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57 弟、再び王城へ行く。


王城に着くと、俺たちは宰相の部屋へと案内された。


レンブラントが宰相である父に火急の要件があること、それがユグドラシルの愛し子についてでもあること、俺とハルディアも一緒に行くことを伝えると、宰相はすぐに時間をとってくれた。


「父上。ありがとうございます。」

入室すると、カーライル宰相は立ち上がって俺たちを迎えてくれた。

「レンブラント、よくきた。」


カーライル宰相はレンブラントとよく似た正統派のイケオジだった。

レンブラントが歳をとったら、きっとこんな風になるのだろう。


「ハルディア!火急の件と聞いて、驚いたぞ!」

部屋にはハルディアの父であるバルザック騎士団長もいた。

バルザック騎士団長は口元に髭を蓄えた、短髪の大柄な人。厳しい顔つきをしているが、どこか人好きのする風貌だった。


そして。


「ユウリ殿、しばらくぶりです。」


なんと、そこにはアルベルト王太子までもがいたのだ!


王族!!

祭壇の間を開ける事が出来る王族だ!!

これは話が早い!


俺は早速、父さんから聞いた話を聞いてもらった。


「急ぎ、祭壇の間を開けましょう。」


アルベルト王太子殿下の、鶴の一声。

「殿下!ですが、あの間は…!」

宰相が青くなって戸惑っている。

「分かっています。それでも、開けるべきでしょう。」

アルベルト王太子は厳しい表情だった。


「何か、あるのでしょうか?」

どうにも気になって聞いてみれば、王太子と宰相、騎士団長は顔を見合わせた。

「祭壇の間は、確かにユグドラシルに通じると言われています。ですが、それが伝承の域を過ぎないことは聞いていますか?」

王太子に言われて、俺たちは頷いた。

「その理由、それは誰もそれを証明出来なかったからなのです。つまり、あの部屋から転移して戻った者は誰もいない。本当にユグドラシルにつながっていたのか、あるいは他の世界に転移してしまったのか、そのまま消えてしまったのか。」

説明されて、ゴクリと喉が鳴る。


なんだそれは。

そんなの恐ろしくて試せたもんじゃない。


「しかし、今はそのわずかな可能性にもかけたいと、かけるべきと思います。こうしている間にも、姫はどうしているか…。出来ることなら、私がこの手でお救いしたい。」

王太子は沈痛な顔でそう言った。


「君たちの動きについて、ウォードガイア公爵は?」

宰相に聞かれて、レンブラントが答えた。

「僕たちが祭壇の間について王城で話をしているというところまでは、おそらく学園長からフレイニール公爵に連絡が行くでしょう。しかし、ユウリはウォードガイア公爵に動くなと言われているそうです。」

「ふむ。それならば一度、公爵とも話をした方がいいな。本当に祭壇の間を使用するのか、もし使用するならどのタイミングで誰が祭壇の間に入るのかも含めて、話す必要がある。」

バルザック騎士団長が話を締め括った。



王太子はそれからすぐに王様に祭壇の間の使用許可を申し入れてくれたらしい。


しかし、やはりというかなんというか、簡単に許可は降りなかった。

今まで祭壇の間を使用したもので、帰ってきたものはいない。

それが理由だった。


そんな危険を次代の国王である王太子にさせるわけにはいかないと。


俺たちはやきもきしながらも待つしかなかった。



そんな俺たちを王太子はある日、食事に招いてくれた。

「ユウリ殿は食事どころではないかも知れませんが、こんな時こそ努めて食べなければ。貴方まで倒れる事があれば、ウォードガイア公爵にも心配を重ねてしまいますよ。」

「…ありがとう、ございます。」

なんとか、笑みを浮かべる。

「私の前で無理をする必要はありません。臣下の礼も不要です。共に、姫のために尽くしましょう。」


アルベルト王太子、本当にいい人なんだよな。


なんだか、初対面では良くも悪くもいかにも王子様、という感じで、あまり近づきたくなかったけど、本当に変わった。


レンブラントもハルディアも俺の肩を叩いたり、「大丈夫だ。」と笑いかけてくれる。

俺はとても周りに恵まれている。

みんながいてくれるから、こうして正気でいられると、そう思う。


ねーちゃんのことを心配しつつも、少しほっこりしていると。


「ユウリ君!」


突然名前を呼ばれた。

誰かと思って声の方を向いてみると、そこには思ってもみない人がいた。


マナミちゃん?


「なぜ貴女がここにいるのですか?」

ハルディアが俺と王太子を後ろに庇い、レンブラントが一歩前に出る。


「このところ、みなさん元気がなかったでしょう?学園だと、なんだか話しかけづらくて。出かけるのが見えたから、追いかけてきたの。」

マナミちゃんは悪びれもせずにそう言ってにっこりと微笑んだ。


「後をつけてたって事か?!」

ハルディアが大きな声を出す。

「だって、なんだか心配で!私にも何か手伝えるんじゃないかなって思って!」

胸に手を当てて、上目遣いにこちらを見る。


俺たちが困ったように顔を見合わせていると、マナミちゃんは目を伏せた。

「…ごめんなさい。私、どうしてもみんなの事が心配で…。ねぇ!ユウリ君のお姉さんに何かあったんでしょう?ユウリ君、大丈夫?私に話してみて?私、この世界の聖女だもの!きっと役に立てるわ!」

マナミちゃんが自信ありげに言った事に、俺たちは驚いて動きを止める。


「…なぜそれを知っている?」

ハルディアが苦々しく呟いた。


「少し前に、空き教室で話してたでしょう?私、偶然それを聞いてしまったの。」

マナミちゃんは申し訳なさそうにそう話すが、レンブラントもハルディアも胡乱な目を向ける。


「貴女が出来る事などありません。この事はどうぞお忘れください。」

レンブラントの声色はもはや絶対零度だ。


「私はユウリ君に言ってるの!

ユウリ君は私の大切なお友達だもの!

そのお友達が困っているなら、手を貸すのは当然だわ!」

ねーちゃんの事が心配で、何も考えられない感じだったけど、あまりの言動に一瞬その事を忘れた。


ヤッベェ…。

本当になんていうか、話を聞かない。

空気が読めないっていうか、聞いちゃいけない話だとか、思わなかったのだろうか。


レンブラントは思ってもみなかったマナミちゃんの切り返しに、目を見開いたまま固まってしまった。


「レン。どうやらトキコ姫の事も嗅ぎつけてるみたいだし、とりあえず連れて行こう。どっかでヘタに吹聴されても困る。」

ハルディアがイラついた声でそう言って、俺たちはみんなで仲良くため息をついた。



お読み下さりありがとうございました。

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