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いつもお読みくださりありがとうございます。

本日、二回目の投稿になります。

よろしくお願いいたします。



リーズレットさんの宮殿から、船に乗っていくつかの小島を見送ったところに、それはあった。


「………侑李。」

「………うん。ねーちゃん。」


浅葱姉弟、びっくりである。


リーズレットさんはそんな私たちを見て、楽し気に笑った。

「はっはっはっは!驚いたじゃろう?確かに洞窟の入り口を入ったはずなのに、このような山脈地帯に行き着くとは!」


そうなのだ。


リーズレットさんは、湖に浮かぶ、小さな島に案内してくれたのだ。


そして、その島の、やはり小さな洞窟に入り、しばらく歩くと大きな扉があった。


その扉は本当に大きくて、小柄なリーズレットさんには開けられないだろうと思っていたけど、リーズレットさんは易々と開いた。そしてその先には。


目の前に伸びる道。


その先に、大きな山脈が見える。


あたりは固い岩石がごろごろと転がっていて、いかにも鉱山地帯という感じ。


そして、頭上には青空。


ご丁寧に、雲まで浮かんでやがるぜ……!


私は茫然と目の前の光景を眺めながらもう一度侑李に話しかけた。


「……ねえ、侑李、これってさ……」


侑李もやはり茫然としながら答えた。


「……うん、ダンジョン、だよね。」


「侑李、よくわかったね。」

ユージルが驚いたようにそう言った。

「うん……。まあ、ね。なんていうか、ものすごくダンジョンっぽいっていうか、ここまでそれっぽいと、逆に胡散臭いというか……」

侑李はごにょごにょと口の中で返事をする。


うん。私も気持ちはとてもよくわかるぞ!


こうしてみると、オルガスタとか、王都とかって、すごく普通な感じの場所だったんだなあ。

と思ってしまう。


いや、お父さんも犬だし、全然普通じゃないけれども!

そもそも、自分がもう普通じゃない感じだけれども!


ニフラの、浮島が浮かぶ渓谷に、竜が飛ぶ感じとか、この、ハイデルトのダンジョン的なものとか!

いよいよ物語に出てくるような景色を見ちゃうとね!



「さあトキコよ、こっちじゃ。」

リーズレットさんはポカンと口を開けている私たちに声をかけて歩き出す。

リーズレットさんに連れられて歩くと、途中、何人かのドワーフとすれ違った。


みんな、「お館様ぁ!視察ですかい?」とか、「今日はなかなか収穫ありですぜ!」とか、とても気さくにリーズレットさんに話しかけていて、リーズレットさんと領民の距離の近さがうかがえた。


うわあ、いいなあ。こういうの。


なんだかほのぼのとしてそれを眺めていると、やがて鉱山の入り口まで来たようだ。


入口を、木材の板で補強してある、トンネルの前に到着する。


「この奥が我がハイデルトの誇る、大鉱脈じゃ。入口近くならば、安全じゃろうて、大鉱脈がどのようなものか、ぜひ見てもらいたい。」

リーズレットさんはそう言うと、入口近くに作られた小屋で、私たちに皮製の帽子をもらってきてくれた。


安全とはいえ、小石や砂が降ってくる事もあるからと、それを被るように言われる。

私たちは素直に被ってリーズレットさんに続いた。


坑道は、正直、圧巻だった。

奥に向かって続く坑道は、天井が高く、閉塞感が全く感じられない。

外と行き来するための道は広くとられていて、手押し車を押すドワーフたちが余裕をもってすれ違えるようになっていた。


それよりなにより。


「……飛〇石だ……!」

天井を見上げて思わずつぶやいてしまう。


天井にはまるで満点の星空のように輝く光が広がっていた。

色は、某飛〇石と違ってエメラルドグリーンだったけれどもね!


「どうじゃ、美しいであろう?この光石のおかげで、坑道内でも作業が出来るのじゃ。」

リーズレットさんは自慢げに鼻を鳴らして、先を促す。


私と侑李は素直に感心して、周りの景色を眺めながら、それに続いた。


「ゆっ君?」

少し歩いたところで、後ろからユージルが着いてこない事に気がついた。

私の声にユージルはハッと気が付いたような顔になり、一つ微笑みを見せてから歩き出す。


「どうしたの?何かあった?」

聞くと、小さく首を振る。

「……なんでもないよ。行こうか。」


なんだかちょっと気になる事がある様子に見えたけど、気のせいだろうか?


少し引っかかったけど、そのまま先を行くことにした。


しばらく歩くと、大きく開けた場所に出た。


「うわぁ!広い!大きい!」

思わず声を上げてしまう。


その空間は10階建てのビルが丸々収まってしまいそうな広さだった。

壁にも天井にも、あらゆる岩壁という岩壁に、光石が無数に輝いていて、辺りを照らしている。


そのおかげで洞窟内だというのにとても明るい。


私達がいるのは、その中腹の壁沿いだった。

壁に沿って上下にスロープで通路が作られていて、下を覗くと4階ほどの高さもある。

ヒュンと足がすくみそうになって後退りすると、リーズレットさんにぶつかってしまった。


「あ、リーズレットさん、ごめんなさ……「昔は、な。ここでもたくさんの鉱石が採れたのじゃ。」……リーズレットさん?」

リーズレットさんは懐かしむような、悲しむような、そんな顔をして、大空間を見てそう呟く。


「ここは、まだまだ入口近くなのじゃがの。こんな場所からも、それはそれは多くの鉱石が採れた。それが、段々と採掘量が減ってな。そのうちに、このさらに奥の鉱脈からも採掘量が減っていったのじゃ。」

リーズレットさんは困ったように笑う。


私と侑李はなんて言っていいか分からず、ただ目を伏せた。


「尽きることのない大鉱脈、などと言われていたが、潮時なのか、あるいはユグドラシルの力が弱まった為なのか、わからぬ。だが、今ではほとんど採掘出来ぬ。」

リーズレットさんは悔しそうに拳を握りしめた。

そして目に強い力をたたえて、私とユージルを見る。


「ユージル様、トキコ。頼む。どうか、このハイデルトにもう一度、豊かな鉱脈を戻してほしい。この通りじゃ……!」

腰を直角になるほど折り畳んで、リーズレットさんは懇願した。


もし、出来る事なら力になりたい。


気のいいドワーフさん達が、思う存分鉱石を掘れるようになったら、と、そう思う。


私はユージルを振り返った。


「ねぇ、ゆっ君。出来るのかどうか、わからないけど、やるだけやって……ん?」

私は首を傾げた。


ユージルは、リーズレットさんの話を聞いていたのか、いないのか、しきりにあたりの壁を調べている。


ちょっと!

リーズレットさんがこんなに頼んでるのに、失礼じゃない?!


「ちょっと、ゆっ君!リーズレットさんの話、聞いてた?!」

私は少々お怒りモードで、ユージルの肩を叩く。


「ん?ああ、聞いてた。聞いてたけど。」

ユージルは顎に手を当てて思案顔になった。


「どうしたの?」

「いや、あのさ、リーズレット。ちょっと聞きたいんだけど。」

ユージルは壁に目を向けながら言う。


「なんじゃ?なんでも聞いてほしい。」

「いや、鉱脈が尽きたって、どういうこと?」

ユージルの言葉に私達は顔を見合わせた。


「ちょっと!やっぱり話を聞いてなかったん……「ちょっと斗季子、うるさい。」……なんだとぉう?!」


うるさいってどういうことだ!!

自分が話を聞いてなかったくせに!!


私がキィィィ!!と、地団駄を踏んでいる間にもユージルとリーズレットさんの話は進む。


「どういうもこういうも、そのままじゃ。採れる鉱石が無くなった、そういうことじゃ。」


リーズレットさんの言葉にユージルはますます考え込んでしまった。


「………こんなにあるのに?」

続けられたユージルの一言に、リーズレットさんは目を見開く。


「どういう…‥事じゃ……?」

「《尽きることない鉱脈》 それは確かにその通りだ。だけど、こんなに手付かずの状態じゃ、尽きるのかどうかもわからない。」

ユージルがため息混じりに言うと、リーズレットさんは信じられないものを見る目でユージルを見る。


「な……何を言っておるのか、わからぬ!!わかるように、説明をするのじゃ!!」

ユージルは一つ、息をついて話し出した。


「これ。光石、とかって言ってたけど、まさかちょっと光って便利だなー、くらいに思ってる?だったら、大きな勘違いだね。これこそが鉱石だよ。」

ユージルは一つ、落ちていた光石を手に取った。

そしてそれに手をかざし、魔力を込める。


すると。


「!!!!!」


リーズレットさんは驚きに目を見張る。

ユージルの手には、エメラルドグリーンの光を放つ石ではなく、ツヤツヤとした黒い石がある。


大きさからして、さっきの光石が、変化した?


リーズレットさんは震える指で、そっとその石に触れ、そして自分の手に乗せた。


「………鉄鉱石じゃ……!!そんな、まさか!」


まるで宝物のように鉄鉱石を大事そうに両手で持ち、まじまじと眺めるリーズレットさんの目から、ポタリポタリと雫が落ちる。


「ゆっ君、一体これは……。」

すっかり感動してしまった様子の、リーズレットさんに、私もどういうことかとユージルに問いかけの視線を向ける。


「うーん…。なんでリーズレット達が、この石の事を誤解しているのか、わからないんだけど、この石はね。魔力を込めると変化する性質があってね?鉄だけじゃなくて、銅や、銀、金、それにミスリルなんかにもなるんだけど、知らなかった?」


ユージルの言葉にリーズレットさんは涙に濡れた顔をガバッと上げた。


「し…‥知らぬ!!そのような事、妾は知らぬぞ!!」


まるで浮気が見つかった時のような慌てっぷりだ。


「おかしいね。ちょっと、いい?」

ユージルはリーズレットさんの額のあたりにそっと指を当てた。


「あれ?なんで?」

今度はユージルが慌てたような顔になった。


「どうしたの?」

「それが……無いんだ。」

「何が?」

「スキル。ドワーフは、鉱石を魔力で変化させる、《鉱物錬成》のスキルを持っているはずなんだけど、それが無い。」


ユージルの言葉に、リーズレットさんは再び驚愕で目を見開いた。



お読みくださりありがとうございました。

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