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27 弟、聖女について考える。


放課後、とてもウキウキした様子で俺たちの教室にやってきたマナミちゃん。

っていうか、よくわかったね?

たしかマナミちゃんのクラスとけっこう離れてたはず。

少々面倒そうな様子で立ち上がるジーノ達の後ろについて行くと、マナミちゃんは廊下で数人の生徒に手を振っていた。

「彼らは?お友達なのでは?」

それに気がついたレンブラントが聞くと、マナミちゃんはウフフと笑う。

「ええ!クラスメイトなんです!ここまで送ってもらったの!」

「だったらそいつらに案内してもらえよ。」

こちらをチラチラと伺いながら帰っていくクラスメイトを見てハルディアがボソッと呟いた。

「ハルディア。」

ジーノが諌めるとハルディアは不満そうに黙った。

マナミちゃんはそれには気がついていないようで、ニコニコとレンブラントに話しかけている。

レンブラントもニコニコと社交的な微笑みを浮かべて当たり障りなく対応していた。

おお…。もしかしてこれがいわゆる貴族的な対応?

勉強になりますっ!

「それでは行きましょうか。」

レンブラントに促されてマナミちゃんは歩き出した。

その後ろをジーノとハルディアがついて行き、俺は一番後ろから、おまけのようについて行った。

だって、俺もまだ校内の事はよくわからないし!

学園の案内中、俺たちは周りの生徒たちからずいぶんと注目されていた。

そりゃそうか。なにしろ聖女様と一緒なんだから。

何やらありがたそうに拝んでいる人もいて俺まで居た堪れない気分になる。

しかしマナミちゃんはそんな人にもニッコリと柔らかい微笑みを向けていた。

……正直、すごい胆力だと思う。

証拠はないけど、名前や姿からするとおそらく日本人。

俺たちと同じように転移してきたとしたら、動揺も大きいんじゃないかと思う。

けど、あんまりそう見えない。

って事は、異世界転生物のラノベ愛読者?

それにしたって、実際に自分の身に起きたら簡単に受け入れられないだろう。

それとも、実はこの世界の人でたまたま名前と姿が日本人ぽいだけ?

そんなの、確率的に言ったら物凄く低い気がする。

悶々と考えているうちに、どうやらマナミちゃんの教室に着いたらしい。

「先輩方、ありがとうございました!」

マナミちゃんはそう言って笑顔で俺たちを見る。

「ええ、かまいません。それでは…。」

レンブラントはさっさと歩き出そうとして、ジーノとハルディアもそれに倣う。

「あの!」

マナミちゃんはそれに待ったをかけるように声を上げた。

「お礼に、明日お菓子を作ってきたいんですけど、また放課後、会ってもらえます?」

マナミちゃんの問いかけに、俺たちは足を止めた。

レンブラントがニッコリと笑う。

「いいえ、どうぞお気遣いなく。それに明日は所用がありますので、申し訳ありませんが時間が取れないのです。」

レンブラントの返答にマナミちゃんは変な顔になった。首を傾げて何か考えている様子だ。

「それでは失礼。」

レンブラントが言って、俺たちは今度こそその場を後にした。


そのあと、俺たちは教室に戻った。

「あーー!!なんだよ!あれ!聖女ってのはあんななのか?!」

扉を閉めるなり、ハルディアがイラついた声を出す。

「なんか、イメージ壊れた感じ。」

ジーノも疲れたようにため息をついた。

「まあ、気持ちはわかりますが落ち着きましょう。」

レンブラントは冷静に2人を宥める。

3人の姿に俺は少し動揺した。

「え?なんでそんな…。そんなに聖女様らしくなかった?」

俺が見た感じじゃ、みんなにニコニコしてて、確かにすごい胆力だと思ったけど、考えてみれば逆に堂々としてて聖女様らしいとも言える訳で。

「夜会ですり寄ってくるオンナの匂いがした。鬱陶しい。」

「今日初めて会ったばかりでなんであんなに体を擦り寄せてくるの。おかしいでしょ?」

「確かに香水はつけ過ぎでしたね。」

ハルディア、ジーノ、レンブラントがそれぞれ言い捨てる。

なんかみんな辛辣!

「そ…それでも!聖女は国王と同等か、それ以上の立場なんでしょ?そんな風に思っちゃっていいの?」

ひとりタジタジしていると、大きく深呼吸したレンブラントが腕を組みながら俺を見る。

「だから丁重に案内をしたんです。もし、本物ならまずいですから。」

ハルディアもガシガシと頭を掻きながら続ける。

「本物なら、な。ハロルド殿下ってのはな。そもそもがあんまり評判のよろしくない方でな。権力を傘にきて、偉ぶるばかりの能無しだ。」

「本来なら自分に王位があると大っぴらに吹聴するような人です。王位簒奪の疑いありで投獄されるかもしれない事を考えもせず。」

「陛下も扱いに困っていてね。いつ絶縁されて王都を追放になってもおかしくないって言われてるんだよ。」

レンブラントとジーノにも言葉を続けられた。

次々と話されて俺はただ呆然と聞くしか出来なかった。

「ありゃどっかから連れてこられて聖女に仕立てあげられたってのが実のところかもな。お粗末すぎるが。」

「それは無い!」

ハルディアの言葉に思わず反射的に答えてしまい、ハッとなる。

「いや、その。たぶん…?」

「ユウリ、まさか信じたのか?」

信じられないという顔で、ハルディアに見られて目を逸らす。

「そうじゃ、ないけど。」

確かに召喚はされたんだろう。と、思う。

ただ、聖女がユグドラシルの愛し子だというのならば、それは彼女ではない。

じゃあどうして彼女が居るのかはわからないけど。

「ユウリは優しいですから。しかし、十分気をつけてください。彼女が本物かどうかはまだわかりませんが、見極めるまで様子を見た方がいいでしょう。ハロルド殿下が何か陰謀を企てているとしたら巻き込まれるのはごめんです。彼女とはなるべく関わらない方が無難でしょう。」

レンブラントもそう言って苦笑した。

俺は、説明も出来ず、ただ頷いた。


お読み下さりありがとうございました。

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