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「‥‥ちょっと、頑張りすぎちゃった、かなぁ。」

ユージルは、目の前でキュワキュワと大騒ぎをしている、赤ちゃん竜の群れを見ながら頬を掻く。


言葉を話しだした赤ちゃん竜は、ミカドちゃんだけではなく、あの時卵から孵った赤ちゃん竜すべてに当てはまる事だった。


本当なら話す事など、ないはずの我が子が突然喋り出した事で、砦には赤ちゃん竜を連れた親達が集まり、どういうことかと大騒ぎになった。


とりあえず、親は別室でお待ちいただき、こうして赤ちゃん竜を集めてユージルに見解を聞いているところである。


「頑張り過ぎた?って?」

私が首を傾げると、ユージルはバツが悪そうな顔になった。


「……ユグドラシルの愛し子は、ユグドラシルに力を与える事が出来るんだ。」

なんだか言いにくそうにボソボソと答える。


うんうん。

なんだか、そうらしいね。

みんなそう言ってるし。


続きを促すように視線で訴えると、ユージルはさらに言いにくそうな顔になった。


「………ユグドラシルは、愛し子に力をもらって、ユグドラニアに恵みをもたらす。」


ふむふむ。

それも聞いた。


つまり?

愛し子=私、ユグドラシル=ゆっ君。

私の力を受け取ったゆっ君は、ユグドラニアに、今回の場合、ジーノ君とニフラに恵みをもたらした、と。


そういう事?


………………。


私の頭の中に、式典の時の事が反芻される。


あの時、ユージルが私を抱きかかえて私の何か(おそらくMP)を吸い取り、それからジーノ君のお腹あたりに、なにか……。


「もしかして、あの時?!」

ハタと気がついて声を上げるとユージルは両手を合わせて頭を下げる。


「ごめん!まさかこんなに力が強まると思わなくて!斗季子の力があんまり心地よくて、調子に乗った!」

「調子に乗っただとぅ?!」

私は思わず声を上げた。


調子に乗ったってなんだ?!

調子に乗って私から力を吸い出したのか?!

そして吸い出し過ぎちまって、こんな事になったと、そういう事?!

おかげでヘロヘロになったじゃないか!


「斗季子、怒らないで?」

ユージルはそう言って宥めるように私の頭を撫でて、スリスリと擦り寄って来た。


「まあまあ、おかげでニフラがこんなに豊かになったのよ。トキコちゃん、そんなに怒らないであげて?」

エレンダールさんが困り顔で取りなす。


「うむ。トキコ姫には負担をかけたこと、申し訳ないが、竜族すべてが今回の偉業に感謝している。どうか、怒りをおさめてほしい。おかげでニフラに希望が戻ったのだ。」

リグロさんも真摯な顔でそう言う。


「トキコぉ!妾がやけ酒に付き合ってやるから、怒るでない!」

リーズレットさんはブレないね?!


「斗季子に触るな!まだ認めたわけじゃねぇぞ!!」

お父さんはちょっと黙ろうか?!


みんなも宥めてくれるし、私も少し落ち着く。

ユージルも隣で子犬のような顔をしてるし。

激マズドクダミ薬で元気になったし。


「…‥わかった。」

そう言うと、周りから安堵の声が漏れる。


「ユージル様も、トキコ姫が休んでいる間、竜族に色々と対応してくれたのだ。あれだけの奇跡、竜族の熱狂は凄まじくてな。興奮した竜達に囲まれて、大変な騒ぎになった。」

リグロさんに言われてユージルを伺う。

ユージルは笑みを浮かべていたが、確かに少しお疲れの様子だ。


…‥そうだったのか。

それは、大変だっただろう。

きっともみくちゃにされたに違いない。

そしてそれはもし起きていたら、私も同じ目にあっていたことだろう。


「それは……ゆっ君、大きな声出してごめんなさい。あと、私が寝てる間にありがとう。」

私は労いの意味も込めてユージルの手を握る。

ユージルはほっとしたように笑って、それをキュ、と握り返してくれた。


「それでこの子たちについては、特に問題はないと考えていいのかしら?何か、悪い影響があるということは?」

エレンダールさんが話を戻して心配そうにユージルに尋ねる。


「それはないと思う。恵みの力が強くて起きたことだから、むしろ良い影響がでることがあってもおかしくないよ。」

ユージルの返答にリグロさんは安心したように息をついた。


「そういえば、ジーノ君は?あれからどうなったの?」

「ジーノはあれからトキコ姫と同じように眠ってしまってな。まだ目覚めていないのだ。おそらく、急激な力の増大に体が追いつかないのだろう。しかし、落ち着いて眠っているようだ。」

私が聞くと、リグロさんは心配ない、というようにひとつ頷いた。


赤ちゃん竜達にも、ジーノ君にも心配はなさそうだ、という事で話が落ち着き、リグロさんはお茶の用意をメイドさんに頼んでくれた。


確かにちょっと、喉が乾いたかも。


メイドさんがお辞儀をして部屋を出ていこうとした、その時だった。



ガターン!と大きく扉が開かれた。


メイドさんは突然ドアを開けられたことに驚き、よろめいていたけれど、ドアを開けた当人はそれが目に入らないほど、慌てている様子だ。


「何事だ!」

突然の事に、すぐさま緊張感をみなぎらせてリグロさんが立ち上がる。


「も……申し上げます!谷に、異変あり!すぐにご確認いただきたく…!」

軍服に身を包んだその人は息を切らせながら部屋に入り、片膝をついて報告した。


慌てた様子に、只事ではない事が伺える。


それを見て、リグロさんだけでなく、他の公爵達にも緊張が走る。


「‥‥なにが起きた?」

低く、リグロさんが言って視線を鋭くする。


「わ…わかりません…!ただ、ものすごい熱気で、近づく事が出来ません。水が、熱を持った水が噴出しているようです!」

私はその言葉に思わずガタン!と勢いよく立ち上がった。


「熱を持った水だと?!いったいどういうことだ!」

リグロさんは軍服の人に詰め寄り、エレンダールさんとリーズレットさんも表情をこわばらせた。


周りの人たちが、悪い予感に囚われているであろう中、私は一人、期待に胸を膨らませる。


それって……!


お父さんに視線を向けると、お父さんも私を見て、頷いた。


それって、もしかして!

温泉湧いてない?!





ブッシャアアアアア……


ハイ!現場の斗季子です!

私は今、ニフラ領、渓谷地に流れる川のほとりに来ています。

辺りは美しい森と綺麗な川の流れる風光明媚な場所なのですが、そこに突如、巨大な水柱が上がったとの事です!

そのあまりの勢いに、付近の住民は避難を余儀なくされています。

ご覧ください!

あちらに見えるのが、その水柱です!

うわぁ!すごい勢いですね!

少し離れたこちらにも、水飛沫が来ている、そんな状況です!


私は脳内ですっかり現場リポーターになりきりながら、それを見る。


「……温泉だ…!」

「……温泉だ。」

「……温泉だな。」


私、侑李、お父さんの浅葱家の面々は噴き出す水柱を前にそう呟いた。


私たちの背後にはユージルとリグロさん、エレンダールさん、リーズレットさんの他にレンブラント君やハルディア君まで来ていた。


「……たぶん、ニフラに力が満ちた影響で、起きたんだと思うんだけど。」

ユージルが自信なさげに言う。


「ゆっ君が温泉湧かせたんじゃないの?」

聞いてみるとユージルは考えこんでしまった。


「どうなんだろう?影響を与えたとは思うんだけど、でも……。これはたぶん斗季子の力が大きいと思う。」


なんと?!


「それってどういう…。」

「だって、斗季子、温泉好きでしょ?」

「…………。」


なんだって?!

すると何か?!


私の温泉愛が、この温泉を噴き上げさせたと?

つまりこの温泉は、私の温泉に対する熱いパトスだと?!


ちょっと!素晴らしくない?!

温泉愛で温泉湧くとか、素敵すぎない?!


大変ありがとうございます!!


「ねーちゃんどんだけ温泉好きなんだよ…。」

侑李が呆れたようにため息をつく。

「これじゃ温泉の申し子だな…。」

お父さんもやれやれと肩をすくめた。


いいじゃない!

温泉の申し子!

どうせならそっちの称号が欲しかった!


誰もがこの現象について、どうしようかと考えあぐねているようだったけど、私はとても舞い上がっていた。


そして私の頭に、ある素晴らしい考えが浮かぶ。


「リグロさん!リグロさん!せっかくの温泉です!ここに日帰り温泉作りましょう!」

すっかり興奮した私はウキウキとリグロさんに訴えた。


「日帰り温泉…とは、オルガスタでトキコ姫が営んでる、あの施設か?」

「そうです!ここにも日帰り温泉を作って、竜族の皆さんにも温泉の素晴らしさを知ってもらいましょう!」

私はさらにズズイとリグロさんに詰め寄る。リグロさんはすこしたじろいだ様子で引き気味になった。


「あの施設の素晴らしさは我もマーヤも知っている。もしもそれが、我がニフラにもというなら、それはとても喜ばしい事だが……「じゃあいいんですね?!」……トキコ姫…。」

食い気味に確認する私にリグロさんはもはや引きつった顔になっている。


「…ユージル様、ねーちゃんって本当に《ユグドラシルの愛し子》で合ってる?《温泉の愛し子》とか、そっちじゃない?」

「……なんか、自信無くなってきた。」

後ろでボソボソとそんな会話がされているのに気がつきもせず、私は鼻息を荒くした。


「侑李!!首尾はいいわね?!」

勢いよく、侑李に人差し指を突きつける。


「え?俺ェ?!」

「そうよ!!貴方の力が必要よ!!ユグドラシルの賢者、ユリウスよ!!」

「忘れてた名前出してきた?!そして調子に乗っている?!」

「リーズレットさん!!」

「は?!え?!妾も?!」

「ラウムさん達を呼んでください!あの、伝説の匠達を!!」

「ラウム達が伝説に?!と…トキコよ、落ち着くのじゃ…!」


周りは私の勢いに追いついていない様子だったが、そんなことは構うものか!

私は拳を握り締めた。



さあ!!ニフラの民に温泉を!!






お読み下さりありがとうございました。

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[一言] 『ユグドラシルの愛し子』改め『温泉の申し子』爆誕!!
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