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王城の絢爛豪華な応接室。
そこでお父さんと侑李、それにエレンダールさんをはじめとした公爵の皆さんは私を待っていた。
メイドさんに連れられて、部屋に案内されると、侑李が心配そうに小走りでこちらに来た。
「ねーちゃん…!大丈夫だったか?!」
若干顔色がよろしくない。
どうやらすごく心配していたみたいだ。
お父さんも、公爵さん達も、ヘラヘラしながら入ってきた私に視線を集めた。
「何を言われた?事によっちゃ、今後の対策を話し合わないとなんねぇからな。」
神妙な顔でお父さんは私をみる。
何を?
なんだっけ?
なんだか、王太子があまりにも悲惨な青春を送ってたもんだから、よく覚えてない。最初はちょっとケンカ腰だったと思うんだけど。
私は廊下に顔を向けた。
「ねーねー、アルベ君、最初、どんな話してたっけ?」
私が廊下のアルベルト王太子、通称アルベ君に声をかけると、アルベ君は困ったような顔になった。
「もし、公爵がよろしければ、私からお話しましょうか?」
そう言われて大きく頷く。
「そーだねー。私、上手く説明する自信ないし…ってわけで、お父さん、アルベ君も入っていい?」
今度は部屋の中に聞いてみると、みんな一様に固まっていた。
「お父さん?」
はて?と声をかけてみると、
「王太子殿下が、いらっしゃるのか?」
かすれる声でお父さんに聞かれた。
「ん?ああ、うん。来てもらっちゃった。友達になったんだ。アルベ君と。」
ニコニコとそういうと、エレンダールさんがソファに崩れた。
「ア…アルベ君、ですって?もしかしなくても、アルベルト王太子殿下の事よね?」
額に手を当て、ふぅぅ、と息を吐くエレンダールさん。
「フフフ、これはたまげた。愛し子様は、豪胆よのう!」
楽しそうに笑ったのは、西の公爵、ドワーフのリーズレット=アーダルベルトさんだ。。肩までのレンガ色の癖毛で猫のような目をした少女のような可愛らしい公爵さんだ。
「実におもしろい!」
東の公爵、竜族のリグロ=マクドウェルさんも手を打って興味深いといった顔をしている。黒いストレートのロングヘアに金色の切長の目をしたリグロさんは大柄で、落ち着いた雰囲気をしている。
「ねーちゃん…。」
侑李はすっかり困ってお父さんを見る。
「…とにかく、殿下を廊下で待たせるなど、ありえない。すぐにお入りいただきなさい。」
「王太子殿下、娘が大変ご無礼をいたしました。どうかご容赦いただきたい。代わって私が伏してお詫び申し上げます。」
お父さんはガバリ!と頭を下げてアルベ君に謝った。
「いいえ、ウォードガイア公爵。頭をあげてください。むしろ、先程の姫との話では私の方こそ、姫に対してずいぶん無理を言ってしまいました。」
アルベ君はふわりと笑ってそう言った。
それを見て、公爵達の目が見開かれる。
「嘘。これが王太子殿下?」
思わず、と言った様子でエレンダールさんが呟き、急いで口をつぐみ、視線を落とす。
「先程まで、私は姫をこの王城に囲い込み、我が王家の為にそのお力を使うようにと、そう話をしていました。当然、姫にとってそれが最善であり、姫もそれを望むと考えていたのです。」
アルベ君は少し恥ずかしそうに話す。
「間違っていました。姫の希望も聞かず、そうであると思い込んでいたのです。姫が、私にそれを教えてくれたのです。」
アルベ君はそこで私に視線を向ける。
何その笑顔。
なんでうっとりした顔で私のこと見てるの。
「それだけでなく、姫は私の王太子としての見識の狭さも教えてくれ、さらにこんな私と友人になってくださるとおっしゃってくださったのです。もう一度、青春、とやらをやり直そうと。」
ちょっと!
なんだかアルベ君の中の私が大変なことになってる!!
そんなにご大層な事を言った覚えはない!
「私は今まで、友人というものを持たずにきました。王太子として、それが当たり前でそのことに疑問すら持たなかったのです。ですが、そうではなかった。」
しみじみとアルベ君は話した。
「姫が友達になろうと言ってくださった時、私がどんなに嬉しかったか。その時に握ってくれた姫の手が、どんなに温かく感じたか。私は生涯、忘れる事はないでしょう。そして、私は何としても姫の事を守ろうと、姫の気持ちを守ろうと誓ったのです!」
アルベ君は瞳をキラキラとさせ、大変盛り上がった様子で話す。
うん。
わかったぞ!
これはあれだ。
はじめての友達に完全に舞い上がってるんだ。
本来なら幼少期に済ませるイベントをこの年齢まで持ち越してしまったためにこんなことになってしまったんだ。
1人納得していると、侑李が呆れたため息をついた。
「ねーちゃん、やらかしたな。」
「やらかしたわねぇ。」
「うむ、やらかしておるの。」
「見事なやらかしだ。」
エレンダールさんもリーズレットさんも、リグロさんも、立て続けに言い放つ。
お父さんは「はぁぁぁぁ。」と大きくため息をついて頭を抱えた。
ちなみにすっかりはじめての友達に酔っているアルベ君は聞いてない。
「とりあえず、王太子殿下は斗季…リリアンフィアの意思を尊重するという考えでよろしいという事でしょうか?」
お父さんがそう聞くと、アルベ君は大きく頷く。
「ええ。もちろんです。姫がウォードガイア公爵領での暮らしを望むのなら、私はそれを尊重します。」
笑顔でそう言うアルベ君に公爵さん達は顔を見合わせて頷きあった。
「ただ…」
遠慮がちに続けるアルベ君に再び注目が集まる。
「姫がウォードガイア公爵領にいらっしゃるのなら、ぜひ私も。王位を継ぐ前に、姫の側でたくさんの事を学びたいと思います。」
?!
なんだって?!
聞いてないよ?!アルベ君!
お読み下さりありがとうございました。