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結果として、アルベ君がオルガスタに来たいという希望は、有耶無耶になった。

と言うか、とりあえず有耶無耶にした。

アルベ君はあの後、王様にその旨を直談判したらしいのだが、ひどく狼狽した王様がお父さんを呼びつけ、「一体全体、何がどうなってそんな話になっちゃったわけ?!愛し子様を王城に留めるための話じゃなかったの?!」的な事を言われたらしい。

お父さんはとりあえず、王太子を迎えるにはあまりにも体制に無理があると王様に進言して、王様もそりゃあそうだ、こっちも王太子をほいほい行かせるわけにはいかん!ということになり、ついでに私の王城滞在話も一旦有耶無耶になった。

よーしよしよし。

ちなみに私と侑李は王城にある鑑定器具で鑑定された。

それにより、私が間違いなくユグドラシルの愛し子で、侑李はユグドラシルの賢者と言う事が正式に確定してしまった。


そしてその日の夜、王城では盛大な夜会が開かれた。

本当なら私と侑李をユグドラシルの愛し子、賢者として貴族達に紹介する為のものだったらしいが、私たちの滞在の話が流れたので、帰還したお父さん、ウォードガイア公爵の帰還祝いとその子供たちの紹介という形になったらしい。

大っぴらに愛し子、賢者と発表してしまうと、色々と言い出す人もいるらしい。

はっきり言って、夜会とか、出たくない。

どうしたらいいのかわからないし、マナーにも自信がない。

しかしそういう訳にもいかず、私は侑李に「俺の友達も来るみたいだから、紹介するよ!」と慰められ、渋々出席することになった。

「ウォードガイア公爵、並びに御息女リリアンフィア姫、御令息ユウリ殿。」

そう紹介されて広間に入場すると、すでにそこには人が溢れていた。

一斉に視線を浴びて、戸惑う。

「大丈夫だ。」

何がどう大丈夫なのか、まったくわからないけど、お父さんは安心させるようにそう言った。

なんだか侑李はちゃっかり「ユウリ」と元のままの名前で紹介されてるし。

私はといえばだんだんリリアンフィアが侵食してきていて、斗季子が押され気味だ。

それもこれも王都なんぞに来てしまったせいだ。

早く帰りたい。そりゃもう切実に。

「…斗季子。」

しかめっつらでため息をついていると、お父さんに促される。

「…はぁい。」

会場へ歩き出せば、周囲の視線を一身に集めているのがわかった。

うううう…。

居た堪れなく思っていると。

「リリアンフィア姫。」

優しく声がかけられた。

顔を上げるとそこには笑顔のアルベ君。

「慣れない夜会、大丈夫ですか?良ければ私がご案内しましょう。こう見えて王太子です。多少の人避けにはなるでしょう。」

心配そうにそう言ってくれるアルベ君は私と言い合っていた頑なな王子様とはまるで別人だ。

「アルベ君…!ありがとう!」

差し出された手を握ると、アルベ君はほんのり頬を染めて笑う。

「ねーちゃん…。王太子が沼にハマってんじゃん…どーすんだよ…。」

隣で侑李が何かボソボソ言っていたが、私はアルベ君に連れられて会場を進んだ。

「姫、改めて、父と母を紹介します。」

アルベ君は一段高くなっている席に並んで座る王様と王妃様に視線を向けた。

王様と王妃様は、揃って立ち上がり、こちらへ歩み寄る。

「今日は、会えて誠に嬉しかった。王太子とも友誼を結んだと聞く。今後もぜひ懇意にしてもらいたい。」

王様が笑顔でそんなことを言う。

「貴女がリリアンフィア姫ですね。本当に美しいこと。ぜひアルベルト共々、仲良くしてください。」

王妃様もニッコリと笑った。

っていうか、王妃様、めっっちゃくちゃ

美人だな!

こっちの世界の女の人って、カテリーナさんくらいしか知らないけど、それでも王妃様が相当な美人だということがわかる。いやカテリーナさんも相当な美人だけどね!

「も…もったいないお言葉です。」

なんとか礼儀正しくお辞儀をして返すと、王様も王妃様も笑顔で頷いてくれた。

「今宵はぜひ楽しんでいってほしい。」

王様にそう言われ、私はアルベ君に再び手を引かれた。

またもや会場内の視線が集まるが、アルベ君はそれを避けるように料理が並ぶテーブルに連れて行ってくれた。

「姫、我が王宮の料理人達が腕を振るった料理です。ぜひ召し上がってください。」

アルベ君がそう言うと、どこからともなくメイドさんがお皿を差し出してくれた。

「あ…ありがとう。」

受け取りながら、なんだか至れり尽くせりだなーと思う。

せっかくなので前菜のような軽めの料理を口に運ぶ。

「召し上がっている間は話しかけない作法です。」

アルベ君はこっそりと教えてくれた。

ああ、なるほど。

アルベ君の気遣いに感心しながら、ゆっくり料理を口に運ぶ。

そうしながら会場を伺うと、どうも私に話しかける機会を伺っている人が何人かいる事に気がついた。

アルベ君、そういうのを避けてくれたんだ。

私の中でアルベ君の株が爆上がりだ。

「アルベ君、ありがとう。助かるよ。」

「礼には及びません。それと、他の人の前では私の事は王太子殿下、と。あらぬ誤解を生みかねませんから。」

アルベ君のありがたいアドバイスにコクコクと頷く。

なんという面倒見の良さだろう。

ひとしきり食べて、気分も落ち着いたところで、私は侑李を探すことにした。

侑李は会場の外、バルコニーで何人かの男の子と話しているようだ。

「侑李!」

声をかけると、侑李は軽く手をあげて、周りの男の子達は胸に手を当てて礼をとる。

あ、アルベ君もいるからか。

「良い。今はリリアンフィア姫の友人としてここにいる。楽にせよ。」

と、実に王子様らしくアルベ君が言って、

「はっ!」

と男の子達も実に臣下らしく答えた。

どこが楽になのだろうか。

「ねーちゃ…姉上、紹介します。僕の学園の友人達です。」

侑李もなんだか他所行きな感じで話してる。

これは…私もそうした方がいいんだろうな。

「そうでしたか。はじめまして。ユウリの姉の、り…り…リリアン…フィア…です…。」

心に傷を負いながら辿々しく言う。

「こちらこそ、お初にお目にかかります。

近衛騎士団長を仰せつかっておりますバルザック侯爵が嫡男、ハルディア=バルザックと申します。」

筋肉質でガタイのいい子が綺麗に腰を折った。

「リリアンフィア姫、私は宰相カーライル侯爵が次男、レンブラント=カーライルと申します。ユウリ殿とは、アカデミーで大変親しくさせていただき、ありがたく存じます。」

線の細い、サラサラストレートヘアの知的な子だ。

「姫。」

最後に、なんだかやたらとキラキラしい美少年が、何故かやたらとキラキラしい笑顔で一歩進み出た。

かと思うと、スッとひざまづき、私の手を取る。

大切そうに手を取られ、なんだかドギマギしてると。

「先日は、お話が出来て大変光栄でした

。私は東の公爵、マクドウェル家次男、ジーノ=マクドウェル。お会いでき、本当に光栄です。」

上気した顔でうっとりと見つめられ、スッと手の甲にキスされる。

「?!?!?!」

驚きで固まって、それから助けを求めるように侑李を見ると、侑李も目をかっぴらいて固まっていた。



お読み下さりありがとうございました。

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