25 弟、異世界で初めて友達が出来る
授業内容は、正直難しいものではなかった。文化レベルが違うのだろう。数学や国語ははっきり言って小学生レベル。
ただ、地理や魔術の授業はこの世界ならではのもので、ずいぶん興味深かった。
クラスメイトたちはこちらをチラチラと気にする様子はあったが、表立って絡んでくる様子はなかった。
ひょっとしたらこのまま友達が出来ないんじゃ…と不安になりつつ、でもまあ、転入初日だしこんなものだと自分を励まして様子を見る事にする。
結局、その日は誰とも話せずじまいだった。
俺から話しかければよかったんだろうけど、正直どうしたらいいかわからない。
なんだか、ほとんど貴族の子だって言うし。
授業が終わり、寮に戻ってからもズーンと沈んだ気持ちだった。
やっていけるのかな…。
ついつい弱気になる。
「うん!明日は、誰かに話しかけよう!」
気をとりなおして、顔を上げる。
なんだか喉が渇いてしまい、何か飲もうと部屋を出る。
とぼとぼと歩いてると。
「やあ、こんばんは。」
声をかけられて、振り返ると、濃いグリーンの髪を長く伸ばした、やたら綺麗な人がニコニコ笑っていた。
一瞬貞◯かと思った。
ちょっとビクッとなった俺に構わず、貞◯もどきは近づいてきた。
「僕はジーノ。ジーノ=マクドウェル。君と同じ公爵家の者だ。東のマクドウェル公爵家の次男。君と同じクラスだよ。よろしくね。」
そう言われて手を差し出された。
穏やかそうな声に少しホッとしてこちらもその手を握った。
「ユウリです。こちらこそよろしく。」
学園で出来た初めてのまともな会話に少し嬉しい。
「学園はどう?今日は誰とも話してなかったみたいだけど…。」
遠慮がちに言われてピキ、と固まってしまった。
見てたんだ…。どうしよう。コミュ障とかって思われてないだろうか。
「うん、えっと、正直なんて言って話せばいいのかわからなくて。」
タジタジと答えると、困ったように笑う。
「王都は初めて?」
「うん。」
どうしよう。
せっかく話しかけてくれたのに会話が続かない。
でも、どうやら俺を心配してくれてるようだ。
お互いに薄笑いを浮かべたまま、沈黙が降りる。
「えっと。ところでジーノ、様?は、こんな夜中にどうしたの?」
いかん、どう敬称をつければいいのか分からん。
貴族社会で他の貴族に対してどう話せばいいのかわからなくて、辿々しく《様》
をつけてみる。
「ジーノでいいよ。僕もユウリって呼んでいいかな?実は、君のことは聞いてるんだ。父上から。ラドクリフ様がご帰還されたんだってね。」
ジーノはそんな俺の心情を読んだかのようにそう言ってくれた。
優しい言葉にホッとする。
名前呼び出来るクラスメイトは初めてだ。
「そうだったんだ。うん!もちろん!ユウリって呼んでくれたら嬉しい!」
「よかった。同じ公爵家で同い歳の人なんていなくて。もし良ければ、友達になってもらえないかな?」
ジーノに言われて、ぱぁぁっと気分が上昇する。
「こちらこそだよ!友達が出来るか、不安だったんだ!俺で良ければぜひ!」
嬉しいな!ねーちゃんにも自慢しよう!
昼間ずっしりと沈んでいたのが嘘のように心が軽くなる。
「実は話しかける機会を伺ってたんだ。夜食をもらって帰って来たらちょうど見かけて声をかけたんだよ。」
どこか照れ臭そうにジーノは言った。
そうだったのか。
っていうか、夜食なんてもらえるんだ。
俺が不思議そうな顔になっていたのだろう。ジーノは説明を続けてくれた。
「食堂は24時間あいてるからね。朝晩の食事の時間はだいたい決まってるけど、軽食ならいつでも用意してもらえるよ。」
それはありがたい!
夜中に食べるカップ麺も無いし、どうするかなーと思ってたところだ。
お年頃の男子はお腹が減るのだ。
そういえば、カップ麺なんて、ねーちゃん買えるのかな…。
お近づきの印に、ジーノにご馳走するのもいいかもしれない。
うん!頼んでみよう!
「今度、とっておきの夜食をご馳走するよ!口に合うかわからないけど、楽しみにしてて!」
俺がそういうと、ジーノは目を輝かせた。
「ありがとう!なんだろう、楽しみだな。」
ふふふ、といたずらっぽく笑うジーノはそれはもう、今まで見たこともないくらい綺麗で思わず息を飲んでしまう。
この世界のイケメン率はおかしい。
クラスメイトも美形が多かったように思う。
担任の名前、ジャニー先生だっけ?
いやいや、キンバリー先生だったはず。
「じゃあ、僕はこれで。明日、学園でね。」
「うん、おやすみ。」
お読み下さりありがとうございました。