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ブロォォォォォォォ……


砂漠地帯を、ひたすら走る。

4大公爵の領地は互いに行き来出来るように街道が敷かれている。


周囲は時折サボテンのような植物やゴロゴロとした岩が転がっている砂漠地帯だったが、街道はしっかりと道路の体をなしていて、うちの車が走るのに支障はなかった。


「ねーちゃん、ちょっとスピード出しすぎじゃない?!」

助手席の侑李にいわれるが、私はアクセルから足を離さなかった。


「だって!急がないと夜になっちゃう!」


私は焦っていた。


オルガスタの朝霧館から、ハイデルトの領都までは馬車で二週間の距離だと聞いた。


大まかな計算で、馬車が休憩なども含めて一日50㎞進めるとして、50㎞×14日で700㎞!

東京から北海道の距離!!

爆走しても10時間はかたい!!

夜明け前に出発したけど、果たして今日中に到着できるかどうか……!


幸い、オルガスタからハイデルトは草原地帯からの砂漠地帯で、道の起伏はあまりなく、さらに以前お母さんが王都に私を迎えに来た時に話していた通り、うちの車の謎バージョンアップのため実にスムーズに走ってくれている。


しかし!

東京から北海道!

東京から北海道ですよ!奥さん!


車の運転は嫌いじゃないけど、果たして無事に走破できるだろうか?


「リグロさんに頼んで乗せてもらえばよかったじゃん!」

侑李はそんなことを言うが、領土のことで忙しいリグロさんにそんなことを頼めるはずもない。

そして馬車でというのはお尻と乗り物酔い事情から私も侑李も避けたい。


そしたら、車しかないじゃないか!


「でも、本当に速いよね。斗季子の世界じゃみんなこれに乗ってたんでしょ?」

後部座席で、のんびりと横になりながらユージルが感心したように言う。


「そういえば、いい機会だから聞きたいんだけど、この車のガソリンメーターが∞表示になってるのって、ユージル様の加護とかじゃないの?」

侑李が後ろを振り返りながら聞く。


「違うねえ。前に斗季子に言ったこともあるんだけど、俺はこの世界の世界樹だから、斗季子の元の世界のものに何かするってのは出来ないんだ。」

「えっ?!そうなの?それじゃ、俺たちの持ってるスマホとかって…」

「俺じゃないねえ。まあ、なんとなく思いあたることはあるんだけど。」


なにやら聞き逃せないような重大案件を話しているようだけど、私は運転に集中しなければならないので口がはさめない。


あとで詳しく聞かなければ…!


侑李はもう少し聞きたそうにしていたけれど、ユージルは今はこれ以上話す気はなさそうだ。

侑李が前に向き直り、スマホをいじり出す。


それから、少し休憩を挟んで、しばらく爆走していると、助手席で地図アプリを見ていた侑李が声をかける。


「ねーちゃん!もうすぐみたい!」

その声に前方に目を凝らすと、ぼんやりと街の灯りらしきものが見えて来ている。


あたりはわずかに夕日の残り日に薄明るく景色を映す程度。

でも、なんとか夜になる前に到着出来そうだ!


本当にうちの車のスペックがヤバイ!


必死に運転してきた疲れが、目的地が見えてきた事で一気に襲い掛かる。

しかしそれに負けるわけにはいかぬ!


到着するまでが遠足なのだ!


私は再び自分に喝を入れ、ハンドルを握りしめた。




「嬢ちゃん!!遠いところ、本当によく来てくれたな!!」

街の外れに車を停めて、そこから降りるとそこにはラウムさんと、その配下のドワーフ達がいた。


おお……!

日帰り温泉建設の匠たち…!


もはやお馴染みの顔ぶれに安心感が溢れ出す。


「ラウムさん!迎えにきてくれたんですか?ありがとうございます!」

私も笑顔でラウムさんに駆け寄る。


「おうよ!嬢ちゃんがハイデルトに来てくれるとあっちゃあ、じっとしてなんかいられるかっってんだ!」

ニシシと歯を見せて明るく笑うラウムさんにこちらもつられて笑顔になる。


うん、嫌いじゃない、嫌いじゃないぞ!

このノリ!

むしろ好き!


しかしラウムさんたちは車からユージルが降りてくると、途端にその表情を変えた。


ザッと一斉に跪いて、右手を胸に当てる。

「ようこそ、我がハイデルトへ。ユグドラシルよ。我らドワーフ、御身をこの地にお迎えできたこと、誠に光栄にぞんじまする。どうか、我らの歓待をお受けいただきたく。」

重厚な声で恭しくそう述べる。


おおおおお。ラウムさんじゃないみたい。


改めてラウムさんがハイデルトの貴族なんだなあと、そんなことを考えていると、ユージルがいつものように柔らかく笑った。


「ラウム、斗季子と、とても仲がいいドワーフだと聞いている。斗季子もラウムたちと一緒にいるときは楽しそうだ。ぜひ、俺もそうありたい。だから、斗季子と同じように接してくれたらうれしい。」


ユージルに言われてラウムさんは「ありがたき幸せにございます」と笑顔で顔を上げた。


いつものご挨拶が済んで、ホッとして、じゃあ、リーズレットさんに会いに行こうかとそう思っていると。


おや?

なにやらドワーフたちの様子が……。


ラウムさんたちは案内しなければならないはずの私たちの横をスイーッと華麗にスルーして、背後にあった車を取り囲んだ。


ちょっと……。


「ラウムさん?もう、日も暮れるし、出来たらリーズレットさんのところに……」

「嬢ちゃん、これがお館様が言ってた、『自動車』ってやつか?」

かぶせ気味に言われる。

私に話しかけているはずなんだけど、その目は目の前の車から離れる様子がない。


「素材は……鉄か?それにしちゃ……」

「おい、見てみろよ、このガラス。お前見たことあるか?こんな均一な一枚板。」

「車輪部分は何で出来ている?粘土……じゃねえな。なんだこの弾力は」

「こっちの扉の合わせを見てみろ!すげえ仕事しやがる!」


だめだ。誰も案内してくれそうにない。

今日中にリーズレットさんのところに連れて行ってもらえるだろうか……。





お読みくださりありがとうございました。

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