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うちのリビングは、割と広くてソファでくつろぐスペースの他に、一角を畳にしてある。それは「冬はこたつだ!」と主張するお父さんの希望によるものなんだけど、その6畳ほどの畳スペースにお父さんは侑李をそっと寝かせた。
…っていうか、17歳にもなって父親にお姫様抱っこされる男子高校生って、本人が知ったらかなり嫌な顔するだろうな。
そして私とお父さん、それにお母さんはソファのあるスペースで沈黙だ。
ローテーブルにはお母さんが入れてくれた緑茶が湯気を立てているが、誰も手をつけていない。
お父さんはさっきから膝に両手を乗せて手を組み、その中に頭を突っ込んだまま動かない。
お母さんはそんなお父さんを困ったように眺めて、やっぱり動かない。
降って沸いたような我が家の珍事に、私もなんていえばいいのかわからない。
もう一度、整理してみよう。
まず、門の前にいた巨豚、あれ、どっから湧いて出た?
養豚場から逃げたにしては大きすぎるし、それになんだか鎧つけてたよね?
そして斧もってたよね?
豚ってそんなに頭いいんだっけ?
それともなんか、特別な豚なんだろうか?
ダメだ。整理出来ない。
次行こう。
あの巨豚、きっとお父さんがやっつけたんだよね?なんだかやたら派手な剣のようなもの持ってたけど、あんなのうちにあったっけ?それにお父さん、剣道とかフェンシングとか、そういうスポーツやってたなんて話は聞いたことないけど、あんな大きな剣、よく振り回せたよね?っていうか、あんなに躊躇いなく殺豚出来るもんなの?
…ダメだ。やっぱ整理出来ない。
ここは、お父さんに聞いてみるしかないと、私はグッと手を結んだ。
「…お父さん。」
「…んー?」
意を決して声をかけると、お父さんはそのままの姿勢で小さく答えた。
「あの巨豚、美味しいのかな?」
その途端、ガバと顔を上げて、信じられないものを見る目で見られた。
「え?あぁ、ええ?きょ…きょぶた?」
上擦った声で聞き返される。
「うん。正直、聞きたい事がありすぎて混乱してるんだけど、一つ一つ、片付けようと思って。お父さん、何か知ってるんだよね?」
私がずずいと身を乗り出すと、お父さんはあちらこちらに視線を彷徨わせて、そして諦めたように一つ息をついた。
「…司狼。」
お母さんがお父さんの肩に手を添える。
その手に自分の手を乗せて、お父さんは何かを決意したようにこちらを見た。
「最初の質問がオークウォリアーの味についてってのがなんとも言えねぇとこだがな。あぁ、あれは美味い。」
至極真面目に答えるお父さんになんとも言えない顔になる。
そうか。アレ、美味しいのか。
「あの巨豚、お父さんがやっつけたの?」
続けて質問すると、お父さんはコクリと頷いた。
「そうだ。アレはオークウォリアー。オーク種の中でもかなり上位の強い魔獣だ。滅多に集落には出てこないんだがな。村一つくらいなら単体で壊滅させちまう厄介な魔獣だ。」
おおう……。
なんだかくそ真面目な感じで答えてくれてるけど、言ってることは厨二病だ。
だけどそんなお父さんをお母さんも諌めるでもない。2人とも至って真剣な顔だ。
どうしよう。
「…えっと。それが、なんでうちの前に?養豚場から逃げたの?」
若干引き気味に質問を続ければ、お父さんは再び頭を抱えてしまった。
「わからない。だけどな。」
お父さんは顔を上げて、鋭い目で私を見た。
その目があんまり厳しいもので、私は息を飲む。
なにこれ。この人、誰?
こんなお父さん、知らない。
「いいか斗季子。ここは、おそらく日本じゃない。というか、地球でもない。まったく別の世界線にある、おそらく異世界ってやつだ。」
…………。
はい。うちのお父さん、ちょっとアレな
厨二病患者、確定です!
ありがとうございました。