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私は、空を飛んでいた。


……と、いうより、落下していた。


「ぎゃああああああ!!おぉぉちぃぃるぅぅぅぅ!!!」


超高速で上方向へ過ぎ去っていく景色に

たまらず大絶叫する。


「うるさ!ちょっと斗季子!耳元で叫ばないで!大丈夫だから!」

私を抱き抱えているユージルは、迷惑そうにそう言った。


そんなこと言ったって!!

これが叫ばずにいられようか!


ロープ無しのバンジージャンプ、いや、

パラシュート無しのスカイダイビングだ!


涙どころか鼻水も垂らして迫り来る地面に慄いていると、ふ…とスピードが落ちた。


ゆっくりと羽のように落下スピードが落ちた事で、私はやっとまともに呼吸をする事が出来る。


マジで死ぬかと思った…。

絶叫マシーンも苦手なのに、なんて目に合わせてくれたのだ。


「はへぇぇぇ……。」

なんとも情け無い声を出して、私はユージルに力無くもたれかかった。

「まったく…。大丈夫だって言ってるのに…。はい、ちーんして。」

ユージルはどこから出したのかハンカチを取り出して私の顔を拭いてくれた。


眼下にオルガスタの街が見える。


あ!朝霞館だ!


ようやくまともに景色を見られるようになり、それを楽しむ余裕も出てくる。


やがて、広大な敷地の公爵邸が近づいてくる。

距離を縮めるにつれ、その屋敷前の広い庭園に、たくさんの人々が集まっていることがわかった。


おや?なんの集まり?


私達はその集まりから少し離れたところにフワリと降り立った。


「あんらまぁ…」


そこで見た光景に、思わず口元を押さえてマヌケな声が出てしまった。

「みなさん、なにやら様子が…」


人々の様子を見ると、みなさん何やら驚いた様子で自分や、近くの人の体を確認し合ってある。

ザワザワと、人々の動揺が伝わってきた。


「俺の力が解放されたからかな。みんな、本来の力を取り戻したんだね。」

不思議に思っていると、ユージルが耳元でそう言った。


私は落下中そのままにユージルに抱き上げられていた。

ちなみにお姫様抱っこではない。

小さい子が親にされる、アレだ。


そんな私に一番初めに気がついたのは、お父さんだった。


「!!!……斗季子?!」


余裕のない、叫ぶような声で呼ばれる。


「お父さん!ただいま!」

ニコリと笑って答えると、お父さんはこちらに猛ダッシュでやって来た。

ギリ…と視線を鋭くして、ユージルを睨みつけ、剣を抜く。


いつか見た、巨豚をやっつけた瑠璃色の大剣と、紅色の日本刀だ。


「てめぇ!斗季子を離せ!」

お父さんが吠える。


それと同時に、周りにいた人たちも臨戦体制になる。

お父さんの周りに、陣形をとりだした。



「ちょっとお父さん?!」

見たこともない父親の殺気だった顔にオロオロと声をかけるが、お父さんは殺気を収める気配はない。


「トキコちゃん!離れなさい!」

エレンダールさんもお父さんの隣に並び、鋭い声を出した。


ええええ、離れろと言われても。

っていうか、何その髪の毛!

ものすごく派手な緑色なんだけど!


私はユージルと顔を見合わせる。


「んじゃ、靴持ってきて?」


そう。

私は裸足だ!

このまま地面に降りる訳にはいかない。


私の言葉に一瞬、その場の緊張感が緩んで、みんなぽかんとした顔になった。


「ば…バカな事言ってないで!そんなの構ってる場合じゃないでしょ!!」

気を取り直すようにエレンダールさんが叫ぶ。


「いやいや、構うところです。あ、でも私の靴、朝霧館に置きっぱなしか…。どうしよう?ゆっ君。」

「俺は別にこのままでもいいけど?」

ゆっ君はそう言って私にスリスリと頬擦りする。


「斗季子!!てめぇ!斗季子になにしやがる!!」

お父さんはそれを見て顔を真っ赤にして激昂した。


うむ。世の父親は娘に近づく男を蛇蝎の如く嫌うというからなぁ。


「ゆっ君、お父さんの前ではやめようか?何事にも段階ってものがある訳だし。」

私はユージルを諌めた。


となると、この抱き上げられている状況もあまりよろしくはないだろう。

私はお買い物アプリで一つ、サンダルを買うことにした。


《商品をお届けします。》


「わあ!なにそれ!便利!」

手元に現れたサンダルを見て、ユージルは感嘆の声をあげた。

「え?こっちでもスマホ使えてしかも超便利になってるんだけど、これって、ゆっ君の加護の力じゃないの?」

「違うよ。俺はこの世界の世界樹だからね。斗季子の元の世界の物は干渉出来ない。」


えー?そうなの?

てっきり世界樹の加護的なやつかと思ってた。

じゃあ、これって、なんなんだろう?


首を捻っていると。

「斗季子!!そいつから離れろ!このままじゃ攻撃出来ない!」

お父さんのイラついた声がした。


なんですと?


お父さんの物騒な言葉に、一度思考を棚に上げることにする。


「ちょっとお父さん!攻撃?!なになに、ゆっ君に攻撃するつもり?」


初めて気がついた事態だけど、反芻してみると、当然かも知れない。


得体の知れない男が突然やってくる。

娘が拉致される

みんなで超心配する

娘、男に抱えられて現れる←今ココ


うん。そりゃあ攻撃だ。


「お父さん。みんなも聞いて。この人はこの世界の世界樹。ユグドラシルだよ。私は今まで、世界樹にいたんだよ。いわば、この世界の守り神だよ。だから、攻撃なんてしないで。」

私の言葉に、その場にいた誰もが呆気にとられた顔になった。

しかし、信じられない、と疑う空気が強く、臨戦体制を解く様子はない。


「そんな…ありえないわ!」

エレンダールさんが、動揺した声を出した。


ユージルは周りの様子に苦笑いになって、うーん、と考えこむ。

「証拠、と言われても困るんだけどね。あ!そうだ!これでどうかな?」

ユージルは思い付いたように片手を差し出し、フッと息を吹きかけた。


すると、3枚の木の葉がそれぞれエレンダールさん、リグロさん、リーズレットさんの元へと飛んでいく。


3人はそれを手にして目を見開いた。

「まさか!これは、失われたユグドラシルの葉?!」

リーズレットさんが恭しく木の葉の乗った手を掲げ、リグロさんも片膝をついた。

「間違いないだろう。我はこれを見た事がある。祖父の代で、戦により失われたものだ。」


それが決め手になったのだろう。

それぞれに息を飲み、顔を見合わせ始めた。

そして、誰からともなく、ばらばらとユージルに跪きはじめた。


「ユグドラニアを守りし世界樹よ。ユグドラシルよ。御身に向かい、なんということを…!非礼の極み、許されるとは思わないが、謝罪させていただく。」

お父さんがさっきとは打って変わって殺気を納め震える声でそう言って深く頭をさげた。


「んー、別に気にしないよ。斗季子が大事だったからの行いでしょ?」

対するユージルはとても軽い。


もうたんぽぽの綿毛ばりに軽い。


しかし、その言葉にふっと周りの空気が緩んで、みんなの顔に安堵の表情が浮かぶ。


どうやら、ケンカは避けられたようだ。


それを見届けて、私はサンダルを引っかけ、ようやくユージルから下りる事が出来た。

ユージルを連れて、お父さん達の元へと向かう。


「お父さん、紹介するから立ってくれる?」

私が促すが、お父さんは臣下の礼をとったままだ。

「しかし…」

「ほら、大丈夫だから。ゆっ君も怒ってないって!」

さらに言えば、そろそろと伺うように視線を上げた。


「斗季子の父君ならば、そう畏まることもない。どうか、いつも通りに。」

ユージルに言われて、ようやくひとつため息をついて立ち上がる。

他のみんなも私とユージルに促されて立ち上がった。


「お父さん。改めて紹介するね?こちら、ユグドラシルのユージル君。」

両手をユージルに向けて言うと、お父さんはぺこりと頭を下げた。


「ユグドラシルよ。私はラドクリフ=ウォードガイア。北のオルガスタ領公爵を拝謁しております。先程の非礼をお許しいただけた事、感謝いたします。」

「ユージルだ。斗季子の言うように、この世界の世界樹、ユグドラシル。ユージルの名は斗季子にもらった。」


打って変わって和やかな空気。

よしよし。


「んでね?私、どうやらゆっ君のお嫁さんらしいんだよ。」

続けて言うと、お父さんは「は?」と呆けた顔になり。


ガシャ…


手にかけられる、二振りの剣。

再びその目に宿る、殺気。


「ちょっと!ラドクリフ?!」

エレンダールさんが慌てて止めにはいる。


「待つのじゃ!!ラドクリフ!!」

リーズレットさんが真っ青になる。


「落ち着け!!ラドクリフ!!」

リグロさんがガシッとお父さんをはがいじめにする。


「やっぱり八つ裂きにしてやる!!!」







お読み下さりありがとうございました。

あらすじでも書かせていただいたのですが、ジャンル別日間ランキングに入る事が出来ました!!

すごい!嬉しい!!

これも応援してくださる皆様のおかげです!

本当にありがたいです…うぅ…。

皆様、本当に本当にありがとうございます!

どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

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