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ここは、どこだ?


目を開けるとサヤサヤと木の葉の擦れるのが見えた。

優しい微風を感じる。


「……あれ?」

むっくりと身体を起こすと、柔らかいベッドの上だ。


辺りを見回すと、大きい透明なドームの中にいるみたいだった。

天井が高い。

ドームの周りは太い木の幹と、おおいしげる若葉。さまざまな色味の緑の葉に囲まれている。

その木の葉の間から優しく日の光が降り注ぎ、あたりを柔らかく照らしていた。


屋外なんだか、屋内なんだか。


ベッドから降りると、フカフカなカーペットが足元を包む。


あれ?私、裸足だ。

靴下はどうしたんだろう?

っていうか、服は?


着ていたはずのカットソーとデニムではなく、白いコットンワンピースになってる。ちなみに素晴らしい着心地だ。


そのままあたりを確認するために歩いてみれば、体育館ほどの広さの真ん中に、カーペットと寝ていたベッドのみが置いてあるようだ。


「ここは、どこだろう?」

思わずひとり、呟いてしまう。

「目が覚めた?」


ビックゥゥ!


突然の背後からの声に痙攣する。

「ごめんごめん。驚かせちゃったね。」

振り返ると、やたら美しい男が笑いながらこちらにやってくる。

「あの…?アナタは?」

聞けば、困ったような顔になって私の両手をとった。

少し冷たい手。

私の手を握るその手を、されるがままに眺めていると。


「俺は、ユグドラシル。この世界の世界樹だ。」

男は優しい声でそう告げた。

言われて途端にこれまでの状況を思い出す。


そうだ!私!


「み…みんなは?!」

探してもいるはずがないのに、思わずキョロキョロとあたりを見回してしまう。


なんだかいっぱいいっぱいになって、泣きじゃくって、そのあと…。


「…拉致されたんだった。」

「ちょっと!ひどくない?!」

私の言葉に男は大層驚いた声を上げた。


「拉致って!あのねぇ!俺は助けたんだけど!斗季子が泣いてるから、悲しい思いをしてるから、一回落ち着いた方がいいってそう思って!」

大慌てで言い訳をはじめる。

一生懸命話すその姿はなんだかかわいらしく見える。


困ったぞ。

私は間違いなく、目の前のこの男に、問答無用で拉致られてきたというのに、どうしてだかどうしてもこの男に負の感情を持てない。


「……洗脳?」

「だぁかぁらぁぁ!!」

男はバタバタと地団駄を踏む。


「だって、おかしいじゃないですか。初対面で、いきなり拉致されて、しかも眠らされて。それで悪意を疑わないとはこれいかに。」

ばっさり言い放つと、男は不満そうな視線を向けてきた。


責めるようなじっとりとした視線を向けられて、流石にちょっと警戒して後ずさる。


「いいかい?俺はね、ユグドラシル。そして君はユグドラシルの愛し子。要するに、俺の愛し子。そんな愛し子に俺が何かするわけがないじゃないか。」


「……意味がわからない。」

「あーもー!どうしよっかなぁぁ!」


男はバリバリと頭を掻きむしった。


だいたい、ユグドラシルとはなんなんだ。

てっきり、世界樹っていうから巨木の事だと思ってたけど、男の人じゃないか。


男は、大きくため息をつくとカーペットに座り込む。

「そもそも、斗季子と俺は女神に結ばれた相手なんだよ。会った瞬間に恋に落ちてもおかしくないんだけど。」

ボソボソとそんなことを言い出す。

「私としては、初対面でしかも私を拉致した変態にこれだけ不信感を持たない自分にびっくりなのですが。」

「…‥恋愛スキルが低いって、言われない?」

「……………。」


痛いところをつかれて沈黙する。


ええそうですとも!

以前、「付き合ってほしい」と言われて

「うん、いいよ。どこに?」と答えてリアル鈍感系主人公と言われた私ですよそれがなにか?!


少々機嫌を損ねて黙り込んでいると、男は再び私の手を取った。

「でもまぁ、斗季子は何も知らないから、仕方ないか。教えてあげる。最初から。斗季子がなぜここにいるのかも、なぜ愛し子なのかも。」

その言葉に私は顔をあげて目を見開いた。


私が1番知りたかった事だ。


いきなり現れて人を拉致するような男だ。

信用するべきではないのだろう。

だけど、何故かこの人は大丈夫だという風に思う。

それが、洗脳なのか、それとも男の言うように、女神とやらに結ばれたからなの何かはわからないけど。

とりあえず今のところ、私を乱暴に扱うような様子はない。話くらいは聞いてもいいんじゃない?

私は一つ頷いて、男の前に腰を下ろした。





お読み下さりありがとうございました。

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