3 父、戦う。
「……うわぁぁぁ!!」
ボイラー室を確認していると聞こえてきた悲鳴。
それは間違い無く息子のものだった。
「…侑李!」
一瞬で血の気が引いて、ボイラー室を飛び出す。
その途端感じる、殺気。
そんなまさか…!
ありえない殺気。
しかしよく知った殺気。
魔物が存在しないこの世界では、絶対に感じる事のない殺気。
信じられぬと思考が止まる。
しかしそれとは反対に、身体は母屋の裏の物置に向かって走り出していた。
ガタンと乱暴に物置の引き戸を開け、その奥にしまわれた物に手をかける。
厳重に包まれた布を引き裂いて両手に握りしめた。
もう長い間握られていなかったそれは、そんな事を感じさせないくらいに手に馴染み、思わず苦笑しそうになる。
それより早く、身体強化をかけ俺は走り出した。
身体強化。
魔術の使えないはずのこの世界でそれが出来る違和感を押し込めて悲鳴の元へと急いだ。
そして敷地の門を視界に捉えたその時、俺はありえない物を見た。
オークウォリアーだと…?
そのおぞましい姿に少々の懐かしさを感じてしまうが、それよりもその10メートルほど手前でうずくまる2つの影に呼吸を飲み込んだ。
斗季子!侑李!
大事な2人の子供が今まさにオークウォリアーの餌食にされようとしているのを見て、
一瞬で血が沸騰するような感覚に囚われた。
地面を蹴り、振り上げられた斧の下に入り込む。
ガキィィン!!
瑠璃色の大剣は確かにその斧を受け止め、そして払い、怯んだその巨体に紅色の剣を叩きつける。
ズシャ!
紅色の剣はオークウォリアーの強靭な身体を抵抗無く切り裂いた。
その醜い顔が苦痛に歪むその前に大剣でその首を落とす。
ほんの何秒かの事だったと思う。
第二級災害種とされているオークウォリアーは、本来なら単独で討伐出来るものではない。
だが、自分にとっては他愛もない事だ。
いや、他愛もない事だった。
思ったより腕が鈍っていなかった事に少し驚きを感じた。
何年も、剣を握っていなかったのに。
それどころか、何年も鍛錬すらしていなかったのに。
そしてそのまま、穏やかに歳を重ねたというのに。
感慨に浸ってる場合ではなかったな。
「大丈夫か?!2人とも!」
振り返って声を掛ければそこにはパッカリと同じように口を開けて、ついでに目も見開いてこちらを見ている子供たちがいた。
どうにも居心地が悪くなり、魔獣の血に濡れた二振りの剣のせいにしてみる。
ブン、と剣を払えば剣の持つ魔力によりその血は跡形も無くなった。
それに満足して改めて子供たちに視線を向けると。
長女は眉間に皺を寄せ、長男は「うう〜ん」
と後ろに倒れてしまった。
ありがとうございました。