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「斗季子!!!お前、何やらかしてくれてんだこのアホ娘が!!」
うちのお父さんはでかい。
身体は190センチ近くあるし、がたいもいい。
そのお父さんが
至近距離で私を見下ろし、雷を落とした。
かなりの迫力だ。
「チートの大盤振る舞い。」
私はしれっと答えた。
後ろではレイドックおじさんとグラニアスさんとヘンリーさんがオロオロとその様子を見守っている。
「まったくとんでもないもの作りやがって!!こんなのが世間に知れたらどんな騒ぎになると思ってる!!」
「兄さん!姫は私たちのことを思って」
「レイドックは黙ってろ!」
おじさんが助け舟を出そうとするが、お父さんが一喝して黙らせる。
「あのねお父さん。怒鳴りたいのはこっちなんだけど。なんの因果か知らないけど、異世界とやらに転移して、ユグドラシルの愛し子とかいうわけのわからないものになっちゃって、気が付かないうちにチート能力はてんこ盛りだし、この先どうなるのかわからないし。キレたの。ヤケになったの。」
ツーンとソッポを向いてそういうと、お父さんはようやく少し冷静な顔になった。
「ねーちゃんに1票。だいたいさ、父さんはいいよ。もともとこっちの人なんだろ?でもさ、俺もねーちゃんも未だにこの状況が飲み込めてないんだよ。なのに、ねーちゃんはそれでも前向きに暮らして行こうとしてんだ。」
侑李が援護してくれた。
姉思いの良い弟だ。
若干シスコンの気はあるが。
「見てくれよ、この髪。銀髪だぜ?銀髪!どこのレイヤーかっつうの!」
侑李…気にしてたんだね。
私は思わず可哀想なものを見る目で侑李を見てしまう。
「ねーちゃんその目やめろ。見た目がこんなに変わっちまっただけでも動揺してんのに、アニメやラノベみたいな設定までくっついてきてさ。こんなの、飲み込めるかよ。こういうのはさ、お話の中だから楽しめるの!現実になったら受け止めきれねぇよ。」
侑李がさらに続けて、お父さんはみるみるうちに小さくなった。
「悲観して閉じこもるより、全然いいだろ?本当なら子供二人に口も聞いてもらえなくてもおかしくない状況だぜ?父さん、わかってる?」
侑李の言う事はまったくもって正論だ。
きっとお父さんは今ひとつわからないのだろう。もともと、お父さんの中の常識はこちらの世界のものだ。
私たちの世界の常識は知識として知っているという感じなのだろう。
そのことを懇々と言われ、お父さんは肩を落としてしまった。
「斗季子…。すまん。その、怒鳴ったりして。」
気まずそうに謝る。
私はふう、と息をついて、お父さんを見上げた。
「私も勝手にやっちゃったのは、ごめんなさい。だけど、レイドックおじさんやグラニアスさん、ヘンリーさん、カテリーナさんに感謝していて、何かしたかった気持ちは本当なんだ。お父さんみたいに貴族を知ってるわけじゃないから、してもらいっぱなしは嫌なの。」
そういうと、なぜか背後からすすり泣く声が聞こえてきた。
「姫…!」
「なんという、なんというお優しい!」
「まさにユグドラシルの愛し子に相応しいお方ですな。」
その様子にお父さんは困ったような顔になった。
「…わかった。お前がもたらしたものはとんでもないものだが、公爵家にとっては正に福音だ。レイドックもその二人にとっても身を守る為に充分すぎるありがたいものだ。扱いなんかについては考える必要があるが。」
お父さんかそういうので後ろを伺うと、三人とも大きく頷いていた。
「だがな。これからは易々とこういうものを作るのはやめてほしい。こんなものが作れると知れたら、お前を巡って争いが起きる。」
お父さんは心配そうにそう言って私の頭に手を乗せた。
お父さんが懸念していたのは私の事だったんだとわかって、私も少し反省する。
「うん。わかったよ。」
そういうとお父さんはようやくほっとした笑顔になった。
「さて!飯にしよう!レイドックもグラニアス、ヘンリーもぜひ食べてくれ、可憐の料理は絶品だ!」
「兄さん!知ってる!この前食べたベントーで!」
「あれがまた食べれるとは!ありがたい!」
レイドックおじさんも嬉しそうにお父さんのあとに続いた。
とりあえず、これ以上のお説教はまぬがれたみたいで私はふぃーと密かに息をついた。
お読み下さりありがとうございました。