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「…ってわけで、まあ、当時は妖怪なんかの類も今より信じられてた時代だったし、神隠しにあったんじゃないかってことになったらしいんだけど、この感じだとこちらに転移してたのね。杏樹おばあちゃん。」
助手席から後部座席に移動しておかあさんが説明する。
なんと、うちの家系で本当に転移してた人がいたとは。
お母さんの話だと、私のひいひいおばあちゃんは、ある日畑仕事中に忽然と姿を消したらしい。しかも、幼い子供を残して。
「エレンダールの歳を考えると辻褄が合わない気もするな。俺が向こうで20年以上過ごしてたってのにこっちじゃ10年しかたってなかった。てっきり時間の流れがこっちの方が遅いのかと思ったが、そうとも言えないのか?」
お父さんはハンドルを握りながらふむ…と考えている。
私は三列目のシートに座って、ポテチを齧りながら、話を聞いていた。
ちなみに助手席はリーズレットさんが座っていて、ビュンビュン移り変わる景色にはしゃいでいた。
確か、リーズレットさんもかなりのお年だったはずなんだが、やはり子供に返っているのだろうか?
「アンジュ様はカレン様の曽祖母に当たられる方だったのですね。しかし、アンジュ様の血を引く方にお会い出来ただけでもとても嬉しいです。本当によく似ていらっしゃる。アンジュ様のお美しさそのままです。カレン様。」
エレンダールさんは2列目のおかあさんの隣でうっとりとした目でお母さんを見つめていた。
「…エレンダール、カレンに手ぇ出したら殺す。」
運転席から低い唸り声がした。
「フッ…。カレン様の為ならば貴方とやり合うのもやぶさかではありませんよ?ラドクリフ。」
エレンダールさんはいつものオネェ口調をしまい込んで挑戦的に言う。
「!!なんだと?!エレンダールてめぇ!!」
「ちょっと!!お父さんちゃんと運転してよ!!」
ハンドルそっちのけで身を乗り出そうとしたお父さんに声をあげて、お父さんは運転席に腰を沈めた。
チッという舌打ちが聞こえた。
「司狼、大丈夫よ。余所見なんてしないわ。」
さらりとお母さんが言って、お父さんは三列目からでもわかるほど耳を赤く染めた。
………………。
娘としてとても居た堪れない。
私はお買い物アプリでお茶を買って一気飲みした。
口から砂糖が出そうだ。
「あ、ねぇねぇ、お母さん。そういえばさ、私がいない間、食糧とか飲み物とか足りたの?ラウムさん達も来てただろうし、足りなかったんじゃない?」
ふと、気になって二列目に顔を出す。
これでもか!と大量の食糧と飲み物を置いていったつもりではあるけど、少し心配してたんだよ。
お母さんはなんだか神妙な顔になる。
「それなんだけど…。」
突如、車の中を占めていた桃色な空気が変わる。
お父さんも心配そうにチラリとお母さんに視線を向けた。
「どうした?」
お父さんに促されて、お母さんは小さく頷く。
「ねぇ、あの、ステイタス?って、増えたりするのかしら?」
お母さんの質問に車内の空気はよりピリリとしたものになる。
「お母さん、どういう事?」
「んー、あのね?斗季子が王都に行って、しばらくして、確かに食材が心元なくなったのよ。どうしようかと思ってたら、朝霧館の厨房に突然両開きの冷蔵庫が現れたの。」
………へ?
なんだそれは。
あまりにも荒唐無稽なお母さんの言葉にポカンとしてしまう。
「帰ったら見てほしいんだけど、それがね?きれいなグリーンの冷蔵庫で、試しに開けてみたらね?」
「おい!確認もせずに!!危ないだろう!」
はしゃいで話すお母さんにお父さんが突然声を上げる。
うん。ひどい溺愛っぷりだね。
妻大好きだね。
「うん。でも冷蔵庫に書いてあったから。」
お父さんを華麗にスルーしてお母さんは話を続けた。
「え?なんて?」
促すように聞いてみると。
「《食の女神カレンの冷蔵庫》って。」
………。
車内は静寂に包まれた。
な……!!
「「「なんだってぇぇぇぇ!!」」」
食の女神たるお母さんの言うことには。
《カレンの冷蔵庫》は基本、お母さんしか扱えない。他の人が開けようとしても、びくともしなかった。
《カレンの冷蔵庫》は普段は空っぽだが、なぜか扉に貼り付けられていたホワイトボードに欲しい食材と個数を書くと書かれたものが新鮮な状態で入っている。
《カレンの冷蔵庫》は向こうの食材も対応出来て、例えばお母さんお気に入りの和菓子屋の水羊羹とかも手に入れることが出来る。
《カレンの冷蔵庫》は飲み物についても入手出来る。なのでラウムさん達がきた時にも対応出来る。
………ちょっと!!
何そのチート冷蔵庫!!
「あ、でもね?冷蔵庫だけあって、あったかいものはダメなのよー。あったかいお茶なんかは出せないから、冷たいお茶をレンチンしてあっためないとならないの。」
お母さんは困ったように頬に手をあてる。
……それがどうした?!
あっためればよかろう!!
レンチンで!!
お母さんの話に私はため息をつき、お父さんはハンドルに倒れ込みそうだ。
運転、代わった方がいいかもしれない。
エレンダールさんとリーズレットさんは目を見開いたままごくりと唾を飲み込み、そのままフリーズした。
「そんなわけで、食材やら飲み物やらは大丈夫だったんだけど、冷蔵庫の名前が気になってね?斗季子みたいにスマホでステイタス?ってのを見てみたの。そしたら、転移者、銀狼将軍の番、ユグドラシルの大いなる母、世界を繋ぐ者、食の女神って出てきて…「「まてーー!!」」」
フリーズ状態から復活したエレンダールさんとリーズレットさんの声が重なった。
「今、なんて言ったの…?ユグドラシルの大いなる母…ですって…?!」
「妾の耳が確かなら、世界を繋ぐ者とも聞こえたのじゃが…!」
二人とも顔色が非常に悪いぞ?
フリーズどころか、愕然とした様子のお二人。
そして。
キキー。
「…お父さん?」
突如、止まる車。
「…斗季子、タバコ。」
お父さんは低い声でボソリという。
「え?」
「タバコ、くれないか?」
改めて言われて、私はお買い物アプリでお父さんが時々吸っている銘柄のタバコとライターを買った。
それを受け取ると、お父さんはガチャリとドアを開けて外に出る。
その姿を目で追いかけて、それから首を傾げるお母さんを見る。
お母さんはお父さんが気になったのか、やはりドアを開けてお父さんを追いかけた。
お父さんはひとしきりタバコを吸うと、追いかけてきたお母さんに振り返り。
「ちょっと?!司狼?」
そのままお母さんを抱きしめた。
「カレン!カレン…!!まさか、俺の番だったなんて…!!」
お父さんはお母さんを抱きしめて泣きじゃくっている。
えええええ?
私はどうしたものかとオロオロするばかりだ。
何を見せられているんだ!
両親の抱擁シーンだと…!
居た堪れない!居た堪れないぞ!!
「司狼?どうしたの?ちょ…離して、ほら、斗季子も見てるし!」
お母さんは流石に恥ずかしがってお父さんを引き剥がそうとしているけど、何しろお父さんはデカくて力も強いため、なかなか離れない様子。
「離せるか!こんなに嬉しいことはないんだ!俺に、番がいたんだ!しかもカレンだ!こんなに…こんなに…!」
お父さんは感極まって、感も極まりまくって…おや?
何やらお父さんの様子が…
お父さんの体がぼんやりと光っている。
「え?司狼?」
!!!??!!
私は思わず窓に張り付いた。
お…お…お父さんに!
尻尾とミミが生えておる…!!
お母さんは目を見開いてその様子を見ていた。そして思わず、といったふうにヘタリと地面に座り込んでしまった。
それと同時に、お父さんは…
お父さんは…!!
犬に、なった。
お読み下さりありがとうございました。