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空には、輝く太陽。
眼下には一面の緑。
私は、空にいた。
あれからエレンダールさんはお父さんのところに突撃したらしい。
いきなり、
「トキコちゃん、借りるわよ!!」
と、のたまうエレンダールさんに、動揺する間もなかったらしい。
「収穫祭に間に合うようにユールノアールに帰りたいから、調整をお願いね?あ、あと、ドラゴン急便でいくつもりなんだけど、その手配も頼めるかしら?私と、トキコちゃんとユージル様、3人だから1頭でいいわよね。もし、持っていきたい荷物があるなら、それをふまえて数を増やしてちょうだい。それと……」
オネエ言葉でベラベラとまくしたてられて、お父さんがポカンとしている間に、エレンダールさんによってすべてが決定されてしまったそうだ。
オカマ、強し!
エレンダールさんは私のところにもやってきて、日帰り温泉で働いているところを捕まり、「トキコちゃん!明日、出発するから!」と言い放たれ、「え?!明日?!明日って…明日?!」と、訳もわからずうろたえる事しか出来なかった。
「急すぎるんだけど!」といちおう、抗議もしてみたけど、「ちゃんと言ってあったじゃない!なんで準備してないのよ!」と逆ギレされて黙るしかなかった。
オカマ、怖し!
今回は侑李は、学校の課題が終わらないから、と同行を辞退し、私とユージルの二人だけだ。
お父さんはもちろん反対してたけど、やっぱりエレンダールさんが暴れて、お父さんを黙らせている。
オカマ、最恐!
やがて私たちが乗った竜はその高度を下げ始める。
そろそろなのかな?
と、あたりの様子をうかがうと、もっさりとした森林と、その中に佇む乳白色の建物群が見えてきた。
「ギャァ、ギャァ!」
「ウホウホウホ!」
「クエェェェ!!」
…………。
森が近づくにつれ、何やら動物の鳴き声も聞こえてくる。
そして高度が下がるにつれ、ムワッとした熱気に包まれる。
暑い。
そしてこの鳴き声。
周りの木々。
ユールノアールは、熱帯雨林だった。
「トキコちゃん、ユージル様!お疲れ様〜!早速私のお家に案内するわね!」
エレンダールさんはいそいそと私たちを連れて歩き出す。
「お帰りなさいませ。族長。」
「族長!今日もお美しい!」
歩いていると、たくさんのエルフ達に声をかけられる。
さすがと言おうかなんと言おうか、皆さんとても見目麗しい。
抜けるような白い肌に、サラサラの髪。
お決まりの、尖った耳。
男性も女性もみんな線が細く、モデルのようだ。
エレンダールさんは周りのエルフ達に笑顔で応えていたが、そこはさすがというか、いつものふざけたオカマっぷりを仕舞い込んで、威風堂々といった様子だった。
しばらく歩いていると、背の高い塔のような建物に到着した。
「ここが私のお家、《象牙塔》よ!」
エレンダールさんがジャジャーン、というように、両手で塔を指し示す。
その名の通り、象牙で出来ているのだろう。
ツヤツヤとした乳白色のとても美しい塔だ。
たくさんの半円状の窓があり、風通しも良さそう。
私が塔を見上げていると、中からお迎えの人が来た。
「族長、お帰りなさいませ。」
エレンダールさんより低い渋い美声の男の人だ。
エレンダールさんのようにストレートの髪を長く伸ばしていて、切長の目の背の高い美男子。
美しいエルフ達の中にいても目立ちそうなほど、きれいな人だった。
「あら!スフィアリール。ただいま。今、帰ったわ!」
エレンダールさんの様子から、きっと気のおけない関係の人なんだとわかる。
「紹介するわね。彼はスフィアリール。私の補佐をしてくれている、まあ、副官ってとこかしら?スフィアリール、こちらは以前話していた《ユグドラシルの愛し子》トキコちゃん。そしてこちらが、この世界の世界樹、ユグドラシルであられるユージル様よ。」
エレンダールさんが私たちを紹介すると、スフィアリールさんはスッと美しい動作で跪いた。
「ようこそ、ユールノアールへ。ユグドラシル様、その愛し子様をお迎え出来る日が来ようとは、光栄の至りでございます。ご用がありましたらなんなりとこのスフィアリールにお申し付けくださいませ。また、至らないところがございましたら、ぜひこのスフィアリールを足蹴にしていただきたく。」
スフィアリールさんは丁寧に挨拶をしてくれた。
「これはこれはご丁寧に、ありがとうございます。こちらこそ、よろし……ん?」
あれ?なんか、さっきのスフィアリールさんのご挨拶に、変な言葉があったぞ?
聞き間違いかな?と思って首を傾げていると、スフィアリールさんはとてもきれいな微笑みを浮かべて私を見た。
「いつでもこのスフィアリール、ご用命と、折檻をお待ちしております。」
?!?!
今、なんつった?!
信じられない単語に驚いていると、いきなりエレンダールさんがドカァ!とスフィアリールさんを蹴り飛ばした。
「え?!ちょっと?!エレンダールさ……「ありがとうございますっ!!」……ええええ?!」
びっくりして私がエレンダールさんに声をかけたその時、スフィアリールさんから歓喜に震えた言葉が聞こえる。
「まったく!お客様にまで、変なこと言わないでちょうだい!……ああ、トキコちゃん、ごめんなさいねぇ?ちょっと彼、変わったところがあってね?」
頬に手を当てて、エレンダールさんは誤魔化すように笑う。
ちょっと?
変わったところ?
私はゴクリと唾を飲み込む。
「えっと……それは……どういう……?」
恐る恐る聞いてみると、エレンダールさんはオホホホホ!と笑った。
「大丈夫よ!ただ、ちょっとだけ、ドMなだけだから!」
「それは大丈夫なやつなの?!」
公爵である族長がオカマ。
その副官がドM。
大丈夫なの?!
ユールノアール!!
お読み下さりありがとうございました、