0.プロローグ
リゼット一行が、『自警団』の活動中遭遇したのはアルベリック王太子率いる騎士団、つまり敵。
なんとかその場は逃れるも、リゼットは動揺を隠しきれないでいた。
だって、王太子殿下その人は、彼女の勤める店の常連客であり、想いを寄せる人だったから。
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数年前に投稿した未完結小説「天秤は傾かず」を再度推敲し、投稿しなおしました。最後までどうぞお付き合いください。
ーーーー星空と月だけが見守ってくれている。
いつものごとく魔物退治に励む私たちの眼前に、騎士団を率いる彼が現れた。
「なんでこんなところにいるんだ……」
吐き捨てるように悪態をついたのは、我らがリーダー。
その言葉には非常に同意。
私たちはじりじりと後ずさりを始めたが、馬上の美しい彼は私達をひとにらみした。
「こんなところで何をしているんだ、『自警団』」
人を制圧することに慣れた怖い声だった。
仲間と共にずりずりと後退しながら、私は心の中で泣いた。
「ふん、そんなこともお分かりにならないとは、ぼんくら王太子だという噂はどうやら本当のようですね」
リーダーの不敬な言葉にも、美しい王太子様は軽く眉をあげただけだった。
「それにしても、たかが魔物一匹仕留めるのにやたらと大所帯なことで。使えない騎士に、貴方のお世話係に、連れてこなければならない者は多いですからね」
この状況で追い詰められているのはどう考えてもこっちだ。向こうが大所帯というのは、つまり敵の人数が多いということ。それに、挑発のためにああ言っているけれども、王国騎士の強さといったら、化け物並みで、対するこっちはなまくら手にした少数『自警団』。
どちらの分が悪いかなんて、火を見るより明らかだ。
ようやく動揺から立ち直った私は、周りにいる仲間たちに小さく目くばせをした。じりじりと後ずさるふりをして、仲間の背後に隠れる。相手側から私が見えないことを確認して、手のひらを口元に寄せ、小さくつぶやく。
「こんなところで何をしてるかだって?我々の目的など、ご存じのはずだ!知っていてなお、貴方方が動かないのはどういう了見か、知りたくもないですがね!」
リーダーの時間稼ぎのおかげで、準備は完了した。
私の周りに仲間が集まっていることを確認して、最後の詠唱をする。その刹那‐‐‐
「うわっ!」
強烈な光が私たちを覆う。私が詠唱して発動したのはここにいる仲間を丸ごと転移する魔法。
その光の向こうで見えたのは、まぶしさに目を細めるあの人。
あなたがまさか、敵なんて。