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無事に、帰ってきたーーー!!!
ああ、懐かしのオルガスタよ!!
斗季子は帰って参りました!!
そして愛しの我が温泉よ!!
やっぱり我が家が一番!!
私たちが帰って来ると、いの一番にお父さんに取っ捕まった。
そう。帰り際の私の連絡が原因だ。
運転で疲れている体に鞭打ってお父さんについて行くと、連れて行かれたのは公爵家。
公爵家には、レイドックおじさん、グラニアスさん、ヘンリーさんにカテリーナさんと、公爵家の中心人物が勢揃い。
もちろん、お母さんもいる。
そしてハイデルトでの私たちの事を事細かに説明させられた。
途中、お母さんは私たちの命の危機に顔を真っ青にして心配したり、お父さんがトキコタイトの発見に感銘を受けたり、侑李犬=天狼の発現に、公爵家のみんなが平伏したりと、なかなか大変な事になったけど、最終的には、「ハイデルトのために、よくやってくれた。」と褒められて終わった。
無事に帰ってこれて嬉しいけど、私としては心残りもある。
温泉だ。
ハイデルトに温泉を作るために行ったのに、それを忘れてくるとはこれいかに。
痛恨である。
これじゃ温泉の申し子失格だ。
「はぁぁ。本当に近いうちにまた行こうかな……。運転大変だけど。」
日帰り温泉のお休み処で一人ビールを飲んでいると。
「なぁに?帰ってきたばかりなのに、どこに行くのよ?」
「どわああああ!!」
びっくりした……!!
いきなり話しかけないでほしい!!
見るとエレンダールさんが美しい顔にいたずらっぽい笑みを浮かべて私を見ていた。
「エレンダールさん?来てたんですか?」
エレンダールさんは館内着の甚平さん姿で私の向かいに座る。
相変わらずパリコレ感がすごい。
「んまっ!この子ったら、昼間からビールなんて飲んで!悪い子ね!……ケニスさぁん!私にもビールちょうだい!」
どの口が言うか?!
「今日はお休みだからいいんです!それよりエレンダールさんこそ、いいんですか?領土の方は?!」
私に言わせればエレンダールさんこそ、しょっちゅうここにいる気がするぞ!
「ちゃんと領土で仕事してたわよ!ちょうどオルガスタに行くドラゴン急便があったから、乗せてきてもらったの!」
エレンダールさんはそう言ってケニスさんの運んできたビールをグビグビ飲んでいる。
ドラゴン急便。
それは最近、ニフラ領に誕生した、流通システムだ。
今までも他領へ物資を運ぶ竜族の人はいたとのことだが、竜族が必要な時に移動するだけで、きちんとしたものではなかったという事だった。
しかし、それをシステム化し、ニフラ領の人だけでなく、他領の利用者も代金を払って、自由に利用出来るようにしたら便利なのでは?と、いわゆる宅配会社のようなものを立ち上げたらしい。
発案者は、なんとミカドちゃんだ。
その話を聞いて非常にびっくりしたんだけど、ミカドちゃんは、ニフラの日帰り温泉《竜渓の湯》で使う、備品を運ぶ竜を見て思いついたんだそうだ。
天才である。
とても赤子とは思えない。
しかも《ドラゴン急便》なんて呼ばれてるけど、最初は《ドラゴンヤマト》にしよう、なんて話もあったと聞いて、私は非常に微妙な気分になった。
ユージルを通じてジーノ君に流れたのって、本当に魔力だけだったのだろうか。
向こうで私、すごくお世話になっていたんだけど、ク○ネコヤマト。
………深く考えないようにしよう。
「それにしても、なんでドラゴン急便があったからって、ここに?お父さんに用事でもあったんですか?」
さらに突っ込んで聞くと、エレンダールさんは、ふふん、と笑った。
「もうすぐ、ユールノアールで収穫祭があるのよ。その前にきれいになっておきたくて!」
さすがオカマだ。
お祭りに備えて自分磨きとは。
私はへぇ、とおつまみに頼んでおいた枝豆を摘む。
エレンダールさんも摘む。
「私の枝豆、食べないでください……エレンダールさん、磨かなくても美人じゃないですか。なんでまた?」
「いいじゃない!ケチね!……嬉しいわぁ!トキコちゃんって、意外と見る目あるわよね!収穫祭はね、出会いの場でもあるのよ。ステキな女性と出会えるかもしれないでしょう?」
なんと……!
500歳越えで、まだ出会いを求めてるのか……!
そしてエレンダールさんの恋愛対象が女性という事にびっくりだ!!
唖然とした顔で見ていると、エレンダールさんはムッと顔をしかめる。
そして枝豆を食べるスピードが速くなった。
「ちょっと!私の枝豆……!」
「トキコちゃんが失礼な顔で見るからでしょ!」
「だって!!エレンダールさん、オカマなのに女性が好きだなんて、びっくりして…!」
「本っっ当に失礼ね!!どこからどう見ても男じゃない!!」
そうだろうか……?!
再び唖然とする私にエレンダールさんはため息をつきながら頬杖をつく。
「私だって、こう見えて色んな色恋してきたのよ!ひとりの女性を奪い合った事だってあるんだから!」
さも「どうだ!男らしいだろう!」と言いたげに語るが、見かけと口調がオカマなのでどうにも微妙な気分になるだけだ。
とりあえず、その話題からは離れることにする。
「その、収穫祭って何ですか?」
私がたずねると、エレンダールさんも気を取り直して説明してくれた。
「ユールノアールのエルフが、お薬を作るのが得意だって話はしたわよね?そのお薬を作るための薬草をまとめて刈り取って、ユグドラニア中に行き渡るように、たくさんのお薬をまとめて作らなきゃならないんだけど、その仕事が終わると、お疲れ様会の名目でお祭りを開くの。」
私はなるほど、とうなずいた。
私の想像する収穫祭と、だいたい似たようなものだ。
「それでね?その収穫祭には、すごくたくさんのエルフが参加するし、みんなで平等に楽しめるように、普段の上下関係もなくなるのよ。もちろん、私も公爵の立場は捨てて、ひとりのエルフとして参加するわ!だから、若いエルフにとっては玉の輿のチャンスもあるってわけ。」
説明を終えて、エレンダールさんがビールを流し込んだ。
なんだか面白そうなお祭りだ。
それに、エルフが大集合だなんて、ビジュアル的に圧巻だろう。
「楽しそうなお祭りですねぇ。」
エルフ大集合を想像してポワンと呟くと、エレンダールさんはポン、と口元で両手を合わせた。
「そうだ!トキコちゃんもいらっしゃいよ!ユールノアールの収穫祭に招待するわ!」
「え?!私?」
まさかのお申し出に自分を指差しながら聞き返す。
「そうよ!ああ、そうだわ!考えてみれば、ニフラもハイデルトも《ユグドラシルの愛し子》が行ってるのに、ユールノアールだけ来てないって、不公平じゃない。いい機会だわ!」
エレンダールさんは興奮してきたのか、だんだん口調が速くなった。
「早速ラドクリフちゃんに言わなくっちゃ!こうしちゃいられないわ!じゃあね!トキコちゃん!」
「ちょっと!エレンダールさん?!」
私の返事は?!
お読み下さりありがとうございました。




