5
そのあと。
私は侑李が目を覚ました時のためにとそばにいるように言われ、お父さんとお母さんはそれぞれ家と客館を調べに行ってしまった。
私は湯呑みを畳スペースに移動して傍らで眠る侑李を眺めながらお茶を啜った。
異世界。
まさか自分の父親からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
あそこは盛大に笑うところだったのだろうか?
あまりの事に固まってしまった自分の対応を振り返って反省する。
お父さん渾身のジョークだったのかもしれない。だとしたら悪いことしちゃったな。
冷めてしまったお茶を飲み切ってため息をつく。
侑李はまだ起きる気配が無い。
手持ち無沙汰になり、何気なくスマホを開いた。
その途端。
《ピコーン。商品をお届けします。》
無機質な音声とともに、スマホが光る。
「え?なに?」
眩しさに目を逸らせば、スマホから溢れた光とともに、何かがポコンと飛び出した。
「うわあ!」
思わず、受け止めてしまい、それと同時にスマホの光は消えた。
え?え?なにこれ?
何がどうなってるの?
手の中に残された物をじっと見つめる。
これ、注文してたワンピース?
恐る恐るパッケージを開けてみると、そこには確かに注文通りのワンピース。
ど、ど、どうなってるんだこれは?!
え?これ、今、スマホから飛び出して来た?
ワンピースが?
いつの間にか玄関からやってきた配達員が投げつけてきたとかじゃないよね?
いやそれもどうかと思うけれども!
「………。」
絶句である。
私はゴクリと喉を鳴らしてスマホを手にしてみた。
待ち受け画面。
いつもの待ち受け画面だ。
ん?いや、いつもとはちょっと違う?
右上のバッテリーマーク。なんだこれ?
なんだか無限大マークに変わってる?
それに、左上の会社名、《tokiko》って
私の名前ぇ!
いやいやいや、携帯会社経営してないから!
Wi-Fiも消えてるし!
嘘でしょ?!
慌てていつもの検索サイトに繋げてみると、あれ?なんだ、普通につながるじゃない。
そのままいじってみても特に変わった様子はないように思える。
いや待てよ?
ニュースが見れないぞ?
見れないっていうか、なんだこれ。
「ええええ?うーむー。」
そのあと、散々弄り倒していくつかわかったこと。
まず、ネットニュースは繋がらない。
だけど、調べ物とか、レシピサイトは普通につながる。通販サイトも大丈夫。注文の確定手前までいけたから、おそらく普通に買えるんだろう。
SNSは全滅。どれも反応なし。
っていうか、アプリそのものが消えていて、ダウンロードも出来ない。ストアにアプリそのものが無い。ちなみにゲームアプリはちゃんとあってダウンロード出来た。
カメラは使える。
電話機能も大丈夫だけど、電話帳アプリに何故か家族分しか残ってない。
つまり、うちの家族が持ってるスマホとは通話可能ってこと?
「おいおいおい。待て待て待て。」
この状況に思いあたるフシがあってこめかみをツツーと冷や汗が流れる。
侑李が夜中にこんなの見てなかったか?
お風呂上がりにビール飲みながらで、今ひとつ内容は薄ぼんやりだけど。
ほら、流行りのアニメでさ。
異世界転生しちゃって、チートアイテムとかあって。
「いやいや、ちょっと待とうか私。」
厨二病は卒業したはずだ。
しっかり現実を見る20歳の女子大生のはずだ。
先程の父親の発言がぐるぐると頭を回る。
「お、おとうさぁぁぁぁんんん!!」
ありがとうございました。