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リーズレットさんの宮殿。


周囲を美しく湖で囲まれ、そこかしこに水晶のタイルがあしらわれた美しい宮殿は、風通しの良い作りの為、窓が大きく、外の景色がよく見える。


窓の外には美しい湖と、それを囲む木々や花などの自然や、街並みも望む事が出来、その素晴らしい景観に誰もがうっとりと笑顔になる。


そう、誰もが笑顔に。


「まったく!!なんだってこんなに突然なのよ!!しかも何よ!!私は入浴中だったのよ?!それをいきなり引っ張り出されて、しかも服を着る間もなく布を被せられて、そのまま荷物のように運ばれたのよ?!ありえないわ!!」


目前に広がる素晴らしい景観に目もくれず、ぷりぷりと怒りを撒き散らすオカマが1人。


超、機嫌悪い。

激オコだ。


たしかに目の前の激オコオカマエルフは、頭にタオルを巻き、バスローブを着た姿だ。


ちなみにどちらも私がお買い物アプリで購入した。


だって、ドワーフの住むハイデルトに長身のエルフが着れる服なんてなかったんだもの。


「まあまあ、そう怒るでない。」

リーズレットさんはエレンダールさんにグラスを差し出す。


エレンダールさんはグビグビと飲み干して、パチパチと目を瞬いた。

「あら!美味しい!」


よかった。

少し機嫌がなおった。


ちなみに中身はこれまた私が出したサングリアだ。


美味しいお酒で機嫌が治る単純なオカマで良かった。


エレンダールさんはサングリアの入っていたグラスをおくと、テーブルに頬杖をついて私たちをじっとりと見回す。


「それで?いきなり連れて来られた理由はなに?」

直球で聞かれて私たちも顔を見合わせる。


ミカドちゃんの部下であるムラサキちゃんは、有無を言わせぬ勢いでエレンダールさんを拉致してきたらしい。


4大公爵の1人であるエレンダールさんを拉致出来るなんて、ムラサキちゃんの能力はどうなっているんだ。


「……とりあえず、先にお着替えをしましょう。」

私はそんな事を考えながら、エレンダールさんを促した。




エレンダールさんにお買い物アプリでジーパンとTシャツを購入して着てもらい、私たちは再びテーブルにつく。


相変わらず顔とスタイルが良すぎる。

ただのジーパンとTシャツが超高級品に見える。


リーズレットさんがこれまでの経緯を説明してくれて、私もテーブルにスマホを置いた。


「……それで、これなんですが。」


ステータス画面を開いて差し出せば、エレンダールさんは目を見開いてそれを凝視して、呼吸を止めた。


それからゆっくりと私の顔に視線を移し、深くため息をついた。


そして。


ぎゅむ。


「?!?!…い……いらいいらい!!いらいれふ!」


なぜか私の頬っぺたを捻り上げた!


「この……!!おバカ娘!!なんだっていつもとんでもない事してくれてんのよ!!」


耳元で鼓膜を破らんがごとく大声を出すオカマエルフ。


「ひょんなの、わらひにひわれへも!!」

頬をつまみ上げられてろくに言い訳も出来ない!!


「おだまり!!」


エレンダールさんはトドメとばかりに叫んでから、私の頬っぺたから手を離した。


ようやく解放された頬っぺたをさすりながら、エレンダールさんを睨む。


伸びたらどうしてくれるんだ!


「でもこれでわかったわ。ユールノアールに温泉が湧いた理由が。」


ため息混じりに漏らしたエレンダールさんの言葉に、今度は私が目を剥いた。


「ユールノアールに温泉が湧いたんですか?!」

思わず大声で聞くと、エレンダールさんはキョトンと意外そうな顔になる。


「ええ、そうよ。トキコちゃん、知らなかったの?てっきり別れの挨拶にトキコちゃんがやったものだとばかり思ってたわ。」

「知りませんよ!!いつ?!」

「ほら、トキコちゃんが私のところから去る時に私のために祈ってくれたじゃない。その時よ。」


言われてその時の事を思い出してみた。


うん、たしかに祈った。

エレンダールさんや、ユールノアールの人を守れますようにって。


それがなんで温泉?


「…‥別に温泉を湧かそうなんて、思ってないのですが。」

私が言うと、エレンダールさんは首を傾げる。


「そうなの?でも、湧いてるわよ?そりゃあもう、すごい勢いで。お陰でユールノアールでは誰もが温泉を楽しんでるわ。」

リーズレットに頼んで、浴槽や建物を整えてもらおうと、そんな事を考えていた、とエレンダールさんは続けた。


「それじゃ、何を祈ったんだ?ねーちゃんは。」

侑李に聞かれて私は答えた。


「『エレンダールさんやユールノアールの人たちを守れますように』って。だって、もしユージルが私を捕まえる為にエレンダールさん達を人質にするなんて事があったら困ると思って。」


素直に答えると、エレンダールさんとリーズレットさんが顔を見合わせる。


そして何やら神妙な顔になって。


「ちょっと!!トキコ!!私たちの鑑定をしなさい!!」

「すぐに!すぐに鑑定をするのじゃ!!その道具で出来るのであろう?!」


ものすごい剣幕で詰め寄られる。


ど…どうしたというの?

エレンダールさん、珍しく私のこと呼び捨てにしてるし!


「なんなんですか?!落ち着いて!」


両手で2人を抑えつつ距離をとろうとするが、2人の勢いは止まらない。


「落ち着いている場合じゃないのよ!」

「ええい!!早くせぬか!!」

「わかりましたからぁぁ!!」


私が答えるとようやく少し離れてはくれたが、2人の鼻息は荒い。


吹き飛ばされそうだ。


私はひとつ、小さく息を吐いてからカメラを起動する。

『鑑定』に合わせて……と。


「はい!撮りますよー。」

私はまず、エレンダールさんにカメラを向けて撮影をしてみた。


エレンダールさんはせっかく写真を撮ってるというのに、なんだか仏頂面だ。


きれいなんだから、もう少し笑顔になればいいのに。


「どれどれ……。エレンダールさんはこんな顔してても美人で羨ましいで……すぅぅぅぅ?!?!」


エレンダールさんの姿の上に並んだ文字に、私は悲鳴をあげた。


ちょっと!!

これはどういう……?!


エレンダール=フレイニール

573歳


HP 800

MP 950


称号

森林の王

森の賢人

湯goodラニアの頭脳(予定)

温泉神(見習い)のじいや



「「「……………」」」

スマホを覗き込んで、みんなで仲良くフリーズ。


いやいやいや。

何かの間違いだって。

ほら、スマホもさ、機械だし。

故障することもあるって。


「い…‥嫌だなぁ!こんな大事な時に故障だなんて!ちょっと、一回再起動してみますので、少々お待……「なんじゃゴラァ!!わかるように説明してみろやぁ!!」ヒエエエエエ!!」


エ……エレンダールさんが男になった!!


野太い声で凄まれて背筋が凍る。


私が体を丸めて怯える様子を見て、エレンダールさんはハッとした顔になったけど、すぐにおでこに青筋を立てた。


「なんで私がアンタのじいやなのよ!!アンタみたいな孫を持った覚えなんてないわよ?!だいたいなんなのよ?!湯goodラニアって!!冗談にしても酷すぎるのよ!!」


今度は金切り声で怒られて耳をふさぐ。


男でもオカマでも超怖い!!


「エレンダール、少し落ち着け。トキコよ。とりあえず妾の鑑定も頼めぬか。どうやら予想は当たっておるようじゃ。」


リーズレットさんは大興奮のエレンダールさんを見て返って落ち着いてしまったのか、冷静な声で言う。


「予想って?」

「うむ。トキコよ、其方、先程ユールノアールでエレンダール達のために、祈ったと言っておったな?『エレンダール達を守れるように』と。もしも、じゃ。その時に既に其方に《温泉神》の称号があったなら、それは神の加護を与えたという事になる。そしてその加護により、ユールノアールに温泉が湧いたのならば、そこは《温泉神に守られた土地》と言う事になるのじゃ。」


リーズレットさんの説明は、とてもわかりやすく、しかしわかりやすいだけに私へ衝撃を与えた。


え……ちょっと待ってほしい。


それって、温泉が湧いたところは、私の加護のある地ってこと?


言うなれば、私の、陣地?


それって。


真っ青になってエレンダールさんとリーズレットさんを見る。

2人は何かを諦めたような顔になり。


「「ユグドラニアが、湯goodラニアになってきてる(わね)(のじゃ)」」






お読みくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やぁだ、温泉神に侵食されて世界が文字化けしてバグったみたいになってるぅー。
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