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58 弟、聖女?の力を目の当たりにする。


「それで?どこまで知ってるんです?」

王太子に招かれた部屋で食事をしながら、俺たちはマナミちゃんを囲んだ。


「…攻略対象達に囲まれて食事とか、もしかして逆ハールート?」


マナミちゃんが何やらボソボソ言ってたけど、よく聞こえない。

「マナミ殿、聞いていますか?」

レンブラントが詰め寄るとマナミちゃんはハッと顔を上げた。


「えっと、ユウリ君のお姉さんが、ユグドラシルに拐われたって…。そばに、公爵様達がいたのにって。」

「…まんま知ってるって事か。」

ハルディアがため息をついて頭を抱えた。


「ごめんなさい。聞いちゃいけなかった?でも私、知ることが出来てよかったと思ってる。だって、私にも手伝えることがきっとあるもの!」

マナミちゃんは両手を胸の前で組んで上目遣いで俺を見る。


とてもよく上目遣いをする子だなぁ。


「なぜそういう思考になるのか、全く理解できませんね。」

レンブラントは頭を抱えた。


「マナミ殿。」

そこへ、王太子が声をかける。

「この事は絶対に他に漏らさないでください。約束出来ないのなら、貴女を拘束しなければならなくなる。ハロルド殿の手前、それはしたくないのです。」


王太子が真剣に話すのをマナミちゃんは何故だかキラキラした目で聞きている。

「わぁ!みなさんと私だけの秘密、って事ですね!わかりました!…うふふ。」

マナミちゃんの返答に俺たちは顔を見合わせた。


なんだろう?いくら他人事とはいえ、人の家族が正体不明の何者かに拐われたっていうのに、軽すぎないか?


マナミちゃんの態度に若干の怒りを覚える。だけどその事を口にする気にもなれなくて、俺は機械的に食事を進めた。


そのまましばらく、シーンとしたなんとも言えない気まずい空気が流れていたけど、王太子が一つため息をついた後、気を取り直すように顔を上げた。


「その後、いかがですか?」

王太子は曖昧な言い回しで聞いて、薄い笑顔を俺たちに向ける。


マナミちゃんもいるからか、詳しい話をする気はないのだろう。


「変わらずです。私たちも様子を見るしかない状況ですね。」

レンブラントがそんな王太子の心を察したように、やはり曖昧に答えた。


本当なら、父さん達の様子とか、話したい事があるんだけど、マナミちゃんがいるため話すわけにもいかない。


「…そうですか。」

王太子はそれだけ言って、一口、お茶を飲む。


なんだか気まずい雰囲気になってしまった。

今日はさっさと解散したほうがいいかもしれない。


そんなことを考えていると。


「いいえ!」


突然、バァンとテーブルを叩いてマナミちゃんが立ち上がった。


突然の行動にみんなの視線がマナミちゃんに集まる。

マナミちゃんはそれを見て、満足そうに微笑み、キラキラした目で俺たちを見回す。


「いいえ、出来ることならあります!私が!聖女の私が祈りを捧げます!」


…………。

なんだって?


マナミちゃんのあまりにも突拍子もない発言に俺たちは揃って呆気にとられた。


「……え?」

「……は?」

「……なんだと?」

王太子、レンブラント、ハルディアが数秒後にそれぞれ反応する。

3人とも信じられないものを見る顔になっている。


それにも構わず、マナミちゃんは鼻息を荒くした。

「私はこの世界に召喚された聖女です。私が祈りを捧げれば、きっとユウリ君のお姉さんも帰ってくるわ。そして、きっと心を入れ替えてくれるはず。」


なんだか訳のわからないことを言い出したぞ?

誰の心が入れ替わるって?

犯人か?


「ですから、アルベルト様?婚約を破棄しても死罪などにはなさらないでください。あまり、酷いことはやめてくださいね?」

マナミちゃんはニッコリと笑って王太子に言ったけど。


婚約?破棄?死罪?

言われた王太子含め、俺たちの誰一人としてマナミちゃんが何を言っているのかわからない。


「何故、私の婚約の話が…?死罪とは?」

王太子はしきりに首を傾げて力無く疑問を口にした。


突然、死罪なんて物騒なワードを出されて、王太子も困惑するしかないよなぁ。


マナミちゃんの言動の意味が分からず、ひたすら顔を見合わせたり、小さく首を振ったりする俺たちに、マナミちゃんは

「さあ!みなさん、行きましょう!」

と立ち上がった。




それから俺たちは、勢い付いたマナミちゃんに連れ出されていた。

ねーちゃんの為に祈るんだと言いはり、止めようとしても頑として聞き入れず、

最終的に何かおかしなマネをしようとすれば、容赦なく拘束するという事で俺たちが折れた。


そして今。

俺たちは王城の中庭にある東家にいた。

みんな表情が抜け落ちた顔をしている。

その中で1人、意気揚々と膝をついて胸の前で手を組み、祈りを捧げているマナミちゃん。

俺たちはそれを白けた気分で眺めていた。


祈るって、庭先でいいのか?


どうでもいい疑問が浮かんだけど、なんだか「一体何に巻き込まれているんだろう?」感がひどくて言葉にならない。


マナミちゃんは、もうずいぶんと長くお祈りポーズのまま動かなかったけど、一向に何も起きていない。


そりゃそうだ。

だって、聖女でもなんでも無いんだし。


「……いつまでこうしてりゃいいんだ?」

痺れを切らしたのか、ハルディアがそう言ってムズムズと足を動かす。

「…確かに。王太子殿下もお忙しいお立場です。殿下、とりあえずここは僕たちに任せて、お戻りください。」

レンブラントが王太子に促す。

「ええ…そうですね。確かに全員でここにいる意味はあまりないかも知れません。申し訳ありませんが…」

すまなそうに王太子は笑う。


本当にいい人だな!つくづく!


「俺も、ちょっとトイレ行きてぇし、殿下をお送りしてついでに用を足してくる。」

ハルディアが王太子を促した、その時。


カッッ!!!


あたりを、眩い光が包み込んだ。

それは、ものすごく唐突に。


「な…!!」

「殿下!!」

ハルディアが反射的に王太子に多い被さり、レンブラントが俺の手を引く。


「きゃ!」

マナミちゃんの声が聞こえて、それからあまりの光量に目を開けていられなくなった。

そしてそれが治まった時。


ザァァ…。


あたりを、清涼な風が吹き抜ける。

目を開けると、中庭は一面の花畑になっていた。


「これは…力が、湧いてくる?」

ハルディアが手を開いたり握ったりしている。

「ありえません…!こんな事…!何故突然、花が…!」

レンブラントも周囲の様子に慄いている。


どういうこと?

何が、起きたんだ?


信じられない事態に動揺しまくり、所在なくキョロキョロとしていると、これ以上ない笑顔のマナミちゃんと目が合った。


「ね?だから言ったでしょう?」


……………。

…………。

………。

うそん?!





お読み下さりありがとうございました。

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