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いったい、どういう事なのだろう。


私はずぶ濡れになった体から滴る水滴を拭うことも出来ずに呆然と立ち尽くした。


目の前には、ドバシャアアアア!と噴き出る水柱。


傍らには拳を突き上げて大興奮するドワーフ達。


「ねぇ、侑李。」


水柱を眺めながら隣で同じように呆然としている侑李に声をかける。


しかし、何と言ったらいいのかわからず、ただ名前を呼ぶだけで声が止まってしまった。


「うん、ねーちゃん。」


侑李も私と同じく、そこで声が止まってしまう。


出来ちゃったよ………!!


信じられない……!!


「トキコよ!何をぼんやりしておるのじゃ?おお、そのように濡れおって。ラウム!何か拭くものを持て!」

リーズレットさんは立ち尽くしたまま動けなくなっている私のところに来て声をかけてくれた。


「嬢ちゃん!濡れたままだと風邪ひくぜ!いや、温泉であったまったから、風邪はひかねぇか!」


ラウムさんも手に大きなショールのような布を持ちやってきて、ガハハと笑いながら、バサァ、と私に被せた。


「あ……りがとう、ございます……。」

なんとかお礼を言って、体を拭く。


拭いているうちに、少し落ち着いてきた。


出来ちゃったよ……。

出来て、しまったよ…‥温泉。


なんだ、これ?

どういう事だ?

なんで、ユージルがいないのに、出来てしまったんだ?


今までの事や、ユージルに言われた事をもう一度思い出してみる。


まず、私が一人で出来ていた事。

レイドックおじさん達にチートブレスレットの贈呈。

ドワーフ達にスキル取り戻し握手会。

あとは、何かあったか?


そうそう、ニフラで温泉湧いた時、確かユージルが「温泉は斗季子の力が強い」的な事を言っていたような……。


それから、人や物に力を与える事は私にも出来る的な事を、言われた気がする。

それに、慌てていたからその時は気付かなかったけど、侑李犬に乗ってオルガスタを脱出する時も、侑李に光る何かを投げつけてる。


もしかして、私って何かを付与する力はそれなりに、いや、かなり持ってる?


今更ながらその事に気が付いて、我ながらびっくりする。


何にびっくりしたかって、けっこう色々やってきたのにその事に気が付いたのが今になってという点だ。


遅い…‥遅いぞ!斗季子!


こっちの世界に来て、なんだか流れに身を任せて過ごしてきてしまったけれど、もっと早く色々検証するんだった!


「侑李、私、もう一回自分の能力について、ちゃんと考えるべきなのかも。」

神妙に言ってみれば、侑李もうなずいてくれた。


「そうだな。たしかにそれがいいかも。」


そのあとは、お決まりのように犬者様‥‥じゃなくて、賢者様のお力と、ドワーフ達の尽力によって、無事に温泉施設か完成したわけなんだけど。




「なんじゃと?!トキコが花にじゃと?!」

リーズレットさんはバン!とテーブルを叩きつけながら立ち上がる。

その顔には驚愕の色が浮かび、少し青ざめていた。


場所を移して、リーズレットさんの宮殿。

温泉施設の方の目処が立ち、今日のところは休もうとなってやっとリーズレットさんに落ち着いて話をする事が出来た。


「はい。」

私はうなずきながら返し、リーズレットさんの様子を伺っていた。


「な…‥なぜそのような大事な事を、早く言わぬのじゃ!」


リーズレットさんがそれを言うか。


思わずリーズレットさんを伺う私の目が胡乱なものになる。


「話そうと思ったのに、なかなか言わせてくれなかったじゃないですか。」

私がそう言うと、リーズレットさんはバツが悪そうに視線を逸らした。


どうやら思い当たるらしい。


「しかし、よもやユージル様がそのような事を考えていたとは……嬢ちゃん、それで、なんか手はあるのか?嬢ちゃんが、その、花とやらにならずにすむ方法は。」

ラウムさんの言葉に私も侑李も意外に思ってしまう。


「今、それを探しているところなんですが。ラウムさんは、それでいいんですか?」

私がそう聞くと、ラウムさんはリーズレットさんと顔を見合わせた。


「良いも悪いもあるかの?トキコはそれを望んでおらぬのじゃろう?」

「ああそうだ。それに俺たちだって、嬢ちゃんがそんなもんになっちまうのは望んじゃいねぇ。嬢ちゃんとは、これからも一緒に温泉を楽しんで、酒を楽しんでいきてぇしな。」


ニカ、と笑顔を見せてそう言ってくれる二人に、私は目を見開いた。


「世界樹に、この世界を見守る神々の意志に逆らう事になるんですよ?!」

私が言うと、リーズレットさんは眉根を寄せる。


「たしかに、その通りかもしれぬな。」

「だったら……」

「嬢ちゃん。」

私の言葉をラウムさんが遮る。


「たしかにこの世界を見守っているのは、その神々とかいうものかもしれねぇ。だがな、実際にハイデルトに、俺たちドワーフに恩恵をくれたのは、他でもねぇ、嬢ちゃんだ。見守るだけの神なんかより、俺たちドワーフは、嬢ちゃんにつくぜ。」


ラウムさんの力強い言葉に、リーズレットさんも笑顔でうなずく。


「……ハイデルトの人たちが、危険な目に遭うかもしれません。」


ラウムさんの言葉は嬉しかったけど、不安は拭いきれない。


私が言うと、リーズレットさんはハン、と鼻でせせら笑う。


「ここでトキコを売るような事をしてみろ、それこそ民たちが暴徒と化すぞ!ハイデルトのドワーフ達は、恩知らずではないからの。」

「神とやらになにかされるより、よっぽど恐ろしいぜ!」

ラウムさんもガッハッハと大袈裟に笑う。


リーズレットさん、ラウムさん。


私の目からポタポタと涙がこぼれる。


手放しで私の味方になってくれると、そう言ってくれた二人の言葉に、胸が温かくなる。


とても心強く思う。


「よかったな、ねーちゃん。」

侑李も穏やかに笑顔を向けてくれた。


「……うん。ありがとう、ございます。」

私は深く頭を下げた。


その場にほっこりとした空気がながれるが、リーズレットさんはそれを払うように一つ手を打った。


「さて!では早速じゃが、ハイデルトに何か伝わるものがないか、調べてみるとしよう。ラウム!」

「承知!」


リーズレットさんの声かけでラウムさんが立ち上がる。


「トキコ。特別にこの宮殿の禁足書庫に案内するぞ。本来なら族長一族のみに許された書庫なのじゃが、事が事じゃ。ついて来るがよい。」

リーズレットさんはそう言って胸をはった。


リーズレットさん……!!


格別の計らいに、私は気を引き締めて頷いた。







お読みくださりありがとうございます。

更新が遅く申し訳ないです。


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