24 弟、学園に行く
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今回からしばらく弟、侑李のターンです。
よろしくお願いします。
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俺、浅葱侑李!17歳!
現役の男子高校生だ!
ある日、温泉旅館をやってる家が敷地ごと異世界に転移!
しかも俺の父さんはもともと異世界人で、しかも公爵だっていうんだから、驚きだよな!
んで、異世界に転移した影響かなんだか知らないけど、俺も銀髪、薄瑠璃色の瞳の美少年に大変身!
さらにユグドラシルの賢者なんて称号までついちまった!
HPもMPも無限大なんだぜ!
そんな俺たち浅葱一家はこの異世界で父さんは公爵の仕事、母さんとねーちゃんは旅館をやっていく事になった!
俺?
俺は、こっちでもスクールライフをエンジョイするぜ!
待ってろ、異世界学園生活!
俺の青春はこれからだ!
「って、まったく青春出来る気がしねぇ。」
気分を盛り上げるために脳内ではっちゃけてみたが、かえってテンションが下がってしまった。
なにやってんだ俺。
「こちらが学園長室です。」
「あ、どうも。」
案内をしてくれた事務員さんにペコリと頭を下げる。
あれから、無事に日帰り温泉施設も完成し、徐々にお客さんも来だした。
俺、超頑張った。超頑張って露天風呂なんて作ってしまった。
っていうか、魔術を使う最初の目的が風呂作りとか、正直どうよ?
だいたい魔術なんてもちろん使ったことなんかないし、どうしたらいいかわからなかったけど、父さんに色々と教えてもらって今じゃかなり使いこなせるようになった。せっかくだから強い魔物を倒す!とかやってみたい気もする。
こちらの世界じゃ日帰り温泉なんて初めてで、お客さんはみんなかなり驚いていたけど、入浴自体が贅沢なこの世界でかなりの好評を博しているらしい。
工事を請け負ってくれたドワーフ達も今ではすっかり温泉の虜だ。
湯上がりにいっぱいやるのが至高の楽しみなんだとか。
ちなみにドワーフ達はねーちゃんの事がかなりのお気に入りだ。
来ると必ず「嬢ちゃん、来たぜ!」と声をかけている。
生活のリズムが少しずつ出来たタイミングで、俺は王都に行く事になった。
本当なら一緒にねーちゃんも来る予定だったが、ねーちゃんはもう少し温泉の方が軌道に乗ってから、と俺だけ早めに行く事になった。
俺は5学年ある学園の3年に編入する事になる。
年齢的にそうらしい。
「ようこそ、我がアルカディア学園へ。」
学園長は大きな執務机から立ち上がってにこやかに俺を迎えてくれた。
「よ…よろしくお願いします!」
緊張しながら答えると、学園長はゆっくりとこちらにやってくる。
てっきりおじいちゃんなのかと勝手に思っていたら、若い女の先生だった。
しかもとびきりの美人。
「私は学園長のエレンディア=フレイニール。どうぞよろしく。」
少し低めの落ち着いた声。
その声に少し緊張が解ける。
「浅葱…じゃない!ユウリ=ウォードガイアです。よろしくお願いします。」
あぶねー。
つい浅葱侑李って言いそうになった。
レイドックおじさんにはユリウスの名を名乗っては?と言われたが、断固拒否してなんとか自分の名前を守り抜いた。
ウォードガイアの方は仕方なかったけど。
こっちじゃ父さんはウォードガイア公爵だからな。
「王都は初めてだとか。ぜひ学園内だけでなく、王都も楽しんでくださいね。」
学園長はニッコリと笑った。
「はい。ありがとうございます!」
俺もニッコリと笑いかける。
「何か困った事があれば、いつでもいらっしゃい。力になります。」
「はい。ありがとうございます!」
同じ事を繰り返す俺。
「なんの。賢者様のお力になれるのです。光栄な事ですよ。」
「はい。ありがとうござ…え?」
思わず聞き返してしまう。
学園長はさらに笑みを深めた。
「兄を通じて、話は聞きましたから。それに貴方からはとても強い魔力の流れを感じます。」
続けられる言葉にポカンとするしかない。
いったい、どういう?
「私は南の公爵、エレンダール=フレイニールの妹なんです。南のユールノアール領はエルフの住む地。エルフ族は魔力の強い種族なのです。」
学園長はそう言うと、スッと髪を耳にかける。
そこには先の尖った例のエルフ耳が!!
え…え…エルフ…!
な…生エルフ!!
アニメで見たエルフ実写版!
っていうか、本当に耳が尖ってるんだね?!
驚いてパクパクしていると、学園長はフフフと笑った。
「その反応。この世界のものではないと一発でわかりますね。この世界でエルフは珍しいものではありませんよ。」
言われてハッとする。
そうだった。
学園に入る前、この世界のことをねーちゃんともどもヘンリーさんに教えてもらっていた。
その時に、聞いたじゃないか!
東の二フラ領は竜族の地。
西のハイデルトはドワーフ族の地。
南のユールノアールはエルフ族の地。
そして北のオルガスタは獣族の地。
っていうか、自分の父親が実は人間ではなく、狼の血を持つ狼人だったと知った時はあまりに驚いてしばらく口が聞けなくなった。
ねーちゃんは何故かワン◯ゅールを準備して「ほーらほら、おいしいですよ〜。お手!」とかやりだして、父さんに怒られてたけど。
なんちゅうメンタルの強さだ。
向こうで父さんは「浅葱 司狼」と名乗っていたけど、そういう事か、と納得したものだ。
そんな事を思い出していると、学園長が俺の肩に手を乗せた。
「まあ、ここではそれに気がつくのも私くらいでしょう。安心して学園生活を送りなさい。」
そう言われてホッとする。
「ここは、ほとんどの生徒がいわゆる貴族階級の子女です。成績優秀などの理由で一般市民の生徒もおりますが、少数です。学園では身分の上下は関係なく過ごす事になっていますが、どうしても影響してしまう事もあります。ユウリ君は公爵令息なのでぞんざいな対応は無いと思いますが、気をつけてください。」
「…はい。」
素直に返事はしたものの、心中は正直不安でいっぱいだ。
密かにため息をついていると、ノックが聞こえた。
「失礼します。3学年担当のキンバリーです。ウォードガイア君をお迎えにあがりました。」
「入りなさい。」
学園長の声に入ってきたのは、背の高い男性教師だった。
「担当教員のキンバリーです。」
キンバリー先生はそう言って恭しく頭を下げる。
「ほらね。」
学園長は苦笑いを浮かべた。
たしかに。
キンバリー先生の態度はとても教師が一生徒にとる態度ではない。
俺は今度は遠慮せずに大きくため息をついた。
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