72 弟、賢者(土木建築)の力をふるう
「俺って土木建築のために賢者になったんだろうか…!」
思わずそう独りごちて、四つん這いになる。
「いえ……!ユウリの魔術行使は初めて見ましたが、素晴らしかったですよ!こんなに大掛かりで、しかも繊細な土魔法は見た事がありません。」
「おうよ!驚いたぜユウリ!まさかお前がここまでの使い手だったなんてな!」
「すごいよ!ユウリ!これがユグドラシルの賢者の力なんだね!」
レンブラントもハルディアも、無事に目を覚ましたジーノもそれぞれに俺を讃えてくれるけど。
なんか…!余計におちこむんだけど…!
みんな、そんなに必死に慰めないで…!
あとジーノ、たぶん違う!
あれからねーちゃんはというと、大興奮で、俺の姉はこんなに仕事ができたのかと思うくらい精力的に動いていた。
周辺住民の避難先と仮住居の確保、ラウムさん達をニフラに呼ぶためのあれこれ、日帰り温泉建設地についての提案と調整……。
他にも細かい様々な事を、てきぱきとこなし、その働きは4大公爵達をうならせた。
イグニスさんなど、「トキコ姫、ぜひ我がニフラ領を治めるリグロ様のお力になっていただきたい」と真面目にスカウトするほどだった。
普段、ポーっとしているくせに!!
そして無事に俺の魔術で、施設の大まかなところが出来上がると、早速ラウムさん達と細かい作業に入ったのである。
「嬢ちゃん!こっちの囲いの高さは、これくらいで大丈夫だったか?」
ラウムさん達ドワーフとねーちゃんは実に生き生きと働いている。
「そうですね…。あんまり高くても閉塞感があるし…。この部分をもう少し削ってもらうことって、出来ます?」
真剣な目で板を眺めるねーちゃんは、なんていうかもう、現場監督にしか見えない。
というのも、ねーちゃんはラウムさん達が集まると、例のお買い物アプリで、ニッカポッカや地下足袋、安全靴、作業用ベストなどのいわゆる鳶服を購入しだした。
ねーちゃんは、それはそれは嬉しそうに、いそいそとニッカポッカに着替えて、それがドワーフ達の目に入るや否や、大騒ぎになった。
「嬢ちゃん?!なんだその服は?!」
「これは…なるほど、ここに金槌が入るのか…!」
「これなら釘もたんまり手元に置けるな!」
「なんだ?!この靴……。こりゃあ、滑らなくていい!」
などと、大盛り上がりでねーちゃんに群がり、結局ラウムさん達にねだられて、ドワーフ全員分の作業着一式を買わされていた。
「トキコォォ!この金具はここでいいのかのぅ?どの向きで取り付けるのじゃ?」
リーズレットさんが、シャワーヘッドを片手にやってきた。
っていうか、リーズレットさん、公爵だよね?
けっこう、いや、だいぶ偉い人なんだよね?
何混ざってんの?!
そしてその作業着は何?!
ねーちゃん、リーズレットさんにも買ったの?
もうさ、本当に何考えてんの?
疲れ切って大きくため息をついて、近くにあったベンチ状の岩(俺が作った)に腰掛ける。
そこへ、
「みなさーん!休憩にしませんかぁ?」
と、マーヤさんの明るい声が響いた。
周りには赤ちゃん竜達がそれぞれその背中にお菓子やおしぼり、お茶のセットを乗せて、キュワキュワと運んできた。
……よく落とさないで運べるな。
器用な奴らめ!!
「兄上!手伝います!」
それを見たジーノが嬉しそうにいそいそと駆け寄っていく。
ジーノはお兄さんの誕生を、殊の外喜んでいた。
今まで出来なかった分を取り戻すように、兄孝行?に余念がないのだ。
「おぅ!ジーノじゃねぇか!んじゃ、この器、そっちにおいてくれ!」
お兄さんのミカド君は、てちてちとジーノに寄って行ってお菓子の器を渡している。
見た感じは完全に兄弟が逆転している。
「こぼすなよ?ジーノ。野郎ども!テメェらもキッチリやれよ!」
ミカド君が号令をかけると、周りの赤ちゃん竜達も「おう!!」と元気よく返事をして、休憩の準備をし始める。
赤ちゃん竜達は、どうやらミカド君を中心に親交を深めたらしく、このところいつも一緒にいるそうだ。
リグロさんもマーヤさんも「さすが竜帝の息子だ!人の上に立つ素質がある」と幼いながら赤ちゃん竜達をまとめ上げる姿に目を細めているという。
卵から孵る事はないと思っていた赤ちゃん竜に、大人達はとても甘い。
赤ちゃん竜達は目覚ましいほどの成長ぶりで、すぐにてちてちと歩けるようになり、キュワキュワとおぼつかなかった言葉も、あっという間に、ずいぶんと滑らかに話せるようになった。
ただ、何故か言葉遣いが悪い。
なんだ!野郎どもって!
女の子はいないのか?!
「我が《栄光の竜達》の名に恥じぬ働きをしやがれ!オヤジやオフクロに胸を張れる仕事をするぜ!!」
ミカド君が周りの赤ちゃん竜達を鼓舞する。
可愛らしい外見とのギャップが激しすぎる。
そしてチーム名がダサい!!
‥‥頭が痛くなってきた。
マーヤさんもその姿を微笑ましく見守ってるし!
なんだろう、これでいいのか?
ニッカポッカ姿のねーちゃんとドワーフ達、口の悪い《栄光の竜達》(見た目赤子)、それを優しく見守る巨乳美女。
思わず何度目かのため息をつく。
「侑李ぃぃ!!こっちおいでーーー!!一緒に休憩しよう!」
ねーちゃんに呼ばれて顔を上げると、満面の笑みで大きく手を振っている。
周りのみんなも、本当に楽しそうだ。
………まあ、いいか。
俺の魔術で出来上がったお風呂は、みんなに喜んでもらえてるみたいだし、何より、竜族の人たちの役に立てた。
それは、素直に嬉しい。
この世界に来て、正直、自分の立ち位置に迷って、戸惑っていた。
《ユグドラシルの賢者》なんて、ご大層な称号をもらってしまったけど、自分は一体、何のためにここにいるのだろう。
自分が出来る事って、何かあったりするのだろうか?
そんな風に考えたりもした。
だけど、俺のした事でこんなに喜んでくれる人がいる。
俺は腰を上げてううーん、と体を伸ばした。
「ねーちゃん!今行く!」
俺はみんなのところに足早に向かった。
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