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「……ほほう、なるほど。乙女ゲームか。やっぱり。」

屋敷の中庭には美しい噴水があって、そのそばにはベンチが置かれている。

私はマナミちゃんを人気のないその場所に連れ出してそのベンチにマナミちゃんと二人、並んで話していた。


「だって、アルベルト王太子は正統派ヒーローだし、ユウリ君は弟キャラだし、レンブラント君は優等生キャラだし、ハルディア君は脳筋キャラだし。ジーノ君はクール美少年だし…。」


「確かに…!偶然にしても乙女ゲームの攻略対象が揃ってる!」

指摘されてその事実にびっくりする。


「それで…ユージル様はあり得ない美形だし、聖女の力が発現してから登場したから、いよいよ隠しキャラも出てきたんだと…。さっき、あらためてそう思って…。」


「コレも確かに…!!むしろ乙女ゲームじゃない方がおかしい!」

私は思わず手を打ってしまった。


「え?じゃあ私って、なに?」

気になって尋ねてみると、マナミちゃんはいいにくそうに口籠る。


「……悪役令嬢。」


「確かに!!!」


自分のことながら物凄く納得してしまった。

公爵家の娘というところも非常にポイントが高い。


私があまりにも納得するからか、マナミちゃんの口調は少し軽くなる。

「…だから、きっとこのあと、断罪イベントがあるんだと、そう思ってたの。アルベルト王太子から、婚約を破棄されて、追放されるとか…。斗季子さんが攫われたっていうのも、聖女の力が発現するイベントだと思って…。みんなもそばにいたし。」


考えれば考えるほど、乙女ゲームそのものだ。

しかもそこで偶然とはいえマナミちゃんが祈った時に(正確にはハルディア君が尿意を催した時に)、ユグドラシルの力が戻っちゃったのがまたいけなかった。


これはマナミちゃんがそう思い込むのも仕方がないかもしれない。


「そうかそうか。これじゃ乙女ゲームの世界に転移したと思っちゃうわな。あ、でもアルベ君の婚約者は私じゃないよ?婚約者はいるみたいだけどね。」

一つ、訂正をしておく。


「え…?そうなの?」

「うん。確か、決められた婚約者がいるんだって言ってた。」

マナミちゃんはもはや、さっきまでの元気がすっかり失われていた。しかし、先程までのどこか必死で余裕のない表情は消えている。


これが元々のマナミちゃんなのだろう。

不自然さも無くなり、普通の女子高生という感じだ。


きっと、自分の役割りを全うしようと頑張っていたんだろうな。


やはり腹を割って話してよかった。

今なら話も聞いてもらえそうだ。


「私もね。こっちの世界になんで来てしまったのか、どうしてこんな事になったのか、納得出来ないまま過ごしてたんだけどね。最近、ユージルからその理由を教えてもらって、やっとなんとか飲み込んでいるところなんだよ。」


ふう、と一息つきながら言うと、マナミちゃんはゆっくりとこちらを見る。

「もしよかったら、私がユージルから聞いた話を聞いてくれない?と言っても私達がここにきた理由についてだから、マナミちゃんにとってはあんまり役に立てないかもなんだけど…。」

私の言葉にマナミちゃんはしばらく考えて。

「…わかりました。」

と頷いた。



「…ねーちゃんどんな手を使ったの。」

マナミちゃんの手を引いてみんなのところへ帰ると、みんなは心配そうに迎えてくれた。


だけどマナミちゃんが「ごめんなさい。私、思い違いをしていたみたいで…」と、シュンとした顔で謝ると今度は驚愕の顔に変わった。


「すごい…!流石、トキコ姫…!」

とハルディア君は目を見開き、

「やはり愛し子とは人の心までも正しく導くのですね。」

とレンブラント君が尊敬の眼差しを向けてくる。


やめてくれ。ただ、乙女ゲームの話をしただけだ。

そして君たちは攻略対象に認定されていたのだ。


まるで憑き物が落ちた様に大人しくなってしまったマナミちゃんに、なんだか心配になる。


「だ…大丈夫?」

思わず声をかければ、薄く微笑んだ。


「はい。なんというか、気が抜けてしまって。やっぱり、小説みたいな事って小説の中だけの話なんだなって。」


いやいや。今のこの状況も十分小説みたいな感じだけどもね!


「マナミちゃんは、どうしたい?」

続けて聞いてみると、マナミちゃんは困ったように笑う。


「……向こうでの私は、とても体が弱くて、入退院を繰り返して、まともに学校にも行けていませんでした。だからゲームや小説に出てくる人たちが思い思いに楽しんでいるのに自分を重ねて過ごしていたんです。」

マナミちゃんはぽつりぽつりと話出す。


「こちらに転移してきた時、信じられないくらい体が軽くて、走っても笑っても苦しくならなくて、それが本当に嬉しかった。学校にも行けて、見たこともない様なかっこいい男の子達がいて、しかも、聖女だと言われて、自分が本当に生きる世界はここなんだって思いました。」

マナミちゃんは顔を上げて、物悲しそうな笑みを浮かべる。


「……全部、勘違いだったのですね。なのに、私ったらバカみたい。」

ジワリと涙ぐむその様子が、あまりに切なくて。


「ううう…マナミちゃん…!そうだったんだ…。辛かったね…。」


号泣したのは私の方だった。


「斗季子さん…!」

私の涙にマナミちゃんは驚いた様子になった。


「うぇぇ…グスッ…侑李、ティッシュ。」

「持ってねえよ!」

差し出した手をパシンと叩かれる。


冷たい弟だ!

姉が号泣しているというのに!


「斗季子、ほら、そんなに泣かないで?こっちにおいで?」

ユージルは優しく言って抱き寄せてくれた。

「ああもう、擦ったら腫れるよ?泣いてる顔もかわいいけど。」

よしよしと頭を撫でてくれる。


チクショー。イケメンめ。

そしてお父さんが席を外している時でよかった!


私はマナミちゃんの話にすっかり感情移入してしまっていた。

「ねーちゃんは単純だから…」

侑李がそう言うのをユージルの胸に顔を埋めながら聞く。


「こうしてみると、本当にお似合い。冷静に考えてみると、私は純日本人顔だし、2.5次元、もはや2次元のユージル様と並んでもおかしいですよね。」

マナミちゃんがはぁ、とため息混じりにいう。


「私の推しはユウリ君だけど、ユウリ君だって銀髪だし、周りと比べると少し親しみ持てるかわいい系イケメンだけど、実際日本にいたらレイヤーも裸足で逃げ出すレベルだし…。」

「ちょっと?!マナミちゃん?!」

侑李がショックを受けて焦った声を出した。


「…おい。マナミ嬢が何言ってるか、おまえわかるか?」

「残念ながら、私にもよく…。」

ハルディア君とレンブラント君がヒソヒソと話している。


私は顔を上げた。


え?マナミちゃん?

何そのキラキラした目。


さっきまでしんみりとしていたはずなのに、目の前のマナミちゃんはどうしてこんなに希望に満ちた目をしているのだろう?


「……そうよ。やっぱりこういうファンタジーは鑑賞して楽しむべきものなのよ。こんなに鑑賞しがいがあるキャラクター達がいて、しかも、それが実際の人物として生きている!VRなんて目じゃないわ!」


ガタン!

マナミちゃんはギュッと拳を握り、立ち上がる。


「すごい!すごいわ!!これが私の求めていたものだったんだわ!!」

高らかに言い放ったあと、ギン!と強い目で私を見た。


「ひっ」

思わず怯んでユージルの服を握る。


「斗季子さん、ありがとうございます!私、目的を見つけました!私は聖女でも愛し子でもない!それは斗季子さん、アナタです!!」

高らかに宣言する。


「おお…、俺たちがいくら言っても伝わらなかったのに…!」

ハルディア君が感嘆の声を漏らした。


「そうよ!考えてみたら、聖女なんてずっと病院生活だった私に出来るわけないじゃない!それよりも大好きなファンタジーの世界で、鑑賞者として楽しんだ方がいい!斗季子さん、頑張ってください!私は側で、思う存分推しを眺め、見守り、登場人物の一番近くで物語を楽しみます!!」

マナミちゃんは高らかに宣言した。


ちょっと!なにその羨ましすぎる立場!

私だってそっちがいい!





お読み下さりありがとうございました。

ご感想、いいね、ブックマーク、評価ポイントなど、いつもありがとうございます!

誤字脱字報告、とても助かっています。

見直しが甘く、お手数おかけします。

小説初投稿、お話を書くのも初めての超初心者です。

至らないところが多く、お目汚しではありますが、これからもあたたかく見守っていただけたら嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。




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