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「結論から言うと、ここはオルガスタ領の領都の外れだ。領都までは馬車で2時間ってとこだな。」
無事に弟も目を覚まし、私たちはダイニングの食卓に集合した。
「なんの結論だよ!なんだよオルタンシアって!領都ってなんだよ!」
侑李がダン!とテーブルを叩いた。
そりゃそうであろう。
巨豚に襲われて、失神して安らかに眠り、起きたら父親がこの発言。
激昂するのも頷ける。
お父さんにお姫様抱っこされた件は黙っておいてやろう。
「オルガスタ、な。」
お父さんが律儀に訂正した。
「不思議な事に、温泉は今まで通りに出るし、電気も水道も問題ないのよ。テレビはつかないんだけど。」
お母さんが頬に手を当てるおばさんポーズで首を傾げる。
「不思議といえば、軽トラとワゴンのガソリン、無限大表示になってたな。なんだ?ありゃ。」
お父さんも続けた。
無限大。
まさにその事などなどを話そうと思っていたところだ。
「そういえばさ、ちょっとこれ見てくれる?」
私は自分のスマホを差し出す。
「バッテリーのとこ、無限大マークなの。あと、ここ。」
私はひとつひとつ指を差しながら自分のスマホについて説明した。
お父さんはふむふむと真剣に聞きながら、じっと何かを考え込む。
「ちょっと、貸してみてくれ。」
お父さんに言われてスマホを渡す。
お父さんは怪訝な顔でスマホをいじっていたけど、やがて首を傾げた。
「斗季子、何も反応しないがロックかけたままか?」
お父さんに言われて私も首を傾げた。
「いや、外してると思うんだけど…。」
確認のため、スマホを受け取ろうと手を差し出すと。
ぽん。
………。
スマホが、瞬間移動した。
……なんだ今の現象は。
自分の手の中に収まったスマホを凝視。
「……え?」
唖然としてお父さんを見る。
「おいおい。こりゃすげぇな。斗季子、今度はロック外して持ったままこっちに向けてみてくれ。」
お父さんに言われ、スマホの画面を向けた。
お父さんはスマホに触って目を見開いた。
「斗季子。このスマホ、お前しか操作出来ねぇぞ。それにおそらく斗季子が欲しいと思えば戻ってくる。」
感心したように言ってお父さんは手を引っ込めた。
なんですと?
それじゃあ、もう「私のスマホ、どこいったー!」と慌てる事が無くなると?
ありがたい状況に思わずニンマリとしてしまう。
「待ってくれよ!父さんも母さんも、ねーちゃんもさ!なんで落ち着いてるんだよ!なんなんだよこの状況!いったい何が起きてるんだよ!」
とうとう侑李が爆発した。
テーブルに手をつき、鼻息も荒くブルブルと身体を震わせている。
「なんか、状況が異常過ぎて一周回って落ち着いた。」
私が答えると侑李はグ、と口籠る。
お父さんとお母さんは互いに顔を見合わせて、改まった様子で私たちを見た。
「斗季子、侑李。」
お父さんに声をかけられて、2人して顔を向ける。
「実はな。2人に話さなきゃなんねぇ事がある。」
ありがとうございました。