カンテラを飛ばしたあとに一度明かりがついた街だったが、ふたたび眠りと夢に呑み込まれつつあった。

ふと近くの茂みに目を走らせる。

感じた気配の予想通り、暗闇に赤毛の男が現れた。


「殿下……」

「誰が聞いているかわからない。アルと呼べといっただろう」

「申し訳ございません、アル。リゼットのことで、少し…」

「何かわかったのか」


すっと近づいた男がささやいた言葉に、思わず眉をひそめる。


「……わかった。このまま続けてくれ、ユース。」




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