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「アルベ君、ごめんね?子供達とダメな大人たちの世話で忙しくて、アルベ君のご飯なかなか出来なくて。」

ちょっと喉を潤して軽食をつまむ予定だったのに結局大宴会になってしまった。

大人達は酒とつまみを大いに気に入り、特にリーズレットさんに至っては売り切れになるんじゃないかと不安になるくらい飲みまくり、さらにお買い物アプリでウイスキーのビンを10本も買わされ、ご機嫌で帰って行った。

リグロさんも日本酒の瓶と鮭とばのお土産持っていったし、エレンダールさんもワインと高級チョコレート持っていったけれども!

みんな、お金もらうからね!

子供達はアイスクリームを食べさせたら感動して泣かれた。

なんだか可愛かったのでポテトチップやらクッキーやらのお菓子を買ってあげた。

こっちはお姉さんのおごりだ!

アルベ君にも飲み物とか食べ物を勧めていたんだけど、そのたびに「斗季子!緑茶ハイ!」やら、「トキコォォ!妾にウイスキー!ロックで!」やら、「トキコ姫、すまぬが清酒の冷とやらをもう一杯。」やら、「トキコちゃん、このメンチカツって美味しいのかしら?」やら!!

全部ダメな大人たちに邪魔されたよ!

アルベ君はその度に「私は後でいいので。」

と遠慮して、結局隙をみて頼んだわずかなおつまみを口にしただけなんじゃないだろうか?

うわあ、アルベ君、王子様なのに!

本当に申し訳ない。

「アルベ君、明日って時間ある?もし良かったら、お茶でもどう?お詫びに美味しいケーキでも!」

確か、お買い物アプリに有名パティシエのお店のケーキがあったはずだ!ここは奮発しちゃうよ!

「午後には仕事も終わる予定です!姫がよろしければ、ぜひ!」

アルベ君は快諾してくれた。


ってわけで、以前、アルベ君と険悪な雰囲気から交流が始まった中庭の東屋でお茶を飲む事になった。

前はアルベ君がお茶の準備をしてくれたけど、今回は私からのお詫びなので、私の方で準備をする事にする。

とは言っても、美味しいお紅茶の淹れ方なんてわからないので、お買い物アプリで購入した某高級お紅茶専門店の高級アールグレイの茶葉をメイドさんに渡して淹れてもらう。

「これは…!なんと香り高い!」

アルベ君は一口飲んで驚きの声をあげた。

「本当だ!美味しい!」

さすが王宮務めのメイドさんだ!

紅茶は淹れ方で味も香りも全然違うって言うけど、今まで飲んだ紅茶の中でも一番と言っていい美味しさだ!

紅茶を味わったあと、私はケーキを取り出した。

「アルベ君、これ。昨日話してたケーキ。」

綺麗に飾り付けられたケーキを並べると、アルベ君は目を見張る。

「美しいお菓子ですね!このように手の込んだ細工をされたお菓子は初めて見ました!」

そして一つ、チョコレートでコーティングされたザッハトルテを手に取る。

「これは…!ほろ苦く深い味わいと、甘酸っぱい果実のソースがなんともよく合う!美味しい!」

料理評論家の様な誉め方をしてうっとりととろけた顔でケーキを頬張る。

うーむ。さすが王子様だ。

こんな顔見せられたら憧れる女子は多いだろう。

「姫?」

思わずジッと見てしまって、アルベ君に首を傾げられてしまった。

「いや、ごめんごめん。アルベ君、綺麗だなと思って。さすが王子様だよ。」

思ったままの感想を言えば、アルベ君は一瞬目を見開いて、それから手で顔を隠した。

「あ!ごめんなさい!失礼だったよね。そんなつもりじゃなくて「…綺麗なのは貴女だ。」へ?」

割って入ったアルベ君に今度は私が首を傾げた。

アルベ君は今度は何やら真剣な表情で私を見る。

「姫。私は今ほど自分に婚約者がいるのを悔やんだことはない。私に婚約者がいなければ、私は貴女と結婚したいと思っています。」

ちょ…!!

ちょ、待てよ。(もはや常連のキ◯タク!)

何いきなり爆弾投下してんだこの人!

「いや、それは私にユグドラシルの愛し子なんて厄介な肩書きがあるからそう思うんだよ。ちょっと落ち着こうか。」

両手を上げてどうどうと宥めるが、アルベ君はその手をぎゅっと握ってきた。

ひええ!

「いいえ。もし貴女が愛し子でなくても、私はそう思ったでしょう。貴女は私に知らない世界を見せてくれる。それに貴女は王子としてでなく、ただのアルベルトとして私に接してくれる。この事が私にとってどんなに得難く、嬉しい事か!」

アルベ君はどんどん熱量を増している。

ちょっとマジで落ち着いてー!

「姫、もし、もし私が今の婚約を解消したら、私を選んでくれるでしょうか?貴女が私を選んでくれるのなら、私はどんなことをしても貴女を守ると誓います。」

唐突すぎるーー!!

「いや、あのね?アルベ君。私はそんな、結婚とかまだ考えられないし、だいたい、アルベ君と結婚したら将来は王妃って事でしょ?そんなの、無理だよ。」

「では、もし私が王位を捨てたら、考えてくれますか?」

「そんな簡単に捨てられるもんでも無いでしょうよ。だいたい婚約者さんはどうなるんだよ。その人の事もちゃんと考えてあげなよ。」

王位を捨てるだなどと、アルベ君は完全にのぼせ上がって先走ってるとしか思えぬ。

「それは…!たしかにその通りですが…もともと私たちの婚約は家同士のものです。私が王位を捨てれば相手の家も婚約を取り下げるかもしれません。」

ヤベェ。

アルベ君てば完全に一人で突っ走ってる。

「アルベ君。アルベ君は私にとってこっちで出来た最初の友達で、大事な人だと思ってるよ。だから、結婚とかそんな事は出来ない。アルベ君は大切な友達だよ。」

私がきっぱりと言うと、アルベ君はハッとした顔になった。

「…すみません。行き過ぎた事を言いました。自分でもこんな気持ちになったのは初めてで…。どうしたらいいかわからなくて…。」

そう言って握っていた手を離し、しょんぼりとうなだれるアルベ君。

はぁぁ…。

なんとか落ち着いてくれた。

私はポンポンと背中を叩いた。

「アルベ君は箱入り王子様なんだね。でも、これから色んな事を経験していけばいいと思うよ。私だってこの世界に来てまだ少しでわからない事だらけだよ。だから一緒に頑張ろう。」

そう言って気を取り直してケーキをつまむと、アルベ君はフワリと笑顔になった。

「姫…!はい!」

そう返事をしたアルベ君の目が、熱を持ってキラキラとしていたとは、私は気がついていなかった。

  




お読み下さりありがとうございました。

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