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あれから王城では大変な騒ぎだった。
なにしろ、ユージルのユグドラシルとしての力が嫌と言うほど表され、王城の大広間がその姿を変えてしまったのだ。
大広間をあんな風にしてしまい、元に戻すのにどれだけかかるのかと、戦々恐々としていたけど、なんと大広間はあのまま残すという。
ユグドラシルの怒りに触れたことを忘れないために、戒めとするそうだ。
しかしさすがにしでかしてしまった事に申し訳なさもあったので、
「何かお手伝い出来ることは?」
と聞いてみたのだが、今回はそもそも王族が無礼を働いた事により起きた事なので、と遠慮されてしまった。
ハロルド殿下は王都の外れにある離宮に蟄居となったそうだ。
もっともあの一件で、すっかり正気を無くし、今後表舞台に出てくるのは難しいだろう、との事だった。
なんだか気の毒な気もしたけど、元々色々と問題のある方だったとのことで、これがいい機会だろうと言われた。
そしてユージルの力を目の当たりにした王様や貴族達は、その力に畏怖し、まるで腫れ物に触るかのようになってしまった。
初めは王城に留まってもらおうという話もあったそうなのだが、むしろ、
「オルガスタでの暮らしを望むなら、どうぞそちらへ!」
という意見にまとまったらしい。
これぞ触らぬ神に祟りなし。
うん、上手いこと言った!
そんなわけで私たちはとりあえずオルガスタに帰ることになった。
ちなみにリーズレットさんとエレンダールさんも「あんなことがあって、トキコちゃんが心配よぉぉ!」やら、「トキコよ。驚いたであろう?妾もしばらくそばにいてやるからの?」やら言ってオルガスタについて来ている。
絶対、温泉に入って酒飲みたいだけだよね?!
私をダシにしてるよね?!
「姫様。式典のお衣装はいかがいたしましょう?」
無事にオルガスタに帰って来て、王都のあれやこれやなどの疲れを癒すため、まったりとお茶なんぞをしばき倒していると、カテリーナさんが神妙な顔でス…と側にやってきた。
式典…?お衣装…?
はて?
突然、そんな事を言われて、頭の上に??をたくさん並べていると、カテリーナさんは一度信じられないものを見るように私をみた後、ふぅ、とため息をつく。
え?何その反応。
「姫様。よもやお忘れではありませんよね?ジーノ様のお披露目の式典です。」
「ああ、うん。侑李達が行くって言ってたアレね!あ!そうか!式典だもんね!ハルディア君とかはきっとそういう時のお洋服も持ってるだろうけど、侑李はそんなの持ってないからね!こっちではどんなの着たらいいんだろう?準備しなきゃだね!」
侑李達がレンブラント君やハルディア君と共にジーノ君のエンシェントドラゴンお披露目会に参加するのだと嬉しそうに話していたのを思い出す。
ポンと手を打って答えると、カテリーナさんは再度ため息をついた。
「もちろん侑李様もですが、それよりも姫様です。ユグドラシルの愛し子にふさわしい物を設えなければ。」
カテリーナさんの言葉にまたもやハテナを量産する。
「……なんで?」
私の反応にカテリーナさんはヒュと息を呑んだ。
「……姫様。お忘れなのですね?式典は姫様もご参加になるのです。マクドウェル公爵が仰っていたではありませんか!」
?!?!
え?!そうなの?!
ガバ!と体を起こしてカテリーナさんを見ると、カテリーナさんは力強く頷いた。
「そもそも、エンシェントドラゴンの継承者が現れたのはユグドラシルの愛し子あってのもの。姫様はむしろ式典の主役と言っても過言ではありません。」
ガタ…!
思わず立ち上がる。
「……そ…そうなの?」
ゴクリ。と喉を鳴らして低く聞く。
「……そうです。」
思ってもいなかった事態に固まってしまう。固まりながらも脳内は大パニックだ。
えらいこっちゃ!
たしかに「式典にはぜひトキコ姫も」的な事をリグロさんに言われたような気がする…!
でもその式典で主役的な何かとかは言われなかったはず…!
「ちょ…!え…!む…むり…!」
思わずカテリーナさんの腕にすがる。
「ジーノ様が無事に黄金竜へとなられたので、姫様もご準備を急がれた方がよろしいかと。」
捨てられた猫の様な私に、カテリーナさんは容赦ない言葉を放つ。
思わず、気を失いそうになったよね!
「ぬをををををを!!ギブ!ギブぅ!」
リーズレットさんにしがみついて、涙目になりながら訴える。
「これくらいで音を上げてどうします!もう少し、お締めしますよ。」
「はんがぁぁぁ!!」
思わず悲鳴をあげる私にカテリーナさんは容赦なかった。
そう、私は今、コルセットという名の拷問器具を装置されている。
王城での謁見やら夜会やらの時はカテリーナさん達との熱いバトルの末、なんとか逃れることに成功したけど、今回はメイド軍に軍配が上がってしまった。
やはり、貴族女子たるものコルセットを着用する事にも慣れた方がいいでしょう。と言われ、さらに「姫様を美しく着飾らせ隊」というわけのわからないチームが結成されていて、涙ながらに説得されてしまった。
ちなみに隊長はカテリーナさんである。
「頑張るのじゃ!トキコ!これが終われば酒が飲めるぞ!」
それで頑張れるのはアンタだけだろう!
悪態をつきたくなるが、そんな声も出せぬほど苦しい!
「さあ!出来ましたよ!」
カテリーナさんのやり切った感満載の声が聞こえた。
ヘナヘナとその場にくず折れそうな私をリーズレットさんが支えてくれる。
は…腹が…!千切れる…!
「…苦しい…息が…!」
コヒーコヒーと某SF映画の敵役のような呼吸の合間になんとかか細い声で訴える。
「慣れでございます。本来ならパーティーや舞踏会でもコルセットを付けるものなのです。今まで姫様はお目溢しをいただいておりましたが、この機会に正式な場では着用していただければと。」
「絶対…(コヒー)…無理…(コヒー)…!」
私の訴えはスルリと無視され、今度は何やら大量の布をガブリと被せられた。
「ぐを!」
カテリーナさん他、3名の敏腕メイド達によってみるみるドレスを着せられる。
クリーム色の生地に金で豪華な刺繍を施されたドレスは袖の無いいわゆるローブデコルテと呼ばれるものだが、スカート部分は幾重にもタックがあり、ドレープが半端ない。よって、重い。
なんだこれは。なんの修行だ。
これから何と闘うんだ!
オラ、ワクワクしてきたぞ!
いやするか!
「姫様、おみ足を。」
声が下の方から聞こえて、見てみると、大量のドレープにほとんど姿が見えない
メイドがどうやら靴を履かせてくれようとしているらしい。
見ようによっちゃスカートに潜り込む変態だ。
なんとか足を入れてみると、
「おわぁ!」
ヒールの高さにこけそうになる。
ちょっと…これは…厳しいんじゃ…!
両脇から支えられてなんとか起立の姿勢を保つ。
絶対無理!
まともに立つことも出来ぬ!
「カテリーナさん…!やっぱり、これは、ちょっと…!」
世の貴族女子達はパーティーのたびにこんな装備を身に付けてるの?!
マジでスーパーサ○ヤ人になってしまう…!
「大丈夫かの?斗季子?」
リーズレットさんがオロオロと心配そうに声をかけてくれたが、答える余裕がない。
もはや半泣きで助けを求める目でリーズレットさんを見るのみだ。
「斗季子ー?どう?」
ドアの方から声がして、そちらを見ればお母さんがのぞいていた。
「お母さん…!」
なんとかしてくれ…!
母に駆け寄りたい気持ちでいっぱいだったが、支えてくれるメイドの手を離すことも出来ず、直立不動。
「まぁ…!綺麗よ!」
お母さんはそんな私をはしゃいだ様子で眺めている。
母よ…!それどころじゃないのだ!
「斗季子?」
お母さんの後ろから、ユージルも顔を覗かせた。
「(天の助け!)ゆっ君、た…助け…!」
メイドの手を離して、ユージルに手を伸ばせば、ユージルはあっという間に駆け寄って私を抱き上げてくれた。
ようやくヒールという拷問とドレスという重責から逃がれ。
「…きゅう。」
どうやら、私は気を失ったらしい。
お読み下さりありがとうございました。




