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なんとか、4大公爵を集めて、意見を聞こう。
話はその方向でまとまったんだけど、その4大公爵を集めるというのがなかなかに難しい。
特にオルガスタにいるお父さんは、一番困難だ。
動きがなければ、ユージルが一緒にいる可能性が高い。
それからニフラ領のリグロさん。
土神がニフラに顕現したとミカドちゃんが言ってたし、厳しいだろう。
と、なると。
「まず、エレンダールさんですかねぇ。」
私が言うと、リーズレットさんも頷いた。
「そうじゃな。すでに神の手が及んでいる可能性は否定出来ぬが、探ってみるしかあるまい。」
まずはエレンダールさんを呼ぶという事はみんな同意見だ。
あとは。
「どうやって、呼びましょうか?」
私の問いかけにリーズレットさんも考え込む。
変に動くと、もしユールノアールに神がいた場合、まずい事になる。
そんな私たちの悩みを解決したのは、ミカドちゃんだった。
「トキコの姐御。俺に任せてくれ!」
ドン、と胸を叩いてミカドちゃんが申し出る。
「ドラゴン急便を使えば、怪しまれる事はねぇと思うぜ!何せ今じゃドラゴン急便はユグドラニア中を飛んでるからな!」
「ミカドちゃん!!」
思わず両手を胸の前で組む、乙女なポーズをしてしまう。
しかしすぐにその手を解く。
「……でも、どうやってドラゴン急便に伝えよう。それに、そんな事を伝えたら、すぐにリグロさんにも知られちゃうよね。」
私がそういうと、それもそうだ、とリーズレットさんも視線を落とす。
しかしミカドちゃんはニッと笑った。
「心配いらねぇぜ!姐御!」
パチン、と指を鳴らす。
すると、シュタ!と天井から何かが降ってきた。
えええ?!
その場の誰もが目を見開く中、ミカドちゃんは落ち着いた声で天井から振ってきた黒装束の子供に話す。
「聞いていたな?ムラサキ。」
「ハッ!」
「どのくらいで動ける?」
「すぐにもユールノアールに飛びます。おそらく、2日ほどあれば、エレンダール様をお連れできるかと。」
…………。
ミカドちゃんが……!!
有能すぎる……!!
2人のやりとりを目の当たりにして、私と侑李はポカン、と呆け、リーズレットさんとラウムさんはキラキラと目を輝かせた。
「な……なんじゃ?!この子は?!どこにおったのじゃ?!素晴らしいではないか!!」
「いやはや!領主の宮殿に忍び込めるとは、まことあっぱれ!!まったく気がつかなかったぜ!!子供とはとても思えねぇ!!」
2人に手放しで褒められてミカドちゃんは誇らしげな顔になる。
「へへへ……。照れるぜ。これはムラサキ。我が《栄光の竜達》のメンバーのひとりだ。もしもの時に役立てるように、密かに俺に付かせておいたんだ。」
いつの間にそんな事を……。
そして忍びこまれて気がつかないとは、この宮殿の警備は大丈夫なのだろうか。
ミカドちゃんに紹介されてムラサキちゃんはスッと頭を下げた。
「《栄光の竜達》、ムラサキと申します。姐御、敬愛する姐御のお役に立てること、望外の喜びです。このムラサキ、身命を賭してお役目、勤め上げてみせます。」
「いやいやいや!ムラサキちゃん、まだお子様だよね?!身命を賭しちゃ、ダメだよ!!」
ぜひ子供らしく元気に過ごして、大人になっていただきたい!
本当になんなんだ。
《栄光の竜達》
ミカドちゃんも部下にどういう教育してるんだ!
「姐御、心配しなくてもムラサキは組織のNo.3だ。必ずやり遂げてくれるぜ!」
「姐御は違った意味で心配だよ!」
「ねーちゃん、ついに自分で姐御って言っちまったな……。」
侑李にため息をつかれる。
「ほぅ、《栄光の竜達》はトキコの配下であったか。トキコよ、いつの間にこのような頼もしい部下を持ったのじゃ?羨ましいぞ!」
「違いますリーズレットさん!」
即座に否定するが、誰も聞いちゃいない。
「それで?どうする?ねーちゃん。ムラサキちゃんに頼むのか?」
侑李もすでに色々諦めた顔をしている。
幼気な子供にお願いするのも気が引けるけど、正直現状これが1番いい方法だ。
私はムラサキちゃんに向き直る。
「無理は、しないでね?それと、急がなくていいからね?ムラサキちゃんの安全を1番に考えてね?」
そう言うと、ムラサキちゃんは表情を引き締めて頷いた。
「ハッ!!お気遣いいただき、ありがとうございます!!必ず!」
シュン。
ムラサキちゃんは音もなく姿を消す。
「……‥ミカドちゃん。リグロさんや《栄光の竜達》の親御さん達は、みんながこんな事してるって知ってるの?」
心配になって聞いてみれば、ミカドちゃんは笑って答えた。
「知ってるのわけがねぇ!知られてたら隠密行動なんて、出来ねぇからな!表向きは周りよりちょっとばかり出来のいい、ただの子供だぜ!」
ドラゴン急便の運営をしているってだけで『ちょっとばかり出来のいい』なんてもんじゃないと思う。
私は大きくため息をついた。
お読みくださりありがとうございます。