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ドラゴンは、リグロさんだった。
リグロさん達竜族は、産まれた時はドラゴンの姿でなんと卵から産まれるそうだ。
なんという爬虫類感!
そして自我が芽生える3〜4歳になると、初めて人の姿になり、そして徐々に人の姿でいる時間が増えてくるんだそうだ。
「お父さんも、犬で産まれたの?」
「アホか!人で産まれてるわ!」
ふと気になって聞いてみるとお父さんはムキになってそう返した。
朝霧館。小宴会場。
以前、レイドックおじさん達にやらかした部屋で、私たちはリグロさん達をお迎えしていた。
「本当に、トキコ姫には竜族みんなで感謝しているのです。まさか、ジーノがエンシェントドラゴンだったなんて…。」
そう言って優しく微笑むのはリグロさんの隣に座っている、マクドウェル公爵夫人。リグロさんの奥さんだ。
マーヤさんと言って、緩やかなウェーブの桃色の髪を腰まで伸ばした、おっとりとした美人である。ちなみに巨乳。
なんていうか、母性のかたまり。
私は出会って3秒で懐いた。
桃色のドラゴンはマーヤさんだった。
どうやら鱗の色は髪の色に反映されるらしい。
「で?ニフラの領民には伝えたのか?」
お父さんが聞くと、リグロさんはゆっくり首を横にふる。
「領民達にはまだ伝えていない。家臣達とも話し合い、きちんと式典を開いた方がいいだろうと言うことになってな。しかし、主だった家臣達には通達してある。それはそれは凄い騒ぎになったぞ。いまだにジーノを見て泣き出す者もいるくらいだ。」
リグロさんはそう言って困ったように、しかし嬉しそうに隣に視線を向ける。
そこには、はにかむように笑顔を見せるジーノ君。
「ジーノ君、学校は?」
思わず聞くと、ジーノ君は照れたような笑みを浮かべる。
「事が事ですので、早めに休暇に入りました。学園長もその方がいいだろうと。その分、みんなよりも課題は多くなってしまいましたが…。」
おおう。
なんて融通がきく学校なんだ。
「今は式典のための準備を進めています。ですが、鱗の生え変わりにもう少し時間がかかりそうなので、その間に一度オルガスタへと思いまして。」
説明してくれるジーノ君だが。
うろこ?
生え変わり?
首を傾げていると、リグロさんが言葉を続けた。
「エンシェントドラゴンの継承者は、何色の鱗を持っていても、その鱗が黄金に生え変わるのだ。ジーノもエンシェントドラゴンの継承者ということがわかってから少しずつ生え変わっていてな。完全に生え変わってから式典を行う予定だ。」
リグロさんが話している間、マーヤさんとジーノ君はニッコリと微笑みあっていた。
何という理想の親子像!
見ていてこちらまでほっこりする。
「そうか。リグロ、あらためておめでとう。ニフラの安寧も約束されたな。」
お父さんが言うと、リグロさんは嬉しそうに微笑んで頷いた。
「皆さん、おまたせしました〜!」
そこへ、襖が開いてお母さんがお盆を手に入ってきた。
お盆の上には綺麗に盛り付けられた食事が乗っている。
朝霧館のお客さまの朝食が終わり、手の空いたお母さんは私たちにも食事を準備してくれていたのだ。
私も少し手伝った!
食べやすくて見た目にも美しい松花堂弁当だ!
お母さんはカテリーナさんと一緒にそれぞれの前に箱を並べていく。
「まぁぁ!なんてきれいなの!」
マーヤさんがお弁当を見て感嘆の声をあげた。
「これは…!美しいな!」
リグロさんも目を輝かせ、ジーノ君もワクワクした顔をしている。
「さ、食べてくれ!これは自慢だが、カレンの料理は絶品だぞ!」
お父さん。そこは自慢じゃないがと言うところでは?
自慢しちゃったよこの人。
配膳の終わったお母さんも席に着いて、「さぁみなさん!どうぞ召し上がってください!」と勧めた。
「!!!…ラドクリフ!!本当に美味いな!!」
「美味しいわ!!こんなお料理、初めてよ!」
リグロさん達は松花堂弁当を気に入ってくれたみたいだ。
リグロさんもマーヤさんも驚きつつもなかなかのスピードで食べ進めている。
お口にあったとわかり、お母さんも満面の笑顔になった。
「美味しい…!この、白いふわふわとしたものはなんですか?」
ジーノ君がキラキラの目でたずねる。
「ああ、それは海老シンジョウっていってね?上のソースは柚子っていう果物で作ってるの。」
お母さんが説明するとジーノ君はうっとりと味わう。
「本当に素晴らしいです!とても気に入りました!」
「あら!よかったじゃない、斗季子。」
お母さんに言われて、思わず笑顔になる。
「うん。我ながらじょうずに出来た!」
頑張った甲斐があったよね!
「…え?」
ジーノ君は不思議そうにお母さんを見た。
「それね、斗季子が作ったのよ。少しずつ料理も覚えたいって言ってね?」
「何ですって?!」
お母さんの返答にジーノ君は目を丸くした。
「えへへ。喜んでもらえて、私も嬉しいよ。ジーノ君。」
照れながらそう言うとジーノ君はそのまま固まってしまった。
「トキコ姫が…!この素晴らしい料理を…!」
そしてうっとりとした様子で呟いている。
それを見て、リグロさんとマーヤさんは目を合わせて微笑み合った。
「あらあら…。」
「これはこれは…。」
なんだか嬉しそうに2人で通じあっている。
「……リグロ。変なこと考えんじゃねぇぞ。」
お父さんが何か呟いていたけど、キャッキャとはしゃぐ私たちには聞こえなかった。
お読み下さりありがとうございました。