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「なんだと!!大いなる母だと?!」

リグロさんは、話を聞いて驚愕に大声で叫ぶ。

食事が終わるとエレンダールさんも小宴会場にやってきた。


大事な報告があるという事で、急遽、レイドックおじさんやグラニアスさん、ヘンリーさんも呼ばれ、小宴会場は緊張した空気…になるはずだったんだろうけど、その大事な報告をしているエレンダールさんが、甚平さんに首からバスタオルという出立ちだった為、なんだか今ひとつ緊張感に欠ける。


日帰り温泉、行ってたんだね…。


「本当ならリーズレットにも同席してもらいたかったんだけど、どうしても領土に帰らなくちゃいけないらしくて…。あ、でもリーズレットもこの事は知ってるわ。」

そしてオネエ言葉。

やはり緊張感に欠ける。


しかし大人達はそんな事におかまいもせず、お母さんに注目した。

先日発覚した、お母さんのステイタス。

どうやらそれが大ごとらしい。

しかし。


「ねぇねぇ。その、大いなる母って何?なんだか大変なことみたいだけど、よくわからないんだよ。」

思い切って聞いてみると、みんな驚いたように目を見開き、その後、顔を見合わせながら頷き合った。


「そうね。トキコちゃんは知らないのよね。」

エレンダールさんがため息をついた。

「えーっと、私も、わからないんですが…。」

おずおずとお母さんも手をあげた。

するとみんなは示し合わせたようにお母さんの前に並び出す。

「え…?ちょっと…」

様子のおかしいみんなにお母さんも動揺する。


並び終えると、みんなは一斉に跪き、右手を胸に当てて頭を下げた。

それは、お父さんも。

「ぅええ?!なになに?!ちょ…やめ「ユグドラシルを産みし母よ。御身にまみえる事がこの身に起こるなど、これ以上の栄誉はございません。どうか、永遠に我らと共に。ユグドラニアにあらん事を。」は…ハイィィ?!」

エレンダールさんにぶった切られて、お母さんはうわずった声をあげて、私の腕をつかんだ。


そりゃそうだ。

私もお母さんに縋りついた。

なんなんだこれは。


「なになに?!どうしちゃったの?!ちょっと司狼!なんとかして!」

お母さんもたまらず必殺「お父さん何とかして」を発動した。

しかし当のお父さんまでもが跪いてしまっている。


「や…やだやだ!やめてよ〜!みなさんどうしちゃったの?!」

お母さんはおろおろとしてもはや半泣きだ。

「ユグドラシルの大いなる母は、この世界にユグドラシルをもたらし、この世界を作ったと言われる女神の称号だ。」

お父さんが神妙な声で答える。

「え?…えっ…と?つまり?」

お母さんは動揺し切ったで続きを促した。

「ユグドラシルの大いなる母とは、すなわち、創世神を表すものだ。」


ドドーーン!!


お母さんの背後に、日本海の荒波が見えた気がした。

そして。


「…あ。」


「!!カレン!!」

「お母さん?!」

お母さんはフゥ、と意識を失った。

うむ。そりゃそうだ。



倒れたお母さんに、お父さんは蒼白になって急いで駆け寄り、横抱きにするとそのまま部屋を出ていった。

後ろからカテリーナさんも真っ青な顔で着いて行ったから、きっとどこかの部屋で休ませてくれるのだろう。


それにしても。

「お母さんが、創世神…?」

私も呆然と呟く。

お母さんが部屋を出たあと、みんなは礼を解いてくれて、座卓を囲んでいる。

「トキコちゃんも驚いたでしょうね。私たちもとても驚いているわ。まさか、神の称号を持っている人がいるなんて。」

エレンダールさんは私の隣に寄り添ってくれて、そっと肩を抱いてくれている。


私は、ユグドラシルの愛し子。

侑李は、ユグドラシルの賢者。

お母さんは、創世神。

そしてなんだか温泉までもがチート持ち。

異世界の犬で、一番変だと思っていたお父さんが、実は一番まとも…?

なんなんだ!浅葱家!


「我らもカレン様の扱いについてはどうしたものか…。本来なら女神として敬わねばならぬのだからな。」

リグロさんは考え込む。


だけど。

「それ、やめてあげてください。」

私はいまだに落ち着かなくて冷たくなってしまった手をエレンダールさんに握ってもらいながら、声をあげた。

「お母さんは、そんなの、嫌がると思います。お母さんはここで温泉旅館の女将でいたいし、お父さんの奥さんでいたい。特別扱いなんて、きっと嫌がる。」

いいながら、なぜか涙が溢れた。

「トキコちゃん…!」

エレンダールさんが目を見開く。


私も、たぶん色々と溜まっていたのだろう。


「普通の女子大生で普通の一般庶民で、普通に暮らしてきたのに、なんでこんな事に…。」


帰りたいなぁ。日本に。

考えないように、ここでもやっていけるように、努めて明るくしてきたけど、「帰りたい」という想いが一気に心に溢れてくる。


「もう、やだ。」

思わず口をついてしまう。

「帰りたい!日本に、帰りたいよぅ!」

気持ちを自覚してしまうと、込み上げるものを抑えきれずに子供のようにそんなことを言ってしまう。

そしてそのまま、エレンダールさんに泣きついてしまった。


「トキコ姫…!」

リグロさんも心配そうな声をかけてくれたけど、私はそのままわんわんと泣き崩れてしまった。


ここは、楽しい。

家族も一緒だし、念願の温泉旅館も出来ている。

レイドックおじさんも、ヘンリーさんもグラニアスさんも、カテリーナさんも、公爵家の他のみんなもとても良くしてくれる。

エレンダールさん達もみんな優しくてとてもいい人たちだ。

侑李の友達だってかわいい子達だし。

私は、とても幸せなんだと思う。

だけど。


ここは、私が住んでいたところとあまりにも違う。

自分に与えられた《愛し子》という称号があまりにも重い。

みんなが良くしてくれるのは、私が愛し子だからなんじゃないかとか、そんなことも考えてしまう。

だいたい、ユグドラシルの愛し子って、なんなんだ!


もう、どうしたらいいのか…!

今まで蓋をしていたものが、堰を切ったように溢れてきて、泣きじゃくっていると。


「それは困る。俺の愛し子。」

突然、なんの前触れもなく部屋に声が響く。

「?!誰だ!!」

エレンダールさんの警戒した声。

私も思わずピタリと泣き止んだ。

「エレンダール!あそこだ。」

リグロさんも低く唸るようにエレンダールさんに声をかけた。

顔を上げて、リグロさんの視線の先を見ると、部屋の端、座卓の上に緑がかった銀髪の男が座っていた。


「…誰だ。」

エレンダールさんは私を背中に庇い、リグロさんも家族を背後にして臨戦体制をとっている。

グラニアスさんは剣に手をかけた。

男はそれをニッコリと笑いながら見ていた。


不謹慎だが。

なんっって綺麗なひとだろう!!

そしてどこから湧いて出た?

不思議に思いながらも、あり得ないほどのその美貌に思わず赤面してしまう。

相手は不審者だというのに。


「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ。俺は敵じゃないから。」

困ったように笑って男は言った。

なんとも耳に心地よい、涼やかな声。

「誰だと聞いている!」

エレンダールさんは鋭く尋ねた。

射抜かれそうなほどの殺気を放っている。

「俺はね。ユグドラシル。」

そんな殺気を物ともせず、男は柔らかい声色で答えた。

男の返答に、空気が変わった。

ピリリとした戦場のような殺気から、信じられない物を目の当たりにしているような緊張感。


「まぁ、本体はユグドラシルにあるんだけど、俺の愛し子が泣いてるから、意識を飛ばしてきた。せっかくこっちに呼んだのに、なに泣かせてくれてんの。」

男はゆっくり立ち上がってこちらにやってきた。

エレンダールさんは腰を上げて警戒を強めたが、そのままガクンとくずおれてしまう。


不思議だ。

ちっとも恐怖を感じない。

というより、なんだか知っているような、懐かしいような気さえする。


男は私の目の前にくると、しゃがんで私と視線を合わせる。

「はじめまして。斗季子。」

ニッコリと笑われて、なぜか安心した。

男はそっと私の頬を撫でた。


なんだろう。

初対面の、しかも男の人に触られたというのに、まったく嫌な感じがしない。


「…!!…トキコに、触るな…!」

エレンダールさんは、苦悶の表情を浮かべて苦しそうに言う。

どうやら、動けないらしい。


「色々と、限界かな?色々ありすぎたからね。」

聞かれて、思わず頷いてしまう。

「そうだね。じゃ、俺と行こうか。」

男はそう言うと、私の手を引き、その腕に包み込む。

「トキコ姫!」

「トキコちゃん!」

みんなが私を呼ぶ。

それを私は男に抱き上げられた状態で聞いた。


「大丈夫。斗季子が嫌がる事はしない。それに、落ち着いたら返すよ。きっとそれが斗季子の望みだからね。でも。」

フワリと感じる浮遊感。

「今は、俺が連れて行く。」

そっと男の手が瞼に当てられて、かと思ったらみんなの声が聞こえなくなった。




お読み下さりありがとうございました。

皆さまの応援、本当に有り難く励みになっています。

お話も50話を超える事が出来ました。

まだまだ続く予定なのですが、そろそろストックの残量があやしく…。

少しゆっくり更新させていただきたいと思います。

申し訳ありません。

お付き合いいただけると嬉しいです。

完結まで頑張ります!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み進めるのが勿体ないけど、早く読みたい!けど読んじゃうと更新を待たねば…というジレンマにハマってます。楽しい! [気になる点] もうちょっと伏線が欲しいような、でもそれが良いような。 ユ…
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