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お父さんには申し訳なかったけど、ちょうどスマホを出しているということで、私と侑李のステータスについて、確認してみる事になった。
キンキンの生は少々待ってもらう事にする。
「…んで、改めてなんだけど、これはスマートフォンっていって、離れた人と話をしたり、写真…映像をやりとりしたり、他にも色々出来るんだけど、そういう機械です。」
まずはスマホの説明をしなくちゃで、当然その説明なんて知らない人にするのは困難を極める作業だ。
「説明より見てもらう方が早い。斗季子、とりあえず父さんにかけてみろ。」
お父さんはそう言って胸のポケットからスマホを取り出す。
私は隣でかけてもわかりづらいだろうと少し離れたところに行き、お父さんに電話をしてみた。
お父さんの着信音が鳴り、通話を開始すると、みんな息を飲む。
「あとは、TV電話っていって、前にジーノ君とはした事があると思うんだけど。」
通話をTV電話に切り替えると、画面越しにお父さんの顔と、その後ろで固まっている人たちの姿が見える。
そうだろうなぁ。突然こんなもの見せられたらなぁ。
「……とんでもないわね。これがあれば、商業的にも軍事的にもこの世界を変えることが出来るわ。」
ソファに戻るとエレンダールさんが息を飲んだ。
「あ、それについては無理だと思います。これ、私たちしか使えないみたいなので。」
しれっと言うと、エレンダールさんの目が見開かれる。
「なんですって?どういうことよ!」
なんだか不機嫌になったぞ。
使えちゃまずいんじゃないの?
「試しに、これをどうぞ。」
私がエレンダールさんにスマホを渡す。
「その画面を指でつついてみてください。」
エレンダールさんは私に言われた通りに画面をタップした。
「…なにも起きないじゃない。」
不思議そうに首をひねるエレンダールさんを横目にスッと手を出した。
その途端、スマホは私の手の中に戻る。
「!!」
エレンダールさんは宙を掴む自分の手を眺めて、お父さんを見る。
黙って手を出して、お父さんは渋々自分のスマホを差し出した。
が、やはり同じようにタップしても何も起きず、スマホはお父さんの元へ戻ってしまった。
「なんなのよ!私もそれ、欲しいのに!」
エレンダールさんは子供のように地団駄を踏んだ。
「まあまあ、おそらく、神器というものなのだろう。そうで有れば仕方のない事だ。」
リグロさんが宥めて、エレンダールさんは憮然としながらも気をおさめたようだ。
「トキコちゃんだけじゃなく、ラドクリフちゃんまでそんなの持ってるなんて。」
…気はおさまってなかったみたいだ。とても羨ましそうにお父さんを見ている。
「うちは家族全員持ってるぞ?」
シレッとお父さんが言うと、エレンダールさんは目を見開いた。
「ちょっとなんでよ?!」
「なんでと言われてもなぁ。向こうの世界じゃ、1人一台、持ってるのが普通だったんだ。まぁ、こっちに来てから斗季子のスマホは特に仕様が変化して、まさに神器と言われるようなものになっちまったが…」
お父さんが説明して、みんなは信じられないものを見る目で私たちを見た。
「えーっと、続けますね。」
私は今度は自分のステータスを開いた。
「私のステータスと思われるものは、これです。」
テーブルの真ん中にスマホを置くと、全員そこに注目した。
「HP650、MP700。これもずいぶん高いですが、それよりも称号ですね。転移者、銀狼将軍の子、そして、ユグドラシルの愛し子。最後の酒神のお気に入りというのはよくわかりませんが…。」
アルベ君の言葉に私が驚いた。
は?
急いでスマホを手に取り確認する。
は?え?なにこれ!!
「お…お父さん!なにこれ、なんか、増えてるんだけど!」
なんで増えてるんだ!
しかも酒神のお気に入りってなんなんだ!
「俺もよくわからないが、さっきお前、買い物アプリのレベルが上がったっていってたよな?なんらかの原因でステータスも上がったんじゃないのか?」
酒神が?!
私、そこまでお酒飲んでないんだけど!
呆然とする私の脳内に再びラウムさんが現れた。
「嬢ちゃん!唐揚げにはレモンサワーだぜ!」
とものすごい勢いでレモンサワーを飲み干すラウムさんが!
「……ドワーフ…!!」
考えられるのはそれしかない。
酒飲みを喜ばせた影響だ…!
私はがっくりと項垂れた。
そんな私にお父さんがおずおずと声をかけた。
「ま…まあ、称号が増えて悪い事はないんじゃないか?」
「酒神のお気に入りでも?!」
20歳の女子としては残念な称号なんだけど!
「それより、侑李!もしかしたらお前の方も変化があるかもしれん。」
立ち直れてない私をよそに、お父さんは侑李にそう言って、侑李も自分のスマホを取り出した。
「……増えてるんだけど。なんか、やべえ感じのが。」
侑李は顔を青くした。
侑李のスマホを見ると。
「HPインフィニティ、MPインフィニティ?!何よこれ!それにユグドラシルの賢者は聞いてたけど、ユグドラニアを担う者って…!」
エレンダールさんが驚きの声を上げた。
「俺、ねーちゃんと違ってドワーフに酒も飲ませてないし、温泉旅館やったりもしてないんだけど!!」
「いやいや、侑李、ドワーフに酒をやればユグドラニアを担えるわけじゃないから。」
お父さんが突っ込んだが、侑李はアワアワとして聴こえてないみたいだ。
「ふむ。我が思うに、学園でその3人と友士を結んだ事が原因ではないか?」
リグロさんがそう言いながら侑李の友達を眺めた。
「確かに、宰相の息子に騎士団長の息子、西の公爵の子とならば、次代の中心人物といって差し支えないな。他の3人のステータスがわかればよいのじゃが。」
リーズレットさんがため息をつく。
「王城で確認するしかないわね。すぐにってわけにはいかないけど。」
エレンダールさんも仕方ない、という風に言った。
「私たちみたいにこれでわかったらいいんだけどなー。」
スマホをふりふりしながら私が言うと、
侑李が自分のスマホをジッと見ながら、ぽつりと言う。
「‥‥やってみようか。」
お読み下さりありがとうございました。