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お母さんの言ってたように、たしかに揺れない。

そして速い。

まるで高速道路を走っているみたいだ。

「…あとで確認してみる必要がありそうだな。」

お父さんも低い声で唸る。


私は外の景色を眺めながら、ポテチをつまんでいた。

途中にいくつかの村や街はあるみたいだけど、それを繋ぐ街道の他は基本的に草原が多い。

コンクリートジャングルだった向こうと違ってとても風光明媚だ。

「お?」

走り出して20分ほど過ぎたあたりだろうか。

お父さんが車のスピードを緩めた。

「お父さん?どうしたの?」

運転席と助手席の間から身を乗り出す。

すると、前方に馬車の行列。

「エレンダール達だな。」

お父さんが言って車を停めて、少し先の馬車に向かって歩き出す。

お父さんが近づいて行くと、馬車も停まった。



「ちょっと!!どういうことよ!なんでここにいるのよ!」

最近、怒ったオカマをよく見る気がする。

けっこう距離があるはずなのに、エレンダールさんのアルトの声は素晴らしくよく通る。

何やらお父さんに文句を言っているらしいエレンダールさんの脇をすり抜けて、小柄なリーズレットさんがこちらに走り寄った。

「なんじゃ?!これは?

馬車にしては馬がおらぬではないか!」

興味深々といった風に車の周りをクルクルと見て回っている。

ドアを開けると、

「おお?!トキコ?!」

と目を丸くした。

「リーズレットさん、こんにちは。追いついちゃいましたねぇ。」

なんだか申し訳ないような気分になり、えへへと笑ってみる。

「おかしいではないか!妾達が出立した時、おぬしらは確かまだ迎えを待っておったの?あれからすぐに王都を出たのか?」

「えーっと、20分前くらいに出発しました。」

「嘘をつくでない。そんなはずなかろう。」

リーズレットさんはじっとりと私を見ている。


私たちが話していると、お父さんとエレンダールさんもこちらにやってきた。

「リーズレット!聞いてちょうだい!ラドクリフちゃんの乗ってるのは自動車っていって、馬車よりもずっと速い乗り物らしいわ!王都からオルガスタまで半日かからないって!」 

「なんじゃと?!そんなバカな!」

リーズレットさんは愕然とした。

「ラドクリフちゃん!もちろん私たちも乗せてくれるんでしょうね?!」

エレンダールさんが眉毛を釣り上げてお父さんにグイ、と攻め寄る。

「なんでだよ、お前たち、自分の馬車あるだろう。」

「そちらは後からゆっくりと追いかけてもらえばかまわぬ!必要な荷物だけ持っていれば十分じゃ!」

リーズレットさんも負けずに拳を握った。

「お前たちの荷物なんか乗せたら乗り切らねえよ!」

お父さんは両手をあげて二人を抑えた。

「乗るわ!」

「乗るのじゃ!」

二人も負けずに声を合わせる。


おおう。

この二人、確かかなりいい大人だと聞いたような気が…。

聞いた話じゃ、エレンダールさんに至ってはまさかの500歳超えだったような…。

年を取ると子供に返るっていうけど、500歳じゃあ子供に返って、さらにまた成長したあと子供に返っていてもおかしくないか。


「乗せてあげたらいいじゃない。

うちの車、大きいし大丈夫よ。」

助手席からお母さんが降りてきた。

「…カレン。」

お父さんはため息をついた。


うむ。お父さんは人数制限が理由で乗せようとしなかったんじゃないのだろう。ちょっと気持ちはわかるぞ。

私はあの、大宴会を思い出していた。

おそらくこの2人が乗ったら非常に騒がしくなるであろう。


「おお!そなたは?」

リーズレットさんが明るい声でお母さんに話しかける。

「はじめまして。司狼の…あ、ラドクリフの妻のカレンです。主人がお世話になってます。」

ニッコリと笑ってお母さんが挨拶をすると、リーズレットさんも笑顔で返した。

「妾は西の公爵、リーズレット=アーダルベルトじゃ。

ハイデルト領を治めておる。聞けば、うちのラウムがずいぶんと世話になっておるとか…。手数をかけたの。」

リーズレットさんの言葉にお母さんはまあ!と声をあげた。

「ラウムさんのお知り合いなんですか?とんでもない!

逆にこちらの方がいつもお世話になってます。うちの温泉もすごく気に入ってくれて、よくいらしてくださるし、料理やお酒の試食もしてくれてるんです!私、こちらの世界の人たちがどんな料理がお好きか分からなくて、迷ってたんですけど、ラウムさん達のおかげですごく参考になってて…。」

お母さんが嬉しそうに話す隣で私とお父さんはス…と距離をとった。

リーズレットさんがプルプルと震えだしてる!

「ほほう…?ラウムはそんなにそちらに世話になっておるのか。しかも、ラウム『達』じゃと?という事は、あやつの部下達も一緒になって楽しんでおるという事じゃな?

ほほう…。」

素晴らしい笑顔なのに全然嬉しそうじゃない!


ラ…ラウムさん逃げてーー!!


リーズレットさんはギッッ!とお父さんを睨みつける。

「ラドクリフ!!急ぎオルガスタへ参るぞ!

ラウムのヤツめ!自分たちだけ楽しみおって…!妾が仕事をしているというのに!さっさとハイデルトへ戻らせねば!」

リーズレットさんは車の方へズンズンと進む。

「はぁぁぁ…」

お父さんはやけに大きなため息をついた。


あきらめたんだね。

うんうん。あきらめるしかない感じだよね。


お父さんが後部座席のドアを開けてリーズレットさんを乗せて、さあ私も車に戻るか、と思ったら、背後にまったく動かずに突っ立っているエレンダールさんに気がついた。

「エレンダールさん?どうしたの?

一緒に乗ってかないの?」

声をかけるが、瞬きもせずに一点を見つめている。

視線を追って行くと、その先にはお母さんがいる。

「エレンダールさん?」

エレンダールさんの目は驚きと、憧憬に輝いていた。

心なしか顔も赤いような…。

ええええ。なにこれ。

「…アン…ジュ、様。」

かすれた声で絞り出したエレンダールさん。

私は首を傾げてエレンダールさんに近づく。

「アンジュさま!!」

エレンダールさんは私を無視してお母さんの元へと走った。

そして片膝をついて、右手を胸に当てる。

「ああ!アンジュ様…!生きていらしたのですね!

再びお会い出来る日が来ようとは、このエレンダール、これ以上の喜びはありません…!」

涙ながらに言う。

言われたお母さんだけでなく、私もお父さんも唖然としてしまった。

「ちょ…ごめんなさい。私、なんの事だか…!」

「お忘れでございますか?エレンダールでございます!

私に様々な事を教え、共に過ごしてくださったではありませんか!」

エレンダールさんはお母さんの手を取り、流れる涙を拭いもせずに話し続けた。

「ユグドラニアにお帰りくださったのですね。

私は、貴女に相応しい者となるために今まで精進してきたのです。今ではユールノアールを治めるまでになりました。それも、すべて貴女に相応しくあるため。」

「…おい。」

エレンダールさんの言葉にお父さんが低い声を出す。


そりゃそうだ。

目の前で自分の妻が口説かれてるんだから。

しかもお父さん、子供の私たちが見ていて恥ずかしくなるくらいお母さん命だし。


当のお母さんは渋い顔をして片手をエレンダールさんに握られたまま、こめかみに指を当てて考えこんでいる

「……あ。」

ふと何かに気がついたように顔をあげた。

「ええっと、エレンダールさん、でしたか?申し訳ないのですが、おそらく人違いです。」

お母さんに言われてエレンダールさんは再び動きを止めた。

「それ、多分私のひいおばあちゃんです。

杏樹おばあちゃん。私は曾孫のカレンです。」




お読み下さりありがとうございました。

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