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ハイデルトに到着すると、なぜかドワーフ達は大慌てでリーズレットさんの宮殿へと私達を引っ張っていった。


「さぁさぁ!愛し子様!お早く!」

「お館様がお待ちですぞ!!本当によくぞお戻りくださった!!」

「すぐに宮殿に美味しい果物もお届けいたしますゆえ!お急ぎくださませ!」

「愛し子のねーちゃん!おやかたさまがまってるよ!はやくはやく!!」


なんだこの熱烈な歓迎ぶりは……。


ドワーフ達は大人も子供も、女性も男性も、誰もがニコニコと嬉しそうに私達を迎えてくれた。


「‥‥ねーちゃん。大丈夫か?これ、なんか、企んでない?」

侑李も怪訝な顔になっている。


もちろん私も怪しんでいる。


ミカドちゃんだけは嬉しそうに素直に歓迎を喜んでいたけど。


微妙な気持ちになりながらも、せっかくの歓迎に答えないのもなぁ、と笑顔でお礼を言いながらドワーフ達について行くと、宮殿前では腰に手を当てて満面の笑顔で私達を迎えるリーズレットさんと、ラウムさんとその配下達。


うん、わかったぞ。

なんでこんなに大歓迎を受けたのか。


リーズレットさん達は、全員、ニッカポッカに作業ベスト着用。安全靴や、地下足袋もしっかりと履き、工具類もきちんと準備した状態で私達を迎えたのだ。


「よく帰って来てくれたのじゃ!!トキコよ!!さ!早速取り掛かろう!場所はすでに選んでおいたのじゃ!」

リーズレットさんは弾んだ声でそう言って、ラウムさん達も大きく頷きながら私達の方へと歩み寄る。

「案内するぜ!嬢ちゃん!こっちだ!」


「ハハハ…はぁ。」

思わず乾いた笑い声か漏れてしまう。


これは、あれだね?

私に、温泉を作らせようって、そういう事だね?


「リーズレットさん、もしかしなくても、これって、私に温泉を期待してます?」

念のため、聞いてみる。


するとリーズレットさんは、キョトンとした顔になって答えた。


「何を分かりきった事を。トキコもそのつもりでハイデルトに来てくれたのじゃろう?」


ですよねー!


私は大いに納得して、それから大きくため息をついた。


「今回は、ちょっと違うのですが。リーズレットさんにおたずねしたいことがありまして……。」

遠慮がちにそう言ってみると、リーズレットさんは頷きながら私の肩に手を置いた。


「うむ!妾でわかる事ならば、なんでも答えてやろう!」


とても心強い言葉だ。

私は肩の力が抜けるのを感じる。


「リーズレットさん、ありが……「しかしまずは温泉じゃ!!とにかく温泉が出来ねば、話もできぬからのう!!」………。」

食い気味に言われて言葉が止まる。


ダメだ。

リーズレットさんは温泉の事で頭がいっぱいだ。


だけど、いくら期待されても、今回はちょっと難しいのでは?と思う。


「リーズレットさん、楽しみにされているところ、大変申し訳ないのですが、温泉はちょっと無理じゃないかと思います。」

私が言うと、リーズレットさんの目が見開かれる。


「な……なぜじゃ……?」


そんな、この世の終わりのような声で言われると、とても言いづらい。


しかし、期待させたままにするわけにもいかないので、私は説明することにした。


「ユージルがいないからです。その事について、リーズレットさんに話を聞いてもらいたくて、ハイデルトに来ました。」

私の言葉にリーズレットさんは首をかしげて、ようやく辺りを見回した。


「そういえば、姿が見えぬな。どうしたのじゃ。ケンカでもしたか?」

若いのぅ、などと呑気な事を言いながら、ニコニコと聞くリーズレットさん。


「だったらよかったんですけど……。」

言葉を濁してしまう私。


少しの間、沈黙がながれたけど、やがてラウムさんが、ふむ、と顎に手を当てて話しだす。


「なにやら、訳があるのだな?微力ながら、このラウム、男心についてなら力になれるやもしれぬ。嬢ちゃん、ここはどーんとこのラウムに頼るといい!」

ラウムさんはものすごいドヤ顔になった。


なんだかものすごく心配な言葉だ。


「そうじゃな!トキコよ、こう見えてこのラウムはな、若い時はそりゃあもう、数々の浮名を立てた男なのじゃ!ラウムに相談すれば良い!!……さて、話はまとまったな。現場に行こう!」


………え?

ちょっと、なんでそういう流れに?

私の話、聞いてた?


「いや、だからね?リーズレットさん?ユージルがいないんだよ?だから、無理でしょ?私だけで、恵み(温泉)を与えられるわけないでしょ?」

「大丈夫じゃ!!妾は信じておるぞ!トキコなら、きっとこのハイデルトに温泉(恵み)を与えてくれるとな!」

「ルビが逆に?!リーズレットさん?!」

「行くぞ!!テメェら!!」

「「「「おう!!!!」」」」

「ちょっと?!ラウムさん?!」


まったく聞く耳をもたずに、ずんずんと進まされて宮殿からほど近い小島に連れてこられてしまった。


「ここじゃ!どうじゃ、この景色の良さ!ここならば皆が来るのにも利便が良く、宮殿からも近い。さらに手頃な大きさじゃろう?この島を温泉島にしたら、最高ではないか!!」

リーズレットさんは胸を張った。


私としては来る途中に目に入った隣の島の酒蔵と思しき建物が気になるところだ。


利便が良いって、そういう事なのでは?

いやいや、それよりも!


「だから、無理ですって!」

何度も言っているが、再度出来ない事を伝えてみる。


「いやいや!トキコよ!謙遜するでない!」

「嬢ちゃん、遠慮はいらねぇぜ!」


どうしよう……!

まったく聞いてもらえぬ!


どう言ったらわかってもらえるかと、思案しているうちにも、さぁさぁ!と期待のこもった目で私を促す。


ううううう……。


助けを求めて侑李を見るが、侑李も困り顔で肩をすくめるばかり。

ミカドちゃんにも視線を向けてみるが、ミカドちゃんの目はドワーフ達と同じ期待に満ちたものだった。

私はため息をつく。


もうね、一回やってみせるしかない。

それで、無理だとわかってもらおう。


私は覚悟を決めて、みんなから距離をとり、半ばやけくそで地面に手をついた。


「「「「ト・キ・コ!!ト・キ・コ!!」」」」


ドワーフ達からのトキココールを受けてますますゲンナリとしながら、私はその手に力を注ぐ。


「……ハイデルトに、恵み(温泉)を!!」


ちゃんとやってますよ!という事を見せるために、そんな事を叫んでみれば、私の手からは目を開けていられないほどの光が溢れた。





お読みくださりありがとうございました。

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