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私たちはお茶を飲みながらマナミちゃんの転移についての見解を聞いていた。
ユージルが言うには、私をこちらに呼んだ時に、こちらでもタイミングよく聖女召喚と呼ばれるものが行われたのでは、という事だった。
聖女召喚なんて、普通は成功しないものだが、ユージルが呼び寄せた力もあり、うっかり成功してしまったと。
そしてそれに巻き込まれたのが、マナミちゃんという訳だ。
「なるほど。納得した。」
私は大きく頷く。
「嘘だわ!!」
マナミちゃんは悲鳴のような声を上げて立ち上がった。
「そんなの、ウソ!きっとこの人が何かして、みんな騙されてるんだわ!」
マナミちゃんは目に涙をためて私を睨みつけ、必死な様子で言う。
「だって!!私が祈ったら、光が溢れて、あたりに花が咲いたのよ!あれは間違いなく聖女の力だわ!」
マナミちゃんがそう言い募り、それに対してユージルは冷静に答えた
「あれは斗季子が俺に名前をつけてくれたから、俺の力が解放されたんだよ。それで、大地にも力が宿ったってわけ。」
しかし、それを聞いても、マナミちゃんは「いいえ!いいえ!」と言いながら、ブンブンと首を振って納得していない様子だ。
「確かに祈ってたけど、正確にはハルディアがトイレに行こうとした時だよな?」
ボソボソと侑李がレンブラント君に耳打ちする。
「ユウリ、それだとハルディアの尿意が大地に力を与えた事になりますよ。」
嫌な力だな。
「…俺の尿意、すごかったんだな。」
ハルディア君もそこで認めない!
「だって!そんなのありえないわ!ユージル様!私が愛し子、聖女なんです!信じてください!」
マナミちゃんが身を乗り出す。
「俺の愛し子は斗季子だよ。」
ユージルが答えると、マナミちゃんは泣きそうな顔になり、それからギロッと私を睨む。
「みんなに何をしたの?!みんなをもとに戻して!」
「いや、何もしてないんだけど…。」
うう〜む、困ったぞ。
なかなか納得してくれない。
というか、なぜ私が何かしたという思考になるのだろう。
どうしたものか…。
「彼女を、元の世界に戻すことは出来ないのか?」
お父さんはそんな私たちを横目にユージルに聞く。
ちょっと!それ!私も聞きたいやつ!
私は思わず身を乗り出し、侑李も期待に目を輝かせた。
ユージルは視線を落として、言いにくそうに話す。
「あまり、可能性のある話じゃない。これまでも浅葱家の人がこちらに転移してきた事はあるけど、帰った人は一人もいないんだよ。」
ユージルの言葉にガックリと肩を落とす。
正直、ショック。
ユージルにそんなことを言われちゃ、絶望的じゃないか。
泣きそうになっている私と、呆然とする侑李に、ユージルは言葉を続けた。
「でも、本当に可能性がゼロかって言われると、わからない。そもそも今までこちらに来た人って、帰ろうとした人がいないから。」
……なんだって?
わずかな希望に顔を上げる。
「浅葱家の人たちって、なんていうか、楽観的っていうか、呑気っていうか…転移してきた時は怒って大騒ぎするんだけど、そのうちこっちに馴染んで、暮らすうちに…」
ユージルはそこで口籠る。
「暮らすうちに?」
侑李が続きを促す。
「無事、天寿を全うする。」
…………。
ご先祖ーーーー!!!
「呑気すぎるにも程がある!!」
「なんなんだ浅葱家!!」
私と侑李は揃って抗議の声を上げた。
誰も帰る方法を探すとか、しなかったというのか?!
お父さんもはぁぁ、と頭を抱えた。
「まぁ、確かにどうかと思うが…。俺は正直、嬉しく思う。カレンもお前たちもこちらで幸せだと思って暮らしてくれたら、こんな素晴らしいことはない。」
お父さんは私と侑李を伺いながらそう言った。
確かに、それがお父さんの素直な気持ちなんだろう。
お父さんの言葉を聞いて、私と侑李は顔を見合わせた。
「……お父さんが、そう言うなら。」
「……うん。俺も、良い友達も出来たし。」
あっという間に切り替えて、そんなことを言っちゃうところに確かな浅葱家の血を感じて少々悔しい。
「ちょっと?!私の事、忘れてません?!」
浅葱家三人でほっこりとなり、ついでにそれを見守るアルベ君達も温かく見守る中、マナミちゃんが怒り出した。
そうそう!マナミちゃんの話だ!
ごめん!
「私は、帰りません!こちらの世界で幸せになるんだから!」
マナミちゃんは腕を組んでツーンとそっぽを向いた。
何がここまで彼女を頑なにさせているのだろう?
私はふむ。と考えた。
実は、これまでのマナミちゃんの言動はどうにも引っかかるものがあったのだ。
やたら聖女にこだわる点とか、ちょいちょい私を敵視する点とか。
さらにはさっき聞いた、侑李達に付き纏っているという話。
「マナミちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、もしかしてラノベとか好きじゃない?」
唐突な私の質問にマナミちゃんは驚いた顔になった。しかし、その表情の中に動揺も見て取れる。
もしかしたら、いっそ二人で腹を割って話したほうがいいかもしれない。
私は立ち上がってマナミちゃんに手を差し伸べた。
「もし、よかったら二人でお話しませんか?せっかくこうしていらしてくれたんだし、女同士で話せればと思うのですが…。」
そう誘うと、マナミちゃんはしばらく考え込んでいたけど、
「……いいわ。」
と頷いてくれた。
お読み下さりありがとうございました。