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「妾達の、苦労とは、なんじゃったのかのぅ?トキコよ。」

リーズレットさんは遠い目をしてボソリと呟いた。

「…………この場合、すみません、って言うので合ってます?」

私が答えると、ゆっくりと首を振る。


「いや、おぬしが詫びる必要などない。むしろ、ありがたい。とてもありがたいのじゃ。」

とても微妙にそう答えるが、リーズレットさんの感謝の言葉に偽りなどないであろう。


ないであろうが……。


私はなにも言えなくなって、目の前の光景に目を向けた。


「わんわんっ!!う〜、わんっ!!」

巨大犬、改め侑李犬はゴーレムと戦いを繰り広げていた。


いや、戦い、というか……。


ブォン!!

ゴーレムのモーニングスターが侑李犬目掛けて振り下ろされる。

侑李犬はそれを華麗にかわし、先についた鉄球部分にじゃれついた。


トゲトゲは、痛くないのだろうか?


侑李犬は私の心配を他所に、鉄球をガジガジとかじっている。

バリンボキンと、棘が折れ、あたりに散らばった。


散々ドワーフ達を蹂躙し、苦しめてきたであろう、モーニングスター。


それはもはや、侑李犬の犬ガムと化し、沢山の歯型でボロボロになっている。


それでもゴーレムは侑李犬からなんとかそれを奪い返すと、再度攻撃を試みる。


………なんだか、ゴーレムが哀れになってきた。


侑李犬は「また遊ぶ?また遊ぶ?」と、期待に瞳を輝かせ、ゴーレムに向かって機嫌の良さそうな声で吠えている。


さらにそのモッフモフの尻尾もブンブンと激しく振っている。


「トキコよ。ユウリにこのまま任せてしまって、大丈夫なのかの?」

リーズレットさんはなんとも言えない表情を私に向けた。


「本人(本犬?)が、楽しそうなので、リーズレットさんがそれでよろしければ……」

私も微妙な顔で返した。


何度目かの攻撃(遊び)の後、とうとうモーニングスターはバラバラになってしまい、侑李犬は「キュウ〜ン」と悲しそうな声を出す。


そろそろおしまいか?

と見ていると、侑李犬はパッと顔を上げて、再びキラキラとした目でゴーレムを見る。


「お?どうしたのじゃ?」

リーズレットさんのゴーレムへの警戒心

はすでに消え去ってしまったらしい。

侑李犬を見る目はドッグランで戯れる愛犬を見る目だ。


「わんわん!!わぉーーん!!」

侑李犬はドドドドド、とゴーレムに走って行く。


そして。


ガッブゥゥ!!


なんと!

今度はゴーレム本体に噛み付いた?!


「こら!侑李!やめなさい!ぺっしなさい!ぺっ!!」

思わず身を乗り出してそう叫んでしまったが、侑李犬は聞く犬耳を持たない。


「侑李!!こらっ!!」

再度叱ってみるが、まったく聞いてない。

侑李犬はゴーレムの太ももあたりにガジガジと齧り付いている。


あ!そうか!


私はポンと手を打った。


「骨か!骨だからか!おやつか何かと思ってるのか!!」

ゴーレムはいわゆるガシャドクロ型だ!

そりゃあ、犬にとってはたまらないだろう。


「と……トキコよ…!ユウリは、あのゴーレムを食うのか……?」

リーズレットさんは愕然として聞く。


「そうですよ!きっと!……ほら!リーズレットさん!あれ!」

私が指差した方にはちょうど骨盤部分から右大腿骨が外され、バランスを崩して倒れるゴーレムの姿。


そしてその横で大腿骨をご機嫌でかじる侑李犬。


リーズレットさんの顔からとうとう表情が消えた。


「あー、もう。侑李!食べすぎると、晩ごはん食べれなくなるよ!ほどほどにしなさい!」

「………そういう問題かの?」


私たちがそんな事を言っている間にも、侑李犬はその強靭な歯でゴーレムをどんどん砕いていく。


そしてとうとう、ゴーレムは頭部のみを残すまでとなった。

侑李犬は頭部は大事にとっておくらしく、ベロンベロンと舐めるに留まった。


「あ〜あ、あんなに食べちゃって…。」

ため息をつく私の横で、リーズレットさんも大きなため息をついた。

「……終わったのぅ。」






「宴じゃーーーーー!!!」

「「「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」」」


美しい星が空に輝く夜。

リーズレットさんは大号令を上げて、それにドワーフ達が答える。


「しくしくしくしくしく……」

私はリーズレットさんの隣でメソメソと泣いていた。


「トキコよ!!何をそんなに泣いている?めでたい日じゃぞ!!」

バァンと背中を叩くリーズレットさんは実にご機嫌だ。


とても痛い。

やめてほしい。


「だって!!侑李が死んじゃったかと思ったんです!そうかと思ったら、巨大犬になっちゃうし!でもよかったぁぁ!侑李、生きててよかったぁぁ!でもどうしようぅぅ!犬から人間に戻らないぃぃ!!」


宮殿前の広場にはたくさんのドワーフが集まり、みんな笑顔で酒を酌み交わしている。


そしてその傍ら、ゴーレムの頭部を大事そうに抱えて、スヤスヤと眠る巨大犬。


眠る巨大犬の前には、お供物のようにたくさんの食べ物が置かれていたけど、気付く様子もなくひたすらに眠っている。


「たくさん遊んで、おやつも食べて、眠くなったんだね。」

ユージルが侑李犬を見ながらそんな事を言った。


見事ゴーレムを倒した?侑李は、ドワーフ達の盛大な歓迎を持って宮殿に迎えられた。


ゴーレムの頭部を咥えていたのがまた、

「倒したぞ!」という感じがして、よかったのだろう。


ドワーフ達の喜びは凄まじく、その日は早速、お祝いの宴が開催される事になった。


会場は、より多くの人たちを招きたいというのと、巨大犬のままだと宮殿に入れない侑李のため、宮殿前の広場、握手会の会場で行われる事となった。


私はというと、侑李が死んでしまったかもしれないという恐怖と、生きていた事に対する安堵感、そして弟が犬になってしまったという動揺と、未だ犬から戻らないという不安、でもゴーレムは無事に倒せてよかった!と喜ぶ気持ちと、そんなもん食べて侑李のお腹は大丈夫だろうかと心配する気持ちなど、実に多岐にわたる感情が襲いかかってきて、どうにも処理しきれない。


もう、泣くしかない。


「トキコよ。いつまでも泣くな!結果、すべてがうまくいったではないか!ビールおかわり!!」

リーズレットさんがジョッキを差し出す。

「嬢ちゃん!!本当にありがとうよ!!今回の事は、子々孫々まで英雄伝として語り継ぐぜ!!レモンサワー!!」

ラウムさんもジョッキを差し出す。


あんたら!!

人の気も知らないで!!


私はベソをかきながらも二人に新しいジョッキを渡した。


「眠りから醒めたら、きっと元に戻ると思うよ?そんなに悩まないで?」

ユージルだけがちゃんと慰めてくれる。


うぅ……。

優しさが沁みる!!


「うわぁぁん!!」


私はユージルに抱きついて声を上げて泣いた。


「はっはっは!!なんじゃ、ラブラブじゃのぅ!」

「嬢ちゃん!若ぇな!!」


呑気にそんな事を言うリーズレットさんとラウムさんに少々殺意を覚えたね!!





お読み下さりありがとうございました。

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