そのポーカーフェイスを崩したくて
「エリオット。いい加減にして」
「タバサ、そんなこと言わずに一口!ほら」
「なんで貴方が口をつけたアイスクリームを食べなくちゃいけないのよ」
「美味いから!絶対後悔させないって!」
「一口だけだからね」
タバサはそう言うと、エリオットの差し出すアイスクリームに手を…伸ばさず、隙を見てエリオットに自分の食べかけのアイスクリームを食べさせた。
「むぐっ!?」
「ほら、こっちも美味しいでしょう。これでおあいこね」
エリオットのアイスクリームを自分も食べる。美味しい。
「ねえ、エリオット。これは冗談なのだけど」
「おー、どうした?」
「私の婚約が白紙になったから付き合ってって言ったらどうする?」
「…どこからが冗談なんだ?」
エリオットは途端に獲物を狩るハンターの目になる。タバサはおお怖いとおどけて見せた。
「婚約が白紙になったのは本当。我が公爵家と懇意にしていた侯爵家の次男が婿養子として嫁いで来るはずだったのは知ってるわよね?」
「ああ…懇意にしていた…過去形なんだな」
「ええ。向こうがちょっとした投資で儲けたらしくて、調子に乗って奴隷売買に手を染めたみたい」
「重罪じゃねーか」
「そ。危害がこちらに及ばない内に縁切り、さようならってわけ。それでも小煩い狸ジジイ共はうちにも責任がとか騒いでいるようだけど…ま、うちは本当に関わっていないのだから大丈夫でしょう」
エリオットはタバサを見つめる。
「つまりお前は今フリーなわけだ」
「ええ。そうよ。同じ年頃の良い男性は軒並み売り切れ。既に婚約者がいる方ばかり。信頼できる人でフリーで仲良く出来そうなのはたった一人だけなの」
タバサもエリオットを見つめた。エリオットは腹を決める。
「タバサ。俺は辺境伯家の三男で、ちゃらんぽらんに見えてもそれなりに優秀だと周りからも評価されてる。恋愛至上主義の両親のおかげで婚約者もいない。公爵家の婿養子としては結構な優良物件だろ?」
「そうね」
「おまけにお前を心から愛してる。そのポーカーフェイスを崩したいくらいには」
エリオットはポケットから小さな箱を取り出した。開けるとそこには指輪。タバサは目を見開いた。
「本当は今日、俺の方からプロポーズして…受けてくれるなら駆け落ちしてでも一緒になるつもりだった。お前が好きだ、タバサ」
「…敵わないわね。私も好きよ」
驚きと嬉しさのあまり泣き笑いするタバサを抱きしめるエリオット。二人の未来は眩しいほど明るい。