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異世界転移して、苦節3ヶ月と何日か!

我が朝霧館も順調にお客さんも増えて来てるし、日帰り温泉「朝霧の湯」もおかげさまで大好評だ!

特に、冒険者、と呼ばれる皆さまには非常にありがたがってもらってる。

「嬢ちゃん!来たぜ!」

「こんにちはラウムさん!いつもありがとう!」

日帰り温泉の家屋を建ててくれたラウムさんは、あれからしょっちゅうここに来てくれる。どうも王都には故郷から仕事のために長期滞在しているみたいで、何回か朝霧館に長期で泊まれないかと打診があったのだが、長期滞在のお客様は受け入れていないことを伝えたら、すごく残念がられた。

そして毎日のように日帰り温泉に通い、たまに旅館の方に一泊して帰っている。

ラウムさんの部下のドワーフさん達も、かなりのお得意様になってくれた。

「嬢ちゃん!あの、ビールって酒はあるかい?出来たら風呂上がりに一杯やりたいんだが。」

ラウムさんと共にやってきたドワーフさん達にソワソワとおねだりされて、大きく頷く。

「承知しました!大ジョッキで準備しときます!あと、あれですよね!餃子!」

私が答えると、ラウムさん達は満面の笑顔だ。

「さすがだぜ!嬢ちゃん!」

ラウムさん達はそう言うと、ゾロゾロとお風呂の方に向かっていった。

私は受付を離れ、休憩所の方に向かう。

「ケニスさん!大ジョッキと餃子、大量に入ります!ラウムさんたちが来ました!」

私が休憩所横に作られた調理場に叫ぶと、料理人のケニスさんが頷いた。

「了解です!トキコさん!…お前ら!ドワーフだ!ジョッキ並べろ!」

部下の料理人達に喝を入れる。

ケニスさんはもともとなんと、公爵家の副料理長だった人。

なんでも、お母さんのお弁当を食べて、それにいたく感動し、こちらで働くことを強く希望して来たとのことだ。

公爵家に来る前は領都で料理屋をやっていたらしく、公爵家の料理長にスカウトされたらしい。

せっかく公爵家でお上品な立居振る舞いを身につけていたのに、それが少しずつ今までの庶民的なものに戻ってしまっている。

ちょっともったいない。

しかしそれを指摘すると「こっちの方がやりやすいし、料理に集中出来る」との事なので、まあ、いいのだろう。

「ケニスさん!餃子、ここに出しとくね!」

私は食糧庫から大量にチルド餃子を運んだ。

「ありがとうトキコさん!いつもながら、なんてきれいに揃った餃子だ!」

あたりまえである。

工事で機械で作っているものであろうから。

食糧庫。

そこは、表向きは食材の貯蔵庫だ。

実際に玉ねぎやらじゃがいもやら、食材がわんさか詰め込まれている。

だがしかし!

食糧庫の奥にはもう一つ、鍵付きの小部屋が作られていた。

その部屋は6畳程の小さな部屋にテーブルが置かれただけのものだ。

あと、カートがいくつか。

部屋は常に施錠されていて、私しか使えないようになっている。

なんの部屋かといえば。

「うーん、あの人数じゃ樽で買った方がいいよね…。お!これがいいか!」

《商品をお届けします》

ポン!

テーブルの上に並ぶ、大量の樽。

私はカートにそれらを乗せて小部屋を出た。

あとはケニスさん達に運んでもらおう。

「ケニスさーん!ビールお願いしますー!」

私が叫ぶとケニスさんはいそいそとこちらにやってきた。

そして冷却魔術のかかったサーバーにビールを移していく。

そうこうしているうちに、休憩所にラウムさん達がドヤドヤとやって来た。

みんな館内着のジンベイさんを着て、ホコホコと湯気を上げている。

「嬢ちゃん、今日の温泉も最高だったぜ!」

いたく満足そうに調理場と休憩所の間に作られたカウンターに顔を出した。

「ありがとうございます!お席でお待ちください。今、ビールをお持ちしますね。」

「いや、嬢ちゃんの手を煩わすわけにはいかねぇ。自分で持っていくぜ。」

ラウムさん達は慣れた様子でジョッキを手にした。

畳敷きの席に足を崩して、ラウムさん達はビールを煽りだした。

「………ぷはぁ!!最高だ!!」

「ああ!まったく、けしからん喉越しだな!!」

「街のぬるいエールが飲めなくなっちまったぜ!」

濃いめのラガービールはドワーフ達のお口に合ったらしい。

私は薄めで飲みやすいエールの方が好みなんだけどなー。

「ラウムさん、餃子出来ましたよー。」

テーブルに山盛りにした餃子を乗せれば、

ポイポイと手掴みで口に放り込み、またビールを喉に流した。

「美味い!!この組み合わせ、信じらんねぇくらい合うな!嬢ちゃん、ビールおかわり!」

次々と差し出される空のジョッキを掴んで私はカウンターに戻った。

もうさ、サーバーここに置いとこうかな。

「斗季子、ラウムさん達、上がった?」

そこへ、お母さんが顔を出す。

っていうか、なにその大量の唐揚げ。

お母さんは大皿に山となった唐揚げを手にこちらにやってきた。

「こ…これは奥方様!」

途端に恐縮し出すラウムさん達。

ちょっと!私と、ずいぶん態度が違うんじゃない?!

「久しぶりに揚げたんだけど、ラウムさん達に味見して欲しくて。」

お母さんはテーブルにドン!と唐揚げを乗せる。

味見?味見の量じゃないよね?

野球部の差し入ればりにあるよね?

「奥方様、これは…?」

ラウムさんは目の前の唐揚げに目を瞬かせた。

「鳥の唐揚げです。鶏肉に下味を付けて、衣をつけて油で揚げたものです。これもビールに合いますよ?」

笑顔で説明するお母さんにラウムさんは一つ喉を鳴らして、恐る恐る唐揚げをつまむ。

一口、頬張り。

「!?!?……あつっ!はふ…なっ?!」

そのまま次の唐揚げに手を伸ばし、さらにビールを飲んだ。

「……ありえねぇ。」

目を見開いて唐揚げとビールを眺めた。

「奥方様!!なんてものを作られるんでさぁ!!こんな美味いもん…!」

その言葉に周りのドワーフ達も我先に唐揚げに手を伸ばした。

「!!!!」

「う……うめぇ!!」

「おいおい!マジかよ!!」

どんどん減っていく唐揚げたち…。

しかし、ちょっと待ってほしい!!

「ラウムさんすとーーーっぷ!!」

私は唐揚げのお皿を取り上げた。

「?!嬢ちゃん?!なにしやがんだ!!」

「ひでぇぞ嬢ちゃん!!」

まるで私を殺さんばかりの威圧だ。

唐揚げくらいで大人気ないぞ!

「いいから!ちょっとだけ待っててください!」

私はそのまま、小部屋へと走った。

「嬢ちゃん?!」

ラウムさんが焦って止める。

そして私は、あるものを手に席に戻る。

ジョッキにいっぱいにされた氷。

そこに焼酎を注ぐ。

相手はドワーフだ、濃い方がいいだろう。

そして炭酸水を入れて、レモンを絞った。

「はい!ラウムさん!こっちと合わせてみて!」

そう言ってジョッキを差し出すと、ラウムさんは顔を顰めた。

「嬢ちゃん、俺たちはドワーフなんだぜ?いくら酒が入ってるったって、果実水なんかで薄めちゃ台無しじゃねぇか。」

不満げなラウムさんにいいから!とさらに進めた。

ラウムさんはしぶしぶそれを手に取り。

ゴクリと一口。

「!!!」

その途端、目を見開いて唐揚げを口に入れた。そしてまた、レモンサワーを流す。

どうやら無限ループに突入したらしい。

なかなか手が止まらない。

レモンサワーを飲み切ってようやくラウムさんは息を吐いた。

「はぁ…いやいや!悪かった!!嬢ちゃん、こりゃなんだ?!果実水で薄めたにもかかわらず、しっかり酒の味が残ってる。なのにさっぱりとして、唐揚げと合わせ飲むと、なんともいえねぇ!」

ラウムさんはうっとりとそう言った。

「でしょー?私は唐揚げにはレモンサワーだと思うんです。」

「ああ!違いない!そうか、これはレモンサワーというのか。嬢ちゃん、レモンサワー、もっと頼めるか?」

ラウムさんの言葉に周りのドワーフ達も騒ぎ出し、お母さんは「気に入ってくれたなら、唐揚げもっと揚げてくる!」

と本館の厨房へ戻り、二度目の唐揚げマウンテンを持って戻ったお母さんに、

「師匠!どうして新しい料理を作るのにお呼びいただけなかったのですか?!」

とケニスさんが半泣きで縋り。

カオスだ。

日帰り温泉「朝霧の湯」は、今日も大変賑やかである。



お読み下さりありがとうございました。

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